魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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XV編
第264話:勇気の源
奏達を一足先に地球に送り返した後、颯人は1人管制室に戻るとそこで制御盤を破壊しようとしているドレイクの姿を確認した。それを見た瞬間彼はドレイクに跳び蹴りを喰らわせバラルの呪詛の破壊を中断させるとそのままドレイクと共に地球へと転移しようと飛び掛かった。
「兎にも角にも、お前らをここから追い出させてもらうぜッ!」
「ハッ! そう上手くいくかな?」
颯人達の一番の目的は、月遺跡を守りバラルの呪詛を守る事。その為であれば、別にドレイクをこの場で倒す必要は無いのである。要は敵となる者を残さず月遺跡から追い出してしまえばいい。
しかしドレイクの方もそれは理解しているのか、颯人の手元を警戒しながら同時に制御盤の破壊の為彼の隙を伺いつつ時折ハルバードを振り下ろしては邪魔されるのを繰り返していた。
「ヌンッ、はっ! そこっ!」
「おっと、チィッ!」
互いに相手を倒す事を目的としているのであれば、戦いはもっとシンプルなものとなっていただろう。だが今回、両者の目的はそれぞれ異なり、それに伴い立ち回りも変わってしまっていた。
ドレイクが振り下ろしたハルバードを颯人がウィザーソードガンで受け止め、軸をズラして床に叩き付けさせるとその際の勢いを利用して回し蹴りを放つ。ダンスを踊る様に相手の攻撃の勢いを利用したアクロバットな動きに、ドレイクも僅かに反応が遅れ側頭部を蹴り飛ばされた。
「グッ!? お、のれぇっ!」
側頭部を蹴られ脳を揺さぶられるドレイク。しかし蹴られる瞬間僅かに頭を傾けていたことが功を奏し、蹴りの威力を逃して脳を大きく揺さぶられる事だけは避けれた。衝撃で多少視界は歪むが、耐えられない程ではないダメージにドレイクは即座に反撃に転じ床を抉るだけに留まったハルバードをそのまま横に振り回して颯人の脇腹を殴りつける。
「ぐふっ!?」
側頭部を蹴り飛ばして着地したばかりの所を殴り飛ばされたので、回避も防御も間に合わずまともに攻撃を喰らってしまった。幸いなのは相手のすぐ傍だった為に威力がそこまで高くはなかった事だが、それでも柔らかい脇腹を殴り飛ばされたのは文字通り痛く、ボディーに響く鈍い痛みと吐き気に耐えながら彼は立ち上がり左手の指輪を交換した。
「ち、くしょう……くっ!」
通常のフレイムスタイルでは力負けすると察した颯人は、搦め手で責めるべくウォータースタイルにチェンジする。
〈ウォーター、プリーズ。スィー、スィー、スィー、スィー!〉
ウォータースタイルとなった颯人は、ウィザーソードガンをガンモードにして乱射しドレイクを遠ざける。放たれる無数の銃弾に部屋の入口まで押し戻されそうになるドレイクであったが、マントを広げ銃弾を防ぐと銃撃を物ともせずそのまま一気に突撃した。
「ぬぅぅぅ……!」
颯人に接近したドレイクは、そのままハルバードを振り抜き彼を切り裂こうとした。が、その時には既に彼は次の指輪を用意していた。
〈リキッド、プリーズ〉
「フンッ!……!? 何ッ!?」
あらゆる物理攻撃を無力化する液状化の魔法により、颯人はドレイクの攻撃をやり過ごした。その後もドレイクは何度かハルバードを振り回して切り裂いたり串刺しにしようと試みるが、液状化した体には全て意味をなさずただ突き抜けるだけに留まった。そして無駄な攻撃を繰り返した疲労で相手の動きが僅かに鈍った瞬間、颯人は液状化した体で相手にまとわりつくと関節技を極めつつテレポートジェムを使い2人揃って地球へ転移しようと試みた。
「貰ったッ!」
颯人が手にテレポートジェムを構えた刹那、ドレイクは右手の指輪を入れ替え組み付いてきた颯人を無理矢理引き剥がす魔法を使用して振り解く。
「くっ、させるかっ!」
〈ヒート、ナーウ〉
「うおぉぉっ!?」
