チャイニーズマーメイド

　女達は海から飛び出た、海豚の如く。そしてまた膿に入り何度もそうしていた。ザビエルはその女達を見ていぶかしんで言った。
「あれは人間ではないですね」
「はい、身体は人間ですが」
　共に散策していた若い宣教師が応えた。
「あの動きは」
「裸で泳ぐとはふしだらな、しかし」
　ザビエルはイエズス会の厳しい教えからこうも思ったがすぐに言った。
「あの動きは」
「まさに魚です」
「あれは一体」
　不思議に思い近くを通って漁師に女達が泳いでいる方を指差して話した、女達はまだいて漁師も彼女達を見て言った。
「あれは人魚ですね」
「あれがですか」
「はい、そうです」
　人魚と言われ驚くザビエルに平然と答えた。
「ああして泳いで喋れませんが海から出ても人みたいに動けて」
「そうなのですか」
「そしてまぐわうことも出来ます」
「人の様に」
「そうです、今日は大漁でして」
　それでというのだ。
「連中も魚を沢山食えて嬉しいみたいですね」
「だからあそこまで跳ねていますか」
「そうです」
「そうなのですか」
　ザビエルは漁師の話をその人魚達を見つつ聞いた、そしてだった。
　その後でだ、彼は官吏に話した。
「こちらで人魚はです」
「違うのですね」
「腰から下が魚になっていまして」
　そうであってというのだ。
「魚の様に泳ぎます」
「そうですか、ですがこちらの人魚は」　
　官吏はザビエルの話を受けて話した。
「ご覧になられた通りです」
「人と変わらない姿ですか」
「もっと魚が混ざった」
「そうしたですか」
「鱗のあるものもいます」
「そうなのですね」
「兎に角腰から下は魚ではありません」
　こちらの人魚はというのだ。
「名前は同じでも違う種類ですね」
「そうなのですね、いや国が違えば」
　ザビエルは唸って述べた。
「こうしたこともありますね」
「名前が同じでも種類が違う」
「そんなことが。いい学問になりました」
「そうですか」
「はい、神の教えを伝えるだけでなく多くのことを学ぶことが出来て」
　そうしてというのだ。
「実にです」
「有り難いですか」
「そう思います、ではこのことを書いてです」
「そちらに伝えられますか」
「そうします」
　官吏に話した、そして彼は実際に書いて自分が見た人魚のことを欧州に伝えたのだった。
　ザビエルは他にも多くの自分が見てきたことを書いて欧州に伝えた、その中には公になっていないことや歴史の中で忘れられたり書かれたものが失われたものもあったという、だがこの話は公になっていなくても残っている、この話を知って伝えられて嬉しく感じている。


チャイニーズマーメイド　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２５・３・１５