西遊記
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第十二回 玄奘西方に旅立つのことその十一
「乗られて間違いはありませぬ」
「左様ですか」
「ですから」
「この馬に乗ってですね」
「旅立たれて下さい」
「いや、不思議な馬でして」
お店の親父さんも言ってきました。
「朝商売をはじめようとしましたら」
「そうしたらですか」
「気付いたら店の前に立っていたんですよ」
そうだというのです。
「これが」
「それはまた不思議ですね」
「こんな見事な馬が。それであんまり見事なんで売りに出せないと思っていたら」
「値がつけられぬまでに見事ですね」
「万歳老に献上しようと思っていましたら」
それがというのです。
「その万歳老からです」
「拙僧にですね」
「差し上げろと朝廷のお役人が来て言われて」
「菩薩殿が仰ったことを受けてです」
二太子が玄奘にそっと囁きます。
「それで、です」
「万歳老が動いて下さったのですね」
「左様です」
その通りだというのです。
「この度は」
「そうでしたか」
「はい、そして」
そうであってというのです。
「この馬と共にあれば」
「大丈夫ですね」
「馬のことは」
「それでは」
「あの」
ここで馬、白馬は頭の中で二太子に語り掛けました。
「宜しいでしょうか」
「そなたのことはだな」
「お話しなくても」
「また何時かな」
「旅の間にですね」
「話すことになる」
二太子は白馬に頭の中で答えました。
「そなたのこともな」
「そうなりますか」
「だからな」
そうであるのでというのです。
「今は黙っていればいい」
「私人の言葉も話せますが」
「人前で話してはまずいだろう」
「馬は喋りませんからね」
「人の言葉をな」
決してというのです。
「だからな」
「それで、ですね」
「暫くはな」
「喋らないことですね」
「それはそなたもわかるな」
「勿論ですよ、どの馬も喋らないですから」
白馬もわかっていました。
「私以外の」
「それでわかるな」
「それに元々私は神ですし」
「西海龍王殿のご子息でな」
「ですから」
それでというのです。
「馬の姿は仮の姿ですし」
「それならな」
「わかります」
はっきりと、というのです。
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