全身から熱波を放つ魔法は体を液状化させても無力化する事は出来ない。熱波と衝撃により吹き飛ばされた颯人は壁に叩き付けられ、更にはその際の衝撃で構えていた最後のテレポートジェムを落としてしまった。落下したテレポートジェムは術式を起動する前にぶつかり割れた事で、転移が発動せず中の溶液が零れるだけに留まる。
「あっ!?」
「ふっふっふっ、残念だったね?」
これで颯人は地球への帰還の手段を実質失った。残る手段はドレイクが持っているだろうテレポートジェムを奪う事のみ。その為には相手を倒さなければならず、しかもテレポートジェムを破壊しないようにする為あまり強力な攻撃をする訳にはいかなくなってしまった。
つまり、迂闊にインフィニティースタイルを使う事が出来なくなる。颯人は状況が苦しくなった事に、仮面の下で苦い顔をした。
「くそ、ミスったな……」
最初からインフィニティースタイルを使っておけば良かったと思わなくもないが、そうするとやはり必要以上の攻撃で管制室を破壊してしまいかねない。出来るだけ周囲の被害を抑えて戦おうと敢えて通常のフレイムスタイルで戦いに臨んだ事が、逆に彼の首を絞める結果となってしまったのだ。
こんな事なら短期決戦を仕掛けるつもりでインフィニティースタイルになっておけば良かったと後悔するも全ては後の祭り。こうなったらせめてドラゴンスタイルで相手をし、制御盤を守りつつ無力化してテレポートジェムを奪うしかない。
〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉
「しゃぁっ、行くぞッ!」
「フフンッ!」
ウィザーソードガンをコピーし二刀流で攻撃を仕掛ける颯人に対し、ドレイクはマントを翻し余裕を見せるとハルバードを横薙ぎに振るい逆に颯人を吹き飛ばした。
「ぐぅっ!? んのやろ……!」
その後もアクロバティックな動きを交えてドレイクの目を翻弄しながら戦おうとする颯人であったが、ドレイクは彼が隙を突こうとしてくるとそのタイミングに合わせて制御盤の方に標的を移した。バラルの呪詛を守らねばならない颯人はこれを無視する事は出来ず、已む無く攻撃を中断してはドレイクの一撃を受け止めざるを得なくなる。
「くっ!?」
「ふんっ!」
「ぐぁっ!?」
ハルバードを受け止めるため足を止めると、その瞬間ドレイクは振り下ろしたハルバードの軌道を変え横薙ぎに振り払った。予想外の動きに颯人は吹き飛ばされ壁に叩き付けられ、床に蹲った所をドレイクにより首を掴まれ無理矢理立たされる。
「うぐぅっ!?」
「フンッ、貴様程度の魔力で、私に勝てるものかッ!」
「うぉぉっ!?」
力技で投げ飛ばされた颯人は、近くにあった制御盤を支えに立ち上がる。肩で息をしながら立ち上がった颯人は、ガルド達が先程ドレイクを退けたと聞いていたので予想していたよりも明らかに強いその力に違和感を抱いていた。
「お、お前、話に聞いてたよりも随分強いじゃねえか……」
「ハッ、さっきは適当に相手をしてやっていただけだ。流石に3人を同時に相手取るのは面倒だったからな。お前達が隙を見せてくれるよう、態と手加減して調子づかせてやっていたのさ」
「俺らはそれにまんまと嵌ったって訳ね、クソが……」
颯人は悪態を吐きながらも、現状に危機感を抱いていた。ドレイクが予想以上の強さだった事もそうだが、何よりも今の立ち位置がマズイ。今彼は制御盤を背に立っているのだ。そして目の前には制御盤を破壊し、バラルの呪詛を消そうと目論むドレイク。必然的に彼は後ろは勿論左右にも動く事は出来ず、迎える先は前方のみ。逃げる事が許されない状況に、颯人は一か八かの勝負に出た。
「コイツで……!」
〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉
スペシャルの魔法を発動し、胸に装着したドラゴンの口から超高温のブレスを放出する。決して広いとは言い難い管制室内で、ドレイクも逃げ場を失い焼き尽くされる筈であった。
