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外道戦記ワーストSEED

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断章2話 死神と盟主王 序章

 
前書き
おそくなりました。 

 
ムルタ・アズラエルとは、と『表』の人間に問いかければ、人はこう、言うだろう。

 好意的なものならナチュラルの英雄。地球の守護者。どんな僻地でも名前は知ってるお金持ちと。

 否定的なものなら、お金のために信念を捨てた青き清浄なる支配の否定者だと。

 裏からみれば、二大巨大組織、『ロゴス』・『ブルーコスモス』の支配者か。

 地球保護を原点として、今はコーディネーターとの諍いのためにナチュラル保護とコーディネーター排斥を謳っているブルーコスモス。

 世界的財閥の集合体、全世界規模の経済活動による利益追求を求めるロゴス。

 彼らと、今現在のアズラエルとの関係性を一言で言うなら、冷戦状態、だろうか。

 まずはブルーコスモスとの関係について語ろう。

 アズラエルは幼少期は、毒親からの教育や自身のコンプレックスにより、確かにコーディネーター排斥に近い思考を持っていた。これは事実である。

 しかし、コンプレックスをジョンという友により軽減されてから、彼は変わった。

 両親からトラウマのように囁かれた『コーディネーターは化物だから負けてもしょうがない』という呪い。

 ジョンからの『生まれつきプラスのハンデを貰っていないナチュラルは、得た結果すべてが自分の努力に帰結する』という祝福。

 2つの理論に挟まれたアズラエル少年は、とりあえず他者の視点を鵜呑みにして盲目になるのではなく、客観的に周りを見る、ということを人格形成に多大な影響を及ぼす幼少期に覚えた。

 そして、噂や人からの話でナチュラルとコーディネーターの間の関係性を見るのではなく、自己の客観的思考でその2つの間の関係性を見るようになった。

 結果、アズラエル少年は思った。

 コーディネーターは自身が思っていたような『瑕疵なく完璧な存在』ではない。

 生まれ持った能力に驕ったが故に落伍するもの。

 傲慢に足を掬われ、騙され一文無しになるもの。

 色眼鏡をかけずに見れば、コーディネーターは遺伝子改造により基礎スペックこそ高いものの、それに寄りかかり努力しないもの、その能力を過信し迂闊な者が多く、完璧とはかけ離れた存在であった。

 だから、アズラエルは現実と折り合った。

 幼少期のトラウマから未だにコーディネーターのことはそこまで好きになれないが、自身の個人的嗜好はともかく、コーディネーターが多数地球上に既に生まれ、社会の歯車になっているのは否定できない事実である。

 ならば、変に差別することは経済的利益を求める上で個人的嗜好以外で何も意味はない。

 そんな事を行うより、上手く使ってやったほうが社会との衝突も少ないし何より儲かる。

 その事実を受け止め、コーディネーターを『有用な道具』と再定義し、上手く使うことにしたのだ。

 そう考えれば楽だった。

 人間でないものに嫉妬するのは下らないし、当たるのも子供っぽい。

 そう心から思うことによって、アズラエルのコーディネーターに対する当たりの強さは鳴りを潜めた。

 結果、彼は親と付随するブルーコスモス強硬派と距離をおき、いわゆる『中立』のスタンスに変わった。

 勿論、ブルーコスモス内部の強硬派(コーディネーター排斥派)はその事に不満と不快感を示したが、しかし、アズラエルは彼らの思った以上に立ち回りが上手かった。

 そもそも、独裁者による専制政治がまかり通る国でもない限り、人種差別的な行いは現代倫理的に表に出せない。

 彼らの差別的行為は、いうなれば差別主義的な権力者の『見逃し』により成り立っている訳で。

 同様に権力者で尚且つナチュラルであるアズラエルに対して、ブルーコスモスが危害を加えられるか?と言われると、迂遠な自殺?という答えしか返らないだろう。

 その事実を心理的な盾として使い、じわりじわりと、真綿で首を絞めるように敵対派閥の力を削いで自分の都合の良い思想集団としてブルーコスモスを変えていった。

 ついでに両親の力も削いで、自身が若輩でアズラエル財団の家督を継いだが、彼にとっては些細なことである。

 なんせ、正史ではコーディネーターを一貫して『化物』と呼び、アズラエルの他者認識を歪めた張本人である。

 成長したアズラエルからしてみれば、『百害あって一利無し』の典型のような親であり、正直、生かしておいたのを褒めて欲しいくらいであった。

 話を戻そう。

 現代社会において、金と権力で自身を防護しつつ、正論で殴ってくる相手ほど、相手していて厄介なものはない。

 しかも、コーディネーター排斥派とは言うなればテロリスト紛いであり、きちんと上から根回しした上で強権で暴力を押さえつければほぼ、手詰まりである。

 そして、余程の理由が無い限り負け犬派閥に所属するメリットなど存在しない。

 結果、ブルーコスモスはコーディネーター排斥派が未だ少数派で存在するものの、圧倒的多数が(様々な思惑はあるにせよ)コーディネーターも利用価値を認め内部に抱える、柔軟な思考を持つ思想集団として再構成された。

 だから、ブルーコスモスとアズラエルの関係