最期の祈り(Fate/Zero)
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狂宴のとき……前
前書き
すいません。昨夜、くたばりました。
とりあえずお祭り編スタートです。
祭。その一言で何を想像するか?射的、金魚すくい、型抜き等々……
しかし、祭で一番重要なファクターはもっと別の所に在るだろう。例えば、傍に連れ添った人とか……
ホテルのロビーに風変わりな男が居た。彼の名は衛宮切嗣。嘗て、魔術師殺しの悪名を轟かせた異端の処刑人。彼のトレードマークと言えば、黒いコートと暗機を仕込んだビジネスコートが思い浮かぶだろう。だが、今の彼はそれと対極にあった。
まず、今の彼の格好は戦闘に不向きである。加えて、武器も殆ど仕込めない。一言で言うと、彼は今着流しを着ていた。
(カーニバル……まさか今年のテーマが日本とは……)
フランスの首都パリで行われるカーニバル。それは少し変わったものだった。まず、そのカーニバルにおいて伝統的なフランスのそれは行われない。代わりに毎年あるひとつのテーマを決めて、それに沿った祭りをするというものだった。曰く、「フランスのカーニバルは他がやればいい。俺達は、俺達にしか出来ないことをする」とのこと。
一見、フランスのカーニバルを蔑ろにしているようにも見えるが、実はこの試み、商業的には大成功している。このカーニバルは、簡易的ながらも異文化交流の一翼を担っている。つまり、フランスはおろか隣国からも物珍しさから来る客が絶えない。結果、その過程で生まれる利益により様々な人から望まれたこのカーニバルは、パリの一種の名物になった。
言い換えると、この変則的なカーニバルはパリの町で市民権を得たのだ。
そして今回のカーニバルのテーマは「日本」
結果、切嗣はこの日の為にスタンバっていた和服のレンタル店から着流しを借りる事になった。…………余談だが、彼の着流し姿が余りにも板につきすぎていたので、店のスタッフから酷く驚かれていた。
そんな彼は、今現在ホテルのロビーでかれこれ1時間近く連れ人を待っていた。
「ハァ」
切嗣が都合三回目の欠伸をしたころ漸く待ち人がやって来た。
「ごめん。待たせちゃった」
そこに居たのは、シャルロット・デュノア。但し、彼女の格好も日本の祭りに相応しいものとなっていた。詰まり、浴衣姿。元々色白なので、薄桜色の浴衣と恐ろしいまでに溶け込んでいた。更に長めの金色の髪も団子状にしているため、うなじの白さも損なわれるどころか相乗効果を生んでいる。
「ど、どうかな?」
うっすら頬も桜色に染め、見上げる様に感想を求めるシャルロット。世の男が見たら、泣いて羨ましがるシチュエーションだ。
「ああ、凄く可愛いよ」
ボンッ
何の照らいもなく、彼女が望む答えを口に出した切嗣。結果、一気にその頬を朱色に高潮させ、焦りと嬉しさに顔をへにゃへにゃに崩すシャルロットが出来上がっていた。
「……切嗣のエッチ」
「え、待ってくれ。何か僕がしでかしたのかい?」
いきなり理不尽な糾弾に戸惑う切嗣に対し、そっぽを向いてしまうシャルロット。そして
「……ありがとう」
はにかみながら、誰に言うでもなく本音を吐露した。
――――――――――――――――――――――――
ロビーを出ると、町の熱気が二人を包み込んだ。
「凄いな。雰囲気までそっくりだ」
祭り独特の感覚に身を預けていると、シャルロットが腕にすがり付いてきた。
「ねえ、本当に大丈夫なの?僕、女性物の服なんか着ていて。もし、僕がシャルロットだってバレたら……」
そう、それは非常にまずい。
今回、シャルロットをデュノア社、及びフランス政府から守るに辺り、切嗣が立てた計画の指針は「学園に入学するまでシャルロットが女で在ることを露見させない」である。
(最も、政府になら露見したところであまり問題は無いのだけれど)
一応、脅しのような格好にはなるが政府に対しては有利成るように交渉を運ばせる自信があった。が、それは確実性に欠けるので、なるたけ最終手段にしたいというのが本音だが。
だが、今話しているのはそれ以前のはなしだ。
「大丈夫だよ。今の君を見ても、9割り方シャルロットが女の子だって思われないから」
「それどういう意味?」
少し、頬を膨らませてツンとするシャルロット。聞きようによっては、シャルロットは女の子らしくないと言っているようにも聞こえる。
「違う違う。だってシャルルは男だろ」
「あ」
「だったらシャルルが女物の浴衣なんか着るわけ無い、という先入観があるからそもそも君はシャルルとしてすら認識されない」
この心理作戦は聖杯戦争中に切嗣がとった行動に酷似している。「あの衛宮切嗣が遠坂や間桐の本拠地に近い場所に本陣をおくわけがない」翻っては「男が女物の服を着るわけがない。よってアレはシャルルではない」そんなフィルターがかかるというわけだ。
「前に言わなかったかな?僕の専売特許は騙すことって」
「は、はは」
少し呆れと感心さとが入り交じった笑いを溢す。
「さ、話し込むのも勿体無いし……行こうか」
そう言うと、切嗣は手を差し伸べた。
シャルロットは、その手を絶対に離さないようにギュッと握った。
