スーパーヒーロー戦記
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第33話 史上最大の侵略
ウルトラセブン救出作戦は無事に成功した。しかし、ウルトラセブンことモロボシ・ダンは重症を負って倒れてしまい、また、救援としてやってきたクロノもまた何者かによって何処かへ連れて行かれてしまった。
戦力も削がれてしまっており、今のガーディアンズはかなり厳しい状況に追い込まれていた。
「ダンが無事だったのは良いが一向に目を覚まさん。それにクロノ君も敵に捕まってしまった。今敵の襲撃を受けたら我々だけで果たして対処出来るかどうか…」
キリヤマ隊長は不安を呟いていた。
ウルトラマンを失い、セブンも傷つき、ゲッターとマジンガーも今は修理で動けない状況下である。
高町なのはが目を覚ましたと言うが果たして戦える状況かどうか?
心配なので本郷と一文字を科学特捜隊本部へ向わせておいた。この時を狙ってショッカーが動き出したら大変だからだ。
少なくとも此処ウルトラ警備隊本部はそうそう攻め込まれる危険性がないのが唯一の救いでもある。
「それで、ダンは大丈夫なんですか?」
「何とも言えん、今アンヌが診断しているのだが…」
ソガの言葉に歯切れの悪い言い分をする隊長。その時、突如モニターから映像が映し出された。其処に映っていたのは敵によって連れ去られたクロノであった。
「クロノ君!」
皆の視線が集まる。だが、クロノの目は濁った色をしており生気が感じられなかった。そんなクロノが単調に語りだす。
『地球人よ、無駄な抵抗は止めて我々ゴース星人に全面降伏せよ』
「なんだと!」
まさかの異星人の出現に場は騒然となる。そんな中、話は続いた。
『もし、降伏を受け入れるのなら、火星の一部にある地下施設を諸君等に提供しよう。だが、受け入れぬのなら、地球人口約30億人は皆殺しだ!』
「地球人類皆殺しだと!」
今までにない恐ろしい事を言い放ってきた。その発言を聞く限り明らかに今までの異星人とは違った脅威を感じさせられる。
『地球は空と海の防衛力は強大だが、地底の防衛力は皆無に等しい。我々は地球を地底から攻撃出来る地底ミサイルを所有している。これを用いて世界各国を攻撃すれば、人類を殲滅する事など容易い事だ』
その言葉の後に洗脳されたクロノは不気味に微笑んだ。もしこれがハッタリでないと言うのであれば恐ろしい事だ。
「隊長! 奴等の降伏勧告なんて無視して戦いましょう! 奴等に降伏する位なら戦って死んだ方がマシです!」
「熱くなるなフルハシ! この闘いにいは我々だけではない、地球人類30億人の命が掛かっているんだ。今は下手に奴等を刺激するのは不味い」
キリヤマ隊長が言うのは最もであった。下手に挑んで地球を死の星にしては元も子もない。それこそ本末転倒なのだ。
「よし、ウルトラ警備隊全部隊を持ってゴース星人の基地を特定するんだ! その間、私は上層部にに駆け寄って対策会議の真似事をする。なるべく時間を掛ける。その間なんとしても見つけだすんだ!」
「了解!」
指示を受けたフルハシ、ソガ、アマギの三名は直ちに出撃した。地球全人類の命運を賭けた地球最大の侵略の幕が切って落とされた。地球全人類の生存か破滅か? その結末はこの闘いで決まる事となる。
***
ウルトラ警備隊本部内にある医務室に運び込まれたダンは手当てを受けてベットの上で眠っていた。しかし、その顔色は明らかに悪い。深い苦しみにダンがのた打ち回っている。
すると、そんなダンの前に別のウルトラセブンが姿を現す。別のセブンは倒れて動けないダンを見下ろすと淡々と語り始めた。
【恒点観測員340号…嫌、地球名でウルトラセブン。お前は幾多の侵略者との戦いで深い傷を負った。これ以上この星に留まればお前の命が危うい。光の国へ帰るのだ】
(しかし、この星には未だに幾多の侵略者が居ます。それに、ウルトラマンが居ない今、私までもが戻ってしまえばこの星はどうなってしまうんですか!)
【繰り返す。光の国へ帰るんだ。これ以上ウルトラセブンとなって戦ってはいけない。お前の体の為にもだ。これは命令だ! 良いな? 恒点観測員340号よ】
その言葉を言い終えるともう一人のセブンはダンの胸ポケットからウルトラアイを取り出すと壁に掛けて有るフクロウを模した時計の目の部分にそっと立て掛けた後、その姿を消した。
「い、今のは…」
ゆっくりと起き上がるダン。あれは夢であったのだろうか? それを確認する為にダンは胸のポケットに手を当てる。
ない!
