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大野治房の行方

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第二章

「大坂の陣においてです」
「死んでおらぬか」
「行方知れずです」
「あの戦はかなり落ち武者狩りをしたと聞いておるが」
「逃げる者は逃げますので」
 信綱は崇伝と同じことを言った。
「ですから」
「それでか」
「大野主馬殿も」
 彼もというのだ。
「実はです」
「生き延びておったか」
「どうも。どうされますか」
「あの戦から三十年以上経った」
 家光は袖の中で腕を組んで述べた。
「しかし幕府に逆らったのだ」
「それならですな」
「木下家の分家の話はよい」
 この家のことはというのだ。
「四条で首を打った」
「そうなっているので」
「もうよいがな。あの者も何も言わぬし」
「言わぬならよしです」
「薩摩に前右府が逃げたとも言うが」
「そちらもですか」
「何も言わぬからよいが」
 それでもというのだ。
「主馬のことはな」
「突き止めますか」
「所司代に告げよ」
 京の都のというのだ。
「探せとな」
「行方を」
「もう死んでおるやも知れぬが」
「若し生きていれば」
「その時に考えるとしよう、まずはな」
 彼のことを探すことだとだ、家光は言ってだった。
 京都所司代に命じて彼を探させた、だが。
「わかるか」
「どうも」
「そうなのか」
「かなり上手に逃げたか何処かで、です」
「死んだか」
「何者かが匿ったとも大坂の城が落ちた時に死んだともです」
 その様にとだ、信綱は話した。
「言われていますが」
「それでもわからぬな」
「はい、ですが調べさせたことはです」
「余が命じたことはな」
 家光もそれはと返した。
「残ったな」
「はい、これはです」
「主馬はあの陣で死んでいなかった」
「それを言ったも同じです」
「そうだな、しかし見付からなかったことは事実」
 家光は確かな声で述べた。
「結局主馬のことはわからぬな」
「そう言うしかありませぬ」
 信綱も述べた、そしてそれからもだ。
 大野治房がどうなったかわからない、大坂の陣で死んだとも討たれたとも処刑されたとも言われている。だが。
 大坂の陣の遥か後で幕府が彼の行方を調べたのも事実である、それも徹底的に行った様だが結局わからなかった。
 そして今もわからない、真相は何時かわかる日が来るかも知れないが少なくとも今はそうである。そのことは確かなことである。


大野治房の行方   完


                   2025・7・22 
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