side シャルロット
最初、あまりの熱気に息がつまりそうになった。同時に不安にもなる。もし、僕がシャルロットだってばれたら……
事は1週間前に遡る。
――――――――――――――――――――――――
「ねえ、切嗣。来週のカーニバルに行こうよ」
僕は、椅子に腰掛け新聞とにらめっこしていた(正確に言うとフランス語と格闘していた)切嗣に声をかけてみた。
「カーニバル?ああ、そう言えばそうだったね」
「ここのカーニバルはヨーロッパでは結構有名なんだよ」
少し興味をそそられたように、新聞を畳んで僕の近くにやって来る。
「そうか……じゃあ、さっさと授業の予習を終わらせてしまうか」
「予習?」
「うん。僕が学園に入ることになったのは急な事だったからね。まだあの分厚い本を読み終えてないんだ」
そうなんだ。じゃあ
「僕も手伝うよ。僕はあの本も読み終えてるし、その他の細々した知識もあるから、ある程度教えられるよ」
うん、考えれば考える程そっちのが良いように思えてくる。
「それに……絶対に切嗣と行きたいし」
――――――――――――――――――――――――
恐らくあの一言が決定打だったのだろう。それから1週間、僕は切嗣の勉強に付き合った。切嗣の呑み込みも凄まじかったので、大体全ての学習事項が5日で終わってしまった。後は軽い復習をし、今日この日を迎える。……そう言えば
「カーニバルに来るの……久しぶりだ」
思わず呟いてしまう。小さな頃は母さんとよく行ったっけ。小さな村で行われる慎ましやかなものだったし、もう大分忘れてしまったけど……それでも、こうして手を繋いだ記憶だけはちゃんとある。
思い出した瞬間、寒気に襲われる。また、繋いだ手が消えてしまうのでは無いか?無性に怖くなり、更に切嗣の腕にしがみつく。
「大丈夫だから」
上から声が聞こえた。
「そう簡単に居なくならないから……」
相手を落ち着かせるように、体に染み込むような声で慰めてくる。
「……本当?」
「ああ、約束するよ」
見上げた顔は……笑みに溢れていた。
「さあ、行こうか。この日の為にシャルロットにも勉強に付き合ってもらったのだし」
「うん!」
何となく、さっきまでの寒さは消えていた。
…………
「切嗣はお祭りに来るのは始めてなの?」
さっきから物珍しそうに、頻りに辺りを見回している。
「小さい頃に、一回だけ父さんに連れてこられたきりだからね…………事実上、初めてと言っても良いかもしれない」
「……そうなんだ」
小さい頃に一回きり……つまり、その時以降一緒に来られない「何か」があったのだろう。
屋台の光が切嗣の手を照らす。握っている手が、何だか血に濡れているように見えた。
「最初は……あれをやってみようか」
光を振り払うように手を上げた先には……子供達が沢山いる。屋台には「金魚すくい」と書かれていた。
「あれは……何て書いてあるの?」
「金魚すくいって書いてあるね。破れやすい紙の網で、金魚をすくうっていうゲーム」
「何か面白そうだね」
そう言うと、引っ張るように金魚すくいの屋台に向かっていった。……その時気付いたけど、お店の人全員ハッピを着ている。フランス人がそれを着るのは……お世辞にも似合っているとは言い難かったけれども、皆楽しそうだった。切嗣に言ってみたとこれ、それで正解と返された。
「祭りは、その場の空気をいかに楽しむかだからね」
最も父の受けおりだけど、と付け加えていたけど。
……
金魚すくいの結果は、僕は五匹目で網が破れ、切嗣は一匹目で穴が空いていた。
「昔から、こういう精密な作業は苦手でね」
苦笑いするように呟く。
「良いんじゃ無いの?お祭りは雰囲気を楽しむものだから」
「ふふ、そうだったね」
そう言うと、切嗣は腰を上げ辺りを見回した。
「……て、守ろ……ものか」
「え、何て言ったの?」
呟くように、小さな声で囁いた切嗣の声。何か大切な物のような気がして聞き返してしまった。
でも、切嗣は柔らかく笑って何も答えてくれなかった。
ただ、目尻に微かに浮かんだ涙が、妙に印象に残った。
そこからは遊び倒した。射的、当てくじ、ヨーヨーすくい……気が付けば、二人ともへとへとになっていた。
「凄く楽しかったね」
「そうだね……あぁ、遊び疲れるなんて何年ぶりだろうか」
そっと切嗣の顔を覗き込む。それは遊び疲れた子供のようなひとみだった。
「……今日はもう、帰ろうか」
カーニバルは二日間続く。ヨーロッパではかなり短い部類に入るけど……その分密度はかなり濃い。
「そうだね……今日はもう帰ろっか」
告げると、どちらからともなく手を繋ぎ家路を辿っていった。
後書き
今回の祭り、これは完全に僕の妄想の産物です。何でフランスの祭りにしなかったのかって?知らないからですよ。一応、この話先に友達に見せてから掲載しているのですが突っ込みが入ったので「呟き」のほうで釈明する予定です。
あと、フランスの季節とか気にしないように!!気にしたら敗けです!というか見逃して下さい、お願いします。祭りネタは、プロット上ここくらいしか挟む余地が無かったんですよ……
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