生滅の一本
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序章
「行くぞ!!親友っ」
雨のふる丘で白銀の聖剣と無銘の鉄槍がぶつかる。明らかに悪質な量産品である槍は聖剣の主……勇者を追い詰めていく。
「何でなんだっ!俺は世界を救わなっ!?」
台詞の途中で吹き飛ばされる勇者。それを行った男はポツリと呟いた。
「済まないな親友。許せとは言わない……俺を恨んで逝け」
槍を構え腰を落とし前を見据えた男。彼はぼそりと呟いた。
「onslaught」
爆発的な加速。一瞬の加速により勇者は彼を見失う。
「っ!!!?」
目の前に迫る槍を見た勇者は聖剣の能力を発動させる。それは一時的に身体能力を神の領域まで引き上げるもの。素早く避けるが突き出された槍が勇者の頬を掠る。避けた勇者は反撃に移ろうとするが彼の身体は動かない。疑問に思った勇者がふと前を見ると砕けた槍の柄を持つ男の姿がある。
(なん……で?)
折れた槍の先は寸分違わず勇者の心臓を貫き通していた。それだけでなく勇者の身体のいたるところに槍の貫通した痕が残っている。
勇者は何度か痙攣すると静かに事切れた。男は槍をそのままに丘を下った。頬を伝うのは透明な雫。それは雨に紛れて地に落ちる。
その日大陸中の人間に勇者の死が知れ渡った。
数十年後泥沼となった魔族との戦いは終止符が打たれた。全ての魔族は滅び、たった一人粗悪な槍を持った男の生き残りにより……。
あるところに世界があった。
その世界には人間……否生物すら居なかった。あるのは不毛な大地と申し訳程度の植物、文明の痕跡のみとなった。
槍の男は独り旅をした。人間、魔族の遺跡を周り圧倒的な力を手に入れた。その力は既に人間ではなく、正しくバケモノと言ってもよかった。
※ ※ ※
かつて親友を殺した丘に座る独りの男。手にしていた槍はとうに風化して既に彼の周りに物はなかった。数千年……人類最後の生き残りとなりそれだけの時間がたった。
(俺は……死ねない。俺の道に散った者を背負うと決めたから)
彼は未だ死ねず不毛の大地に座す。それは斬首をまつ罪人のようであった。
何時も変わらぬ風景。彼の居る場所には雨がほぼ降らず何の変化も訪れなかった。
そんな彼にも転機が訪れた。太陽が沈みまた夜がやってきたと思った時ふと足下に魔法陣が展開される。そして辺りには美しい女性の声が響いた。
(懐かしい……俺以外の声だな。これは……おいおいまだ枯れてなかったのか)
男は泣いていることに気づきそして…………
男の目の前は暗闇に包まれた。
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