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冥王来訪 補遺集

作者:雄渾
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第三部 1979年
番外編
  大首領を撃て! 北鮮ウラン鉱山破壊作戦

 
前書き
 ハーメルンで書き下ろした話の再録になります。
「外交的解決 その4」の文中に入る話です。
本編に追加しても良いのですが、読者様が混乱するので、こちらにしました。  

 
 マサキは、一旦アイリスディーナの事を使節団に返した後、京都市内のホテルに戻っていた。
 併設されたバーで無聊(ぶりょう)をかこつマサキの元に、御剣(みつるぎ)が護衛も引き連れずにふらりとやって来た。
酒を飲みかわすうちに自然と、マサキの人間関係に対する話になっていた。
「木原君、君は世界征服を望む科学者だった。
色々と制約されて、思うように動けないから、家族を捨て、組織を捨て、一切のしがらみを断ち切った。
そうだね」
「ああ」
 言葉を切ると、マサキはタバコに火をつけた。
「そんな事は人間社会では許されない。
自分一人の都合で他人に迷惑をかけるのは許されることではないが……
それは凡人に言えることであって、非凡なる才能を持った君には許されるとしよう」
 マサキは煙草をふかしながら聞いていたが、終始不満顔だった。
「では一切のしがらみを断ち切って、世界征服に専念して、それが出来るか。
出来るわけがない」
 マサキは、驚きで声が出なかった。
御剣は、そんなマサキの様子をお構いなしに続ける。
「木原君。
君は、他人妻(ひとづま)のベアトリクスさんを見て、欲情し、アイリスディーナ嬢を見て心奪われた。
その結果、東ドイツの人間に付き居られるスキを与え、彼らに利用される羽目になり……
事あるごとに集中力を欠いて、無様な醜態をさらしてしまった!」
 御剣の言葉によって、マサキは愚かしくて罪深い自分の行為を反省した。
その一方で、彼女たちに手を出さなかった自分の弱さに感謝していた。
「女と寝れば後を引く。
金で左右できる女は味気がない。
しがらみを持たずに女と遊ぶにはどうしたらいいものか」
 マサキ自身は、すでに冷静とは言えなかった。
内心では、他者に知られたくない感情が渦巻いている。
「木原君、この異界に来てから、自分から女を求めたことは」
 かなり突っ込んだことを聞いて来る御剣の事を、マサキは蔑むような目で見る。
「1年以上も女の柔肌に触れていないのか。フハハハハ」
 御剣は笑ってみせた。
しかし内心では、マサキが古風な考えを持つ男であることに感心していた。
 自分が関心を持った女に対して、最後まで責任を持つという姿勢がある。
この男は口とは違い、志操堅固で、誠実な人物ではないのかと。
「しがらみを捨てたことがしがらみを呼び込む原因になったのではないか?」
 マサキは、考え込むような態度になった。
「抱きたい女を抱けばいい。
しがらみを持つのは悪いことではない。
人生は上り下りの起伏のあるものなのだ」
 時計は既に午前3時を回っている。
マサキの予定は、休みだったはずだ。
どうせ、昼間ごろまでにホテルから退去させればいい。
「いいかね、木原君。
人間のしがらみを避けて通ろうとするものに、世界征服など出来るものか!
逆に自分から人生のしがらみに飛び込んでいくようでなければ、いかんのだ。
幾多のしがらみ、修羅場(しゅらば)を乗り越えてこそ、ゆるぎない自信が出来る。
それが政治の世界のプレッシャーに勝つ精神力なのだ」
 マサキは感心したように、身を乗り出してくる。
御剣は、頼んでおいた冷えたビールを飲みながら続けた。
「ベアトリクスさんを見て、欲情し、悶々とするものが数兆円もする核ミサイルを撃てるか。
そりゃ、ドイツ美人の若妻とロケット弾を同列に扱う事は出来ん。
だが、私はそういう物だと思っている」
 マサキは煙草をもみ消すと、温くなった紅茶を飲む。
「力のある若者が何をしり込みする!人生の何を恐れるというのだ!
何にでも全力でぶつかってこい!」
 そこまで御剣が話すと、マサキが真剣な顔で答えた。
「二日間、時間をくれないか」
 御剣の話を聞いたマサキは、ベアトリクスへの気持ちの表現として、あることを思いついた。
彼女の夫であるユルゲンの誕生日である7月1日に、世界的な事件を起こしてやることにした。
 ソ連の衛星国の一つである北鮮に行き、ウラン鉱山と核関連一つでも吹き飛ばしてやる。
ユルゲンへの誕生日プレゼントにもなるし、何よりもソ連への牽制になる。

