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大野治房の行方

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第一章

                大野治房の行方
 大坂の陣の後だ、戦を終えて駿府に帰った徳川家康はその話にいぶかしむ顔になりそのうえで言った。
「明石掃部と大野主馬はか」
「はい、今もです」
 以心崇伝が答えた。
「行方はわかりませぬ」
「逃げ延びたのか」
「どうも」
「落ち武者狩りはしたがな」
「それでも逃げられる者はです」
「逃げるものだな」
「やはり」
 こう家康に答えた。
「どうしても」
「それが戦であるがな」
「首を打ったとも腹を切らせたともです」
「その話はわしも聞いておる」
 家康は難しい顔で述べた。
「しかしな」
「実はです」
「どれも他の者の話の様だな」
「はい、主馬殿はです」
「生きておるな」
「そしてです」
「わかっている、前右府の子をな」
 豊臣秀頼、彼のというのだ。
「木下家に預けた」
「そのことは確かな様です」
「見逃しておるがな」 
 家康はにこりともせず述べた。
「そのことは」
「四条河原で首を切ったことにしましたし」
「そうしたが」
「主馬殿はです」
「行方知れずだな」
「実は」
 崇伝はこう話した、大野主馬即ち大野治房の行方はようとして知れなかった、だがその話は忘れられた。
 だが家康の孫である三代将軍徳川家光はふとその話を聞いて言った。
「大野主馬は実はか」
「どうもです」
 老中の松平信綱が話した。 
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