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声が出なくなった原因

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第二章

 夫婦で何故歌えなくなったか気になってだ、こっそり相談した。
「ストレスか?」
「そのせいかしら」
「だったら問題だな」
「そうよね」
「原因を見付けてな」
「何とかしないとね」
 夫婦で話してそうしてだった。
 司祭とも相談した、悟の健康状況に合唱団でのことだけでなく学校でのことも調べてそのうえで考えた。
「何もな」
「ないわね」
「何があったんだ」
「いじめに関わってないし成績もいいし」
「スポーツも悪くない」
「順調みたいだけれど」
「いや」
 ここでだ、父の実は言った。すっきりとした彫のある顔で髪の毛は息子そっくりで背がかなり高い。
「あいつ久美ちゃんのこと言ってたな」
「前までお家でね」
 母の紗理奈も確かにと頷いた、息子に遺伝を受け継がせている顔で黒髪を長く伸ばし後ろで束ねている。胸が大きく背が高い。
「言ってたわね」
「よくな」
「あの娘転校したな」
「ご家族のお仕事の関係でね」
「若しかして」
 父はさらに言った。
「悟はあの娘好きでな」
「だからよくお話していて」
「転校してな」
「失恋したから」
「そのストレスか」
「そうかもね」
「だったらな」 
 それならとだ、実は話した。
「今はな」
「失恋は時間が解決してくれるわね」
「そうしたものだしテレビやアニメでな」
「アイドルの娘とか二次元の娘ね」
「そっちに出会えてもな」
「心がそうした娘に向いて」
「気を取り直したりするしな」 
 だからだというのだ。
「待つか」
「そうね、普段通り接してね」
 こう話してだった。
 夫婦で悟にそのまま接していった、やがて悟は失恋の傷が癒えたのか。
 また歌える様になった、だが声変りを迎えて合唱団は少年のものからテノールのものになった。そうしてだった。
 歌えなくなったことは彼と両親それに司祭の記憶の片隅のこととなった、やがて彼は合唱団の中でも秀でた歌手として知られる様になった。その彼の子供の頃の話である。


声が出なくなった原因   完


                    2025・7・21 
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