外道戦記ワーストSEED
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断章2話 死神と盟主王前半
前書き
後半では、主人公達の最終試験機体が出現予定。
「……ああ、話はついてる。『タガー』の量産は継続だ。ああ、不買の可能性という不安は最もだが、不要だ。ああ、死神とも話がついている話だよ」
取引先からの連絡を終え、ゆっくりと『有線』の受話器を置くと、アズラエルは死神、ジョンが座るソファに向き直った。
カラン、という心地よい氷とグラスのぶつかる音の後に、お代わりのバーボンを注ぐ姿に、くく、と含み笑いを堪えながらアズラエルはジョンの対面に座り直した。
「明日はマスドライバーで宇宙だろう?そんな深酒して大丈夫なのかい?」
「……酒の力も借りたくなるさ。閣下からOSの開発が思わしくないので、『影法師』組も用意しろ、と言われれば、な」
そう笑いながら揶揄するアズラエルに、ジョンは珍しく外面を隠さない憮然とした態度で返した。
メディアでは決して見せない、その不機嫌な表情に逆に目を細めながら、アズラエルは当たり前のように用意されたバーボンに口をつけた。
「いつもニコニコ、不満を漏らさないスーパーマンは休業かい?」
「ナチュラル用OSはナチュラルのみの手で作る、と息巻いて出されたのが中途半端な出来損ないだぞ?不機嫌にもなるさ」
ジョンはグラスの残りを飲み干し、また指3本ほどのバーボンを注ぐ。
アズラエルの指摘通り、ジョンの内心は嵐のように荒れていた。
先程、アズラエルが固定電話で通話していたように、古来の電話線、ケーブルによる接続による電話機能の復活など、大西洋連邦はコーディネーター、ナチュラル一丸となり復興に大幅なショートカットをかけている。
それは結果として、前線で血を流しているモビルスーツ、モビルアーマーに乗るパイロットから歩兵に至るまでの後方支援に繋がり、少なくとも現状大西洋連邦内で活動する兵士に食料、医療品等の遅延はない。
『だが』それはあくまで大西洋連邦国内だけの話。
ナチュラル用のモビルスーツが出来ない限り、地上での地獄は終わらない。
そもそも、地球上では絶対的多数であるナチュラルが局地的に敗北し、土地を実効支配されている要因がそれであり、多種な意見はあれど、その解決に繋がる、ナチュラル操作のモビルスーツの完成に動くのが地球連合の勝利に繋がるのは明らかであるはずなのだ。
なのに下らない理由でその根幹となるOSの完成を遅らせたあげく、結局出来もしないなど、失笑者である。
「オーブと共同開発の筈なのに、オーブを責めないのは理由が?」
分かっていて聞いてます、というしたり顔のアズラエルに、苦笑しながらジョンは返した。
「そりゃ、そうさ。多数のコーディネーターを国是で抱えるオーブとしてみれば、ナチュラルを戦力化できるOSなんて、遅れれば遅れるほど良いに決まってるだろ。しかも理由まで頭が花畑の地球連合上層部が作ってくれるんだぜ?やらない理由がない」
地球連合にも都合があるように、オーブにも都合があり、それは必ずしも地球連合に利するものではない。
地球連合の正式モビルスーツの製作にオーブが一枚噛んでいるのは、無論、意味もなく地球連合を敵に回す愚を嫌ったのもあるだろうが、加えて国民数で地球連合、ザフトに劣るオーブが、最先端のモビルスーツ技術を常に保持していたい、という思惑もあることは当然アズラエルやジョンは承知していた。
だからこそ、ナチュラル用OSというのはオーブにとって『劇薬』である。
勿論、オーブもナチュラルの軍人は当然存在し、それを戦力化できるのは良いことではあるのだが。
各集団における絶対数を比較した場合、どう見積もっても数十倍のナチュラルが地球連合側でモビルスーツに乗って戦場に立ってしまう。
それは現状、コーディネーターがモビルスーツについて一日の長があるオーブからしてみても、不安要素でしかないだろう。
「他国の事は良い。とりあえず万一を考えて用意をしたセーフティが機能したのは、口惜しいが助かった」
二人のグラスの間に透明なファイルで挟まれていた書類。
そこには『タガー及びシャドーシルエット計画』と書かれていた……
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地球連合軍独自の量産機の製造。
最初に『ガンダム』という概念をアズラエルに託した時、当然、それはプランとして考えられた。
そして、ザフトがその有用性を戦地で示した後、そのプランは急速に現実味を帯び、とりあえず急場しのぎでも何機かロールアウトされる筈であった。
しかし、それは全く予想外の形での邪魔により頓挫してしまう。
『ニュートロン・ジャマー』
核分裂を阻害するその一手で、地球連合は単独での量産の手立てを失った。