「偉大なる首領様、お待ちしておりました」
「それで、作戦の方は進んでいるのでしょうか」
 その日、北鮮の大首領は、順川(じゅんせん)にあるウラン鉱山へ視察に赴いていた。
党中央と呼ばれていた後継者の息子と、KGB北鮮支部長などのソ連側の要人を引き連れて。
「トン当たり20グラムの良質なウラン鉱床です。
あと3つほど掘り進めれば……」
 大首領は、満足そうに笑みを浮かべる。
「ウランに限らず、貴重な資源の秘密は、1ミリグラムとも敵に渡してはなりません。
それが主体(しゅたい)思想(しそう)を強化し、ひいてはその後の勝利にもつながるのです。
よろしいですか……」
 鉱山の責任者の男は真剣な表情で答えた。
「心得ております」
 その刹那、滔々(とうとう)と基地にサイレンが鳴り響いた。
鉱山の一角にマグネシウムを炊いたような閃光が走る。
 爆発の規模はかなり大きい。
炎と黒煙が、採掘場を覆っている。
 おどろおどろしい炸裂音が、近くの鉱山でし始める。
火山の噴火に似た音だ。
採掘に使うダイナマイトの火薬庫に誘爆した音だろうか。
「首領様、早くお逃げを!」
 首領一行がその場を離れようとしたとき、煙の向こうで何かが動いた。
跳梁(ちょうりょう)する炎と黒煙の間から、白亜の巨人機が現れた。
 全高は、およそ50メートル強。
戦術機2機を重ねたよりも大きい。
 採掘基地の一角にある駐車場に、眩い黄色い光が煌めいた。
そこに止めてあったソ連製のジル114とフォード・マスタングが、バラバラに飛び散った。
 防空用に備え付けられているZPU-2対空機関砲が、一斉に火を噴いた。
発射炎がほとばしり、雷鳴さながらの音が響く。
 巨人機の周囲に爆炎が躍り、大量の砂ぼこりが宙を舞う。
兵士の一人が、RPGを巨人機に向けて発射する。
 遠目にもわかる赤い線が一直線に進み、巨人機の頭部に直撃する。
一瞬赤い火焔が上がり、凄まじい爆音を生じさせる。
 SPG-9無反動砲を搭載したジープが突っ込んでいく。
無反動砲から発射された榴弾が爆発し、次々と炸裂する。
 巨人機の周囲に爆発が響き、巨大な火焔が躍る。
 その瞬間を見た兵士は、巨人機が爆砕されることを確信した。
一撃で破壊することは無理でも、頭部を破損させることは期待させた。
 黒煙が晴れ、巨人機が姿を現す。
「そんな馬鹿な!」
 何人かの兵士が叫んだ。
巨人機に目立った損傷はない。
今まで通りに両足で立ち、動き回っている。
 73ミリ砲の影響はなかったようだ。
 基地にあるT-34-85、59式戦車が、一斉に砲撃を開始する。
物陰から85ミリ砲と100ミリ砲をそれぞれ打ち込む。
巨人機の周囲に榴弾がさく裂し、頭部や脚部に直撃弾の炎が躍る。
 巨人機が動きを止めた。
その胸部から咆哮ともつかぬ不気味な音がする。
黄色い閃光がほとばしる
 一瞬大きな音が響いた直後、轟音と共に爆発炎が広がる。
意識が消失する瞬間、大首領の視界に炎の中で崩れ落ちる人物が見えた。
それが息子の党中央と、KGB北鮮支部長なのか、分からなかった。 
 翌日、朝鮮中央放送は、国民への3日間の服喪を呼び掛けた。
大首領を始めとする労働党の幹部が鉱山の落盤事故に巻き込まれて、逝去したことを伝えた。 
 

 
後書き
 柴犬の原作キャラが全くでない話となってしまいました。
ネタ自体は1月ぐらいに出来ていて、4月に書きあがっていたのですが、イスラエルのイラン攻撃と内容がかぶってしまったので公開を躊躇していました。
小説で書いた話と似たような事件が起きるのは、運命を感じますねw
 
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