其処には本来有る筈だったウルトラアイがないのだ。辺りを探すと、それは壁にあった時計に掛けられてあった。夢ではなかった。だとすれば自分は光の国へ帰らねばならない。
「ダンさん」
「ダン! まだ動いたら駄目よ!」
其処へフェイトとアンヌがダンの元へやってきた。二人共ダンの事を心配していたのだ。だが、今の二人にあの事を話す訳にはいかない。
自分がもう間もなく光の国へ帰らねばならない事など。
***
ゴース星人の地底攻撃ミサイルの影響で既にユーラシア大陸、アフリカ大陸で甚大な被害が及んでいた。ゴース星人の所有していた地底攻撃ミサイルの威力は強大であり、瞬く間に数千万人の命が失われてしまった。
【返事はまだか? 今から30分以内に返事がなければ次は東京を攻撃する! イエスかノーか、その返事が聞きたい!】
淡々とクロノが語る。30分では時間が無さ過ぎる。もう対策会議など意味を成さなかった。
最早こうなれば降伏も止む無い。そう思われていた時、作戦室にアンヌとフェイトがやってきた。
「隊長、ダンが目を覚ましました」
「そうか…だが、今はとても喜べる状況ではない」
「それって一体…あ!」
フェイトがモニターに映っているクロノを見て声を上げた。何故彼がモニター越しに映っているのか? フェイトには全く分からなかった。
「見ての通りだ。クロノ君は今敵に捕まって洗脳されているんだ。我々は敵の基地を見つけ出そうと駆け回っているのだが、もう手遅れかも知れん」
「隊長…」
ガクリと肩を落とすキリヤマ隊長。その時、捜索に向かっていたフルハシ達が戻ってきた。その顔には生気が宿っている。
「隊長! 見つけました。奴等の基地は火山の真下にあります!」
「そうか、よし! 直ちにマグマライザーに爆薬を積んで突撃させろ!」
「待って下さい! それじゃ捕まってるクロノ君はどうするんですか!」
フェイトが異議を唱える。
今クロノはゴース星人の手にある。基地を爆破すると言う事は彼を見捨てることになる。
フェイトにはそれは出来なかった。あの時、クロノが居なかったら今頃自分はどうなっていたか。
「フェイト…」
「キリヤマ隊長。お願いです。クロノ君を助けて下さい!」
「残念だが…それは出来ない」
フェイトの頼みもキリヤマ隊長は聞き入れてはくれなかった。
「そんな、どうしてですか?」
「我々とて彼を助けたい…だが、もう時間がないんだ。後30分もしたらゴース星人は東京を破壊する。今攻撃しなければ間に合わないんだ。人類数億人の命と一人の少年の命を天秤に掛ける訳にはいかない」
それは余りにも非情な決断であった。誰もがクロノを助けたい。だが、その為には東京に住む人口全てを見殺しにしなければならない。それは出来ない。余りにも辛い決断であった。
「でも、でもそれじゃリンディさんが…」
【私は構いません。お願いします、キリヤマ隊長】
「リンディさん!」
会話に割り込むようにモニターに映ったリンディが言った。
【話は聞いていました。彼の事は構いません。一刻も早くゴース星人の基地を叩いて下さい】
「あんた…クロノは自分の息子だろう? それを見殺しにするってのかい?」
【あの子一人の命と数万人の人間の命を考えたら答えは出てくるわ。それに、あの子も執務官となった日からこうなる覚悟はあった筈よ】
リンディが言い放った言葉は余りにも冷たかった。実の息子を見殺しにしようと言うのだから。その発言を聞いたフェイトは落胆し、アルフは激情した。
「ふざけんな! あんたはあのプレシアと同じだよ! あんたは酷い母親だ!」
【そうね、私は酷い母親ね。たった一人の息子を一人地球に送り込んで、今度は見殺しにしようとしている。でもね…母親だからこそ、これ以上あの子が苦しんでいる姿は見たくないの……だから、出来る事ならこれ以上あの子が苦しむ前に…】
それから先の言葉は聞き取れなかった。だが、その途中から彼女が流している涙から何を言っているのかは大体察しが付いた。
これ以上クロノが苦しむ前に彼を楽にして欲しい。そう言っていたのだ。それが、母親であるリンディの出来るせめての事なのであった。
「分かりました。直ちに基地爆破の準備を進めるんだ。なるべく一発で基地を全て焼き払える量の爆薬を積むんだ。彼を…一息で殺せるだけの量を…」
無念の気持ちで一杯になりながらもキリヤマ隊長は命令した。その命を受けたフルハシ達も重い肩を下げながら静かに頷き行動に移った。その間、フェイトとアルフの二人は動く事が出来なかった。彼等の行動を阻害できなかったのだ。自分達では彼等を助ける事が出来ない。その無力さが悔しかったのだ。
だが、此処に一人全く違う考えを持っている者が居た。先ほどの話の一部始終を通信機で見ていたダンであった。ダンは急ぎベットから飛び起き防衛軍基地を抜け出した。
(彼を見殺しには出来ない…今の僕なら彼を救い出せる)
胸ポケットからウルトラアイを取り出し装着しようとした。その時、また別のウルトラセブンが現れて手を翳した。
【止めろ! 変身するな! 今度こそお前は死ぬぞ!】
その言葉を聞いた時、ダンは躊躇った。もし此処で変身したら、恐らく自分は二度と変身する事が出来ない。嫌、最悪…
(それがどうした! 今の僕にとって自分の死よりも彼を見殺しにする事の方が何十倍も辛い!)