しかしドレイクは少しも慌てる事無く、右手の指輪を交換すると発動した魔法で颯人の攻撃を受け止めた。
「その程度ッ!」
〈リフレクト、ナーウ〉
ドレイクが張った障壁は颯人のブレスを容易く受け止め、しかも奴はその状態で更に右手の指輪を交換しライトニングの魔法を上乗せして弾き返してきた。
「コイツもおまけだ、受け取れッ!」
〈ライトニング、ナーウ〉
「なっ!? うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
自身が放ったブレスに加えて雷属性の魔法を上乗せして弾き返された。颯人はこれを受け止めきる事が出来ず、自身が放った炎と雷を同時に喰らい吹き飛ばされる。その威力は凄まじく、颯人だけでなくその背後にあった制御盤をも粉砕してしまった。
「うぐ、が……し、しま……」
制御盤が破壊された事で月遺跡は機能を停止し、更には誘爆したのかあちらこちらで爆発が起こった。その振動で揺れる管制室の中央で、傷付いた姿の颯人が横たわっていた。
「ぐ、くぅ……」
「さて、これで私の仕事は終わりだが……念には念を入れて、ダメ押しにもう一撃ッ!」
「はっ!?」
傷付きながらもまだ変身を維持している颯人に対し、ドレイクは無慈悲にもバニッシュストライクを発動し強烈な魔力球を彼にぶつけた。変身を維持するだけで精一杯の状態の颯人に、これを回避も防御もする事は出来ずまともに喰らって吹き飛ばされ、降り注いだ瓦礫の下敷きとなってしまった。
〈イエス! バニッシュストライク! アンダスタンドゥ?〉
「さらばだ、魔法使いウィザードッ!」
「くっ!? がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
追い打ちの魔法を喰らい、瓦礫の下敷きとなった颯人。その姿に満足そうに頷いたドレイクは、主君であるワイズマンに良い報告が出来ると喜びながらテレポートジェムで悠々と地球へと帰還していく。
その直後、月遺跡は跡形もなく吹き飛び、颯人もその爆炎の中へと消えていった。
月遺跡の爆発に巻き込まれ、宇宙へと放り出された颯人。全身ボロボロの姿となった彼は、奇跡的にまだ鎧を身に纏っていた為今すぐ死ぬような事にだけはならずに済んだ。
だが、傷付いた状態で指一本動かす事も出来ず、このままでは宇宙の藻屑となるのは時間の問題であった。
――ちくしょう……俺とした事が、こんな……ヤベェ、奏に必ず帰るって約束したのによ……――
普段であれば、弱音も吐くことはしない颯人であったが、この時ばかりは最早お手上げと諦めを抱いていた。故郷である地球ははるか遠く、魔力も残りわずかで意識も朦朧としている。打つ手なしと言う状況では、流石の颯人も奇跡の起こしようがなかった。
――あ~ぁ……俺もここまで、か…………ん?――
せめて最後は奏の事を想いながら逝こうと目を瞑ったその時、彼の脳裏に、耳に、心に、愛しい女性の声が響いた。
「何だ、これ……奏……?」
【Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……】
何故こんな所で奏の歌声が聞こえてくるのか、颯人は理解できなかった。月遺跡のサポートが無ければ地球との交信は出来ず、そもそも彼の通信機は先程のドレイクの攻撃で破損している。本来であれば地球の奏での声がこうして聞こえてくるなど、あり得ない筈であった。
彼が疑問に思う間にも、歌は聞こえ続けた。
【Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl…………】
本来であれば切り札としての使われ方をする絶唱。しかし今、颯人はその歌の中に奏の確かな想いを感じ取った。
【颯人……信じてるから。だから、絶対帰って来い……!】
それは最後の瞬間まで、颯人の事を信じ続ける信頼。そして彼の事を何処までも愛おしく思う愛情。彼の帰還を想う願い。奏の颯人を想う全てがその歌には込められていた。
その奏からの熱く底知れない愛が、諦めかけていた颯人の心に再び火をつけた。