事前に準備してきたとはいえ、核による発電がままならない事は思った以上に地球に住む人々の生活を圧迫し、それどころではなくなってしまった訳である。
だから、アズラエルとジョンは地球連合の量産化を『段階化』した。
一つ、急場しのぎのモビルスーツを、既にジンのフルコピーを製造できる技術力と特殊な地熱発電により兵器開発に使えるエネルギー源を持つオーブと共同開発する。
(余談だが、何故かジョンの書いたガンダムのヘッドデザインを気に入り、デザインの使用料の無料を条件に少し減額してくれた)
二つ、蓄積したモビルスーツの戦闘経験を元に、ヘリオポリスで正式な地球連合の試作モビルスーツ開発に着手、ショートスパンで機体の部分的な改修を行うために、世界樹コロニーを利用。
三つ、ヘリオポリスでロールアウトした『5体』のモビルスーツにパイロットを当て、運用しその改善点を探しブラッシュアップしていく。
四つ、ヘリオポリスでの正式試作機の設計完了と同時に、地球にほど近い世界樹コロニーと地上の工場で地球連合量産機を設計、製造していく。
このように時間はかかるがより良いものを量産できるよう、利益が減ることも視野に入れてプランを再構築していた。
このプランは、概ね順調に推移していた。
……最後の最後で、大きな問題が2つ発生するまでは。
一つ、地球連合所属のモビルスーツ戦闘経験があるパイロットがジョン、イヴと二人しかいない。
(地上の地球連合コーディネーターパイロットだった者達は、地球連合に排斥されてアズラエル麾下に移っているので無理だし、ジョンの配下の女性パイロットは地球連合の醜聞により世界樹コロニーに飛ばされている為推薦しにくいというイレギュラーの発生)
二つ、ハルバートン閣下が言葉を尽くしても、地球連合内で他の企業のバックアップを受けている(ぶっちゃけアズラエル財閥以外のロゴス傘下の)将官の抵抗により、残りの三人をナチュラルのパイロットにしろとごり押しされた事。
アズラエルとジョンは酒を飲みながら、残りの将官暗殺した方が早くない?と言うくらいムカついていたが、やると相手のバックの他のロゴスが面倒になるため、早急に対策を考える必要があった。
その結論が、『シャドーシルエット計画』である。
まず、幼少時から戦闘技術を叩き込まれているアズラエル財閥のSPの中から、身寄りがなくより過酷な鍛錬を積んでいたナチュラルの若者たちにモビルスーツの操作を叩き込み、とりあえずデモンストレーションの歩行と武器を構える程度は覚えた三人、オルガ、シャニ、クロトを戦時任官で地球連合少尉に任命、テストパイロット『だった』ことにする。
同時に、地球連合が昔から行っていた暗部のプラン、『ナチュラルの言う事を聞くコーディネーター』の結実たる『ソキウス』と呼ばれる彼ら十名程度を金と権力で譲り受け、うちモビルスーツ操作に適した上から三名の顔を整形。
オルガ、シャニ、クロト『そっくり』にしてしまい、複雑な操作や戦闘起動をする場合は適宜すり替えてしまう。
こうすれば、万一ナチュラルのOSが完成しなかった場合でも凌げるし、顔出しインタビューを求められてもある程度齟齬が出ない。
無論、ゼロではないが、そこは軍事機密ということで情報統制を行う。
こうして、なんとかパイロットを用意した二人だが、同時に思った。
これ、明らかにこのままじゃ俺達のメリットなくない?
手弁当でパイロットの用意から育成まで行い、得するのは地球連合のみ。
その一方的な関係に納得いかなかった二人は、罪悪感を抱えたハルバートン中将を通して、秘密裏に『一つのお願い』をし、それを了承させる。
それは、ジョンがかつてデザインした『ジム』をベースとしたコズミック・イラ世界の量産機、『タガー』シリーズの先行試作型と称して、オルガ・シャニ・クロトのシルエット(影法師)達にテスト操縦させる機体の製造許可。
お披露目までに習熟させるという建前の元、ヘリオポリスの発表まで試験運転のみで前線に出さない事を条件に、既に設計案の出ていた5体のガンダムを『ヘッドパーツだけタガーと同一』にして、コピーした機体を建造したのである。
『シャドー・シルエット』
そう密かに名付けられたそれは肝であるビーム兵器、フェイズシフトまでコピーして、今の今まで、このアズラエル本宅横の本社の敷地内で運用されつづけ……
今回、その『影法師』の名前に反して、日の目を見ることになった。
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「アズの言う通り、腐っててもしょうがない、悪いが『六人』借りるぞ」
残りのバーボンを飲みきり、そう、口にするジョンに、残りのバーボンをグラス内でくゆらせながら、アズラエルは返す。
「ふふ、まあフェイズシフトの応用の目処も立ちましたし、少しは地球連合への貸しも返してもらえましたよ」