自身にそう言い利かせてダンはウルトラアイを装着しようとした。だが、その時背後に人影を感じた。ハッとなったダンは振り返る。其処に居たのはアンヌだった。
「ダン、医務室に居なかったから心配になって探しに来たの…駄目じゃない、寝てなくちゃ」
「アンヌ…」
「ダン、貴方何か隠しているの? もし悩み事があるのなら相談にのるわ! お願い、話して」
アンヌが神妙にダンに言った。その言葉がダンの中にあった何かを突き崩す。その感覚を感じたダンはアンヌを見た。その顔には何かを打ち明ける決意の表情が見て取れた。
「アンヌ…僕は…僕は地球人じゃないんだ! M78星雲からやってきた……ウルトラセブンなんだ!」
「え!?」
ダンからその言葉を聞かされた。視界が一気にフラッシュバックするのを感じた。ダンから目線を外せられない。頭の中が真っ白になっていく。
「ビックリしただろ?」
そんなアンヌを察してかダンがやんわりと尋ねた。それに対しアンヌは首を左右に振った。
「そんな事ないわ…地球人であろうと、そうでなかろうと、貴方がダンである事に変わりないじゃない」
「有難う、アンヌ……だけど、僕はM78星雲に帰らねばならない。僕の体は深く傷つき、これ以上戦う事が出来なくなってしまった。でも僕は、僕は彼を…クロノ君を助けたい! この星を守る為にも、僕は最後の戦いに行く…さようなら、アンヌ!」
ダンがウルトラアイを装着しようと手を上げる。だが、それをアンヌが遮った。
「待って、行かないでダン!」
「クロノ君を助けなければならないんだ! 邪魔しないでくれ!」
そう言ってアンヌを無理やり振り解く。そして、装着しようとした時、ダンはふと、アンヌを見下ろして呟いた。
「もし、もし僕の事が心配なら、明けの明星が輝く時、一つの星が宇宙に向っていくのを見てくれ。それが僕だ!」
そう言い残し、ダンはウルトラアイを装着した。体が一気に変わっていく。光の巨人、ウルトラセブンとなった。
セブンは大空を飛び、ゴース星人の地下基地へと飛び込んでいった。
丁度その頃、ウルトラ警備隊本部から大量の爆薬を積んだマグマライザーが発進した。真っ直ぐにゴース星人の地下基地を目指している。
セブンは僅差でクロノの捉えられていたエリアに到達し、彼を入れていたカプセルごと掴み取り基地を抜け出した。その直後に、マグマライザーに搭載されていた爆薬が起爆し、ゴース星人も含めて地下基地は大爆発を起こした。
それを現すかの様に火山が噴火しだした。ゴース星人の侵略は今此処に費えたのだ。
セブンは地上に降り立つとクロノの入っていたカプセルをそっと地面に置く。其処へ仲間達が駆けつけてくる。
「無事か? クロノ君」
「う…こ、此処は?」
未だふらつく頭で辺りを見回す。自分が助かった事にクロノは気づいたようだ。その時、遠くから怪獣の咆哮が聞こえてきた。
見ると其処に居たのはかつてフェイトが葬った筈のパンドンであった。
しかし、体の各部が機械で武装されている。改造されてパワーアップしたのだ。
セブンは改造されたパンドンと一騎打ちを挑んだ。今戦えるのはセブンしかいない。だが、そのセブンも深く傷つき戦える体ではない。
改造パンドンの前にセブンは殴り倒され、良いように嬲られていたのだ。その光景を警備隊一同が苦悶の表情で見ていた。
そんな時、涙を流しながらアンヌは叫んだ。
「ウルトラセブンの正体は、あたし達のダンだったのよ!」
「な、何だって!」
「ダンは、遠いM78星雲の彼方から地球を守る為にやってきたのよ。でも、これが最後の戦い…ダンは自分の星へ帰らなければならないのよ!」
目を真っ赤にしてアンヌは言った。隊員達の誰もが信じられない顔をしていた。だが、それに続いてフェイトも叫んだ。