「あ、あぁ……そうだったな、奏……こんな所で諦めるなんて、俺らしくないよな……!」
聞こえてくる奏の歌に、颯人は勇気をもらい死の運命に抗う為全身に力を込めた。そして彼は気付く。何故今こうして、奏の歌が聞こえてくるのかを。
「そうか、なるほど……バラルの呪詛がもうないから、こうして心から繋がれるって訳か」
ドレイクはワイズマンが全身類を繋げてサバトをする為にバラルの呪詛を破壊したが、それはつまり颯人達も互いに相互理解で繋がれることを意味する。隔絶される事なく互いに繋がり合った颯人と奏、その2人の間には地球と月の間に存在する距離など関係なかったのだ。深く愛し合うが故に、奏の歌は彼の元まで届き、そしてその歌が彼に無限の力を与えてくれる。
「へへっ、やっぱり奏……お前の歌は最高だぜ……!」
彼は何時も、口癖のように言っていた。奏の歌さえあれば何時でも全開だと。この絶望的な状況であってもそれは変わらず、彼は奏の歌により勇気と力を貰った。
それは彼の中に存在するドラゴンも同様である。奏の歌に気分を高揚させたドラゴンは、指輪を介さず力を彼に与えその姿をインフィニティーへと変化させた。
〈イィィンフィニティ!〉
暗い宇宙の中で、眩いくらいに光り輝く姿となった颯人は、背中から鎧と同じ色の翼を広げると一路地球へと向け飛んでいった。
奏の歌を導として、颯人はその速度を上げていく。光り輝く鎧を身に纏った彼が一直線に地球に向かう様子はまるで彗星のようであり、聞こえてくる奏の歌によりテンション共々魔力を上げた彼は遂には光の速度で地球の大気圏へと突入する。
そして彼は、バーニングエクスドライブを発動させた奏と彼女に向けトドメの一撃を放とうとしているカーバンクルファントムの姿を見た。その瞬間彼は最後の加速を掛けると、勢いよく両者の間に割って入りカーバンクルファントムの一撃を光り輝く鎧で受け止めた。
「何ッ!?」
「えっ!」
「あれは……まさか……!」
「遅いんだよ……」
「俺がこういう登場シーンに拘るって、知ってるだろ? どうだ? なかなか盛り上がったんじゃないか?」
「バカ…………グスッ」
誰もが目を見張る中、地球に帰還し奏を守った颯人は待たせてしまったお詫びに彼女の頭を優しく撫で、目に浮かんだ涙を指で拭うと胸に湧き続ける愛しさに突き動かされるように彼女をそっと抱きしめ振り返った。
その先ではカーバンクルファントムが驚愕か怒りで体を震わせている。
「き、貴様…………な、何故…………!?」
信じられないと言った様子のカーバンクルファントムに、颯人は内心でざまあみろと舌を出しながら皮肉を込めて言葉を返した。
「ただいま…………」
態々敵にまで帰還の挨拶をしてみせる彼に、真っ先に声を上げたのはドレイクであった。
「バカな……貴様、何故生きているッ! いや、どうやってここまで来たッ!」
狼狽えた様子のドレイクに対し、颯人は奏の事を胸に抱き寄せながら答え合わをしてやる。
「お前が月遺跡を壊して、バラルの呪詛を取っ払ってくれたおかげさ」
「何ぃ……?」
「お陰で奏の歌は、俺の所まで届いた。俺は奏の歌さえあれば何時でも全開なんでな。あの程度の状況屁でもねえ。残念だったな?」
「くっ……貴様……!」
自らの主君の為に行った事が、結果として颯人の助けになってしまった事実に怒り狂うドレイク。カーバンクルファントムも、まさかこの状況で颯人が帰って来るとは思っていなかったのか拳を握り締めて震えていた。
「く、ぐぅ……!」
悔しそうにする両者を前に、颯人はフィンガースナップで指を鳴らすとカーバンクルファントムを指差して告げた。
「さぁ、タネも仕掛けも無いマジックショーの始まりだッ!」
それはこの戦いの、最後の決戦を告げる合図でもあった。
後書き
と言う訳で第264話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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