アズラエルはそう口にすると、最後に胸ポケットから、ポイッとジョンにディスクを投げ渡す。
「これは?」
「フェイズシフト後の金属定着色を変換するシステム・ツールですよ。入れ替えの時にこれがあった方が良いでしょ。別途、ガンダムヘッドも積んであります。……まあ、バレると面倒なので、貴方の指紋認証でしか開きませんが」
そう万全の準備をして、軽く返すアズラエルに信頼の目を向けながら、ジョンは言葉少なに返した。
「お前が俺に賭けてくれた分は、何倍にもして返してやるよ、じゃあ、また地上でな」
ソファに座り、ひらひら手を振るアズラエルに背を向け、ジョンは部屋を後にする。
始まりの舞台、ヘリオポリスコロニーに向かうために。
断章2話 死神と盟主王前半 了
GSS-X102 シャドー・デュエル
350mmレールバズーカ「ゲイボルグ」
デュエルの携行装備として開発されていた電磁式バズーカ。本編ではオーブのタカ派にヘリオポリス崩壊のどさくさで盗まれているが、こちらではキチンと装備している。威力は高いのだが、フェイズシフトに弾かれる実体弾なのが玉にキズ。
ビーム・ライフル×1 対ビーム・シールド×1
基本となるビーム兵器と、対になるビームを拡散、軽減するシールド。モビルスーツが標準で携行する火器程度なら問題なく無効化できるが、劇中終盤でムウが駆るストライクが戦艦の主砲で盾を貫通、撃墜されたように、まだ発展途上の兵器であるためビーム全てに無敵、という訳ではない。
イーゲルシュテルン×2
ガンダムの頭部に設置された小口径バルカン砲、至近距離のカウンターなどにも使用可能。
ビーム・サーベル×2
ミラージュ・コロイド粒子で剣状に固定したビーム兵器。この世界では世界樹コロニーでの改良により収束率が高まっており、ロスエネルギーの軽減や、相手のビーム兵器へのカウンター対応力が上がっている。(具体的に言うとビームサーベル同士の鍔迫り合いや、ビームライフルをサーベルで受け止める事ができる)
しかし、バッテリー駆動であるため、まだまだ起動時の消費量は無視できない量である。両肩に二本装備。
GSS-X103 シャドー・バスター
220mm径6連装ミサイルポッド
両肩に装着される多弾装填可能な実弾ミサイルポッド、実弾だが威力も高い良武器だが重さが難点か。
350mmガンランチャー&94mm高エネルギー収束火線ライフル
右腰アームに接続されるレールガン方式の散弾砲および左腰アームに接続される大型ビームライフル。2つともバックパックにマウントされている。後方支援機であるバスターの名前に違わず威力も射程も長いが、かなりの大型火器のため、シールドやサーベルを装備できない難点を持つ。
備考:バスター専用の二種の火器について
この2つは小型のジュネレーターが組み込まれている上で組み合わせる事で以下の形態に変化する。
対装甲散弾砲
ガンランチャーを前にして組み合わせた形態。高速で飛ぶ実弾を広範囲にばら撒くため、フェイズシフト装甲を持たない機体には致命傷。
超高インパルス長射程狙撃ライフル
ビーム兵器を前に組み合わせた形態。高エネルギーかつ長距離ビームライフル。戦艦の貫通や長距離の相手にも威力ある攻撃を行える。
GSS-X303 シャドー・イージス
基本武装は『デュエル』と同様
他機体との最も異なる点としては、変形機構の有無。
整備性の劣悪さと、パイロットの負担と引き換えに下記の火力を持つMA形態に5機体で唯一変形可能であり、ぶっちゃけ試験的な意味合いがつよいものの、意欲作ではある。
580mm複列位相エネルギー砲スキュラ
イージスガンダムの固定武装の中では最大の火力を誇る大口径エネルギービーム砲
戦艦を一撃で沈めるほどの威力を持つが、胸部アーマーに隠れる構造の都合で使用はモビルアーマー形態時のみに限られる。その上燃費も悪いため、複数回撃った戦闘では真っ先にバッテリー切れを起こしている
名前はギリシャ神話の怪物「スキュラ」に由来する。
後書き
シャドー・シルエットシリーズ
機体コードはGSS『ジェノサイド・シャドー・シルエット』を冠する、ヘッドパーツが量産予定のタガーデザインである他は、正式採用機と同じフェイズシフト装甲と同武装を持つドッペルゲンガー機体。共通しているのは、傍目で同じ期待コンセプトと分からないよう、全ての機体がフェイズシフト後黒一色の配色となること。(ブリッツ変わらないじゃんという指摘は最もであるが、そもそも現時点での技術ではミラージュコロイドの透明化は黒色でしか再現できないためあえて無視されている。ちなみにブリッツはその機体性質上敵に奪取されてはならない技術満載なため、主に研究にしか使われておらず試運転もされていない)
機密や持ち運びの兼ね合いで、三機がジョンに託されている。
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