「アンヌさんの言ってる事は本当です。ウルトラセブンはあのダンさんなんです。この地球を愛して、地球を守ろうと身を削って戦い続けてきたんです」
「そうだったのか…ダン、お前は本当に良い奴だなぁ…隊長!」
何時の間にか目に涙を浮かべたフルハシがキリヤマ隊長を見た。その隊長も目に強い決意を浮かべていた。
「分かっている。このままダンを見殺しには出来ん! この星は我々人類自らの手で守らなければならないんだ! 直ちに残っているホーク1号でセブンの…嫌、ダンの援護に向うぞ!」
「アルフ、クロノ君、私達もダンさんを助けよう!」
「良いよ、やろうよ」
「分かった!」
皆の想いは一緒であった。皆が手を取りウルトラセブンこと、モロボシ・ダンを助けようとパンドンに攻撃を仕掛けたのだ。
「ダン、頑張れ! 俺達がついてるぞ!」
ソガ隊員がダンを励ます。
「そんな怪獣に負けるんじゃねぇ! 頑張れダン!」
フルハシ隊員が激を飛ばす。
「ダン、負けるな!」
アマギ隊員が叫ぶ。
「ダン、今まで気づかなかった我々を許してくれ、もうお前一人に辛い思いはさせんぞ!」
キリヤマ隊長の強い言葉が振る。
「ダン、死なないで!」
アンヌが祈るように叫ぶ。
「ダンさん、私も一緒に戦います!」
フェイトがダンを助けようと魔力弾を放つ。
「あんたみたいな良い奴を殺しはしないよ! だから負けるんじゃないよ!」
アルフもフェイトと同じく魔力弾を放ち攻撃する。
「ダンさん…僕はまだ貴方と会った事はない、でも僕には分かる。貴方の想いが…だから負けないでくれ!」
クロノも共に戦おうと魔力の続く限り援護した。その甲斐あってかパンドンも流石に攻撃の手が緩んだ。その隙を突きセブンがアイスラッガーを放った。
しかし、それをパンドンはキャッチした。
【な、なに!】
それには驚愕するセブン。
パンドンがアイスラッガーを揺らしながら迫ってくる。恐らく投げつけてこようとしているのだ。
それに対しセブンはアイスラッガーを返す構えを取る。一発勝負だ。これに失敗すればセブンの首と胴体が離れる事になる。
【これが最後の勝負だ……来い!】
戦場に緊張が走った。パンドンがセブンに向かいアイスラッガーを投げつけてきた。高速で飛んでくるアイスラッガー。
それをセブンが自身の残っていた力全てを使い投げ返した。今度はそのアイスラッガーがパンドンの首を切り裂く。
パンドンは自身の身に何が起こったのか理解する前に首と胴体が離れ離れになり、地面に倒れた。史上最大の侵略は今日、此処に幕を閉じた。
そして、人類の夜明けを迎えるかの様に朝日が昇る。そして、それはウルトラセブンの別れの時でもあった。
【明けの明星が輝く頃、一つの星が宇宙に向って飛んで行く。それが僕なんだ】
セブンが宇宙に向って飛んで行った。その光景を皆が見ていた。
「ダンは最後の最後まで俺達地球人を守ろうと戦ってきたんだ。そして、ダンを殺したのは俺達だ…あんな良い奴を…」
「そんな馬鹿な、ダンはきっと戻って来る、きっと元気になって俺達の前に帰ってくるんだ!」
「そうです、きっと…きっとダンさんは帰ってきます!」
夜明けの空に一つの星が宇宙に向かって飛んで行く。きっと、それがウルトラセブン、そしてモロボシ・ダンなのだろう。
誰もがそう想いながらその小さく輝く星を見つめ続けていた。
その星が見えなくなるその時まで、ずっと……
つづく
後書き
次回予告
遂にジュエルシードを手に入れたプレシアが行動を起こした。
だが、そんな時の庭園を突如機械獣軍団が襲撃する。
ガーディアンズは残った戦力を結集して最後の戦いに挑む。
これが最後の戦いなのだ。
次回「時の庭園の決戦」お楽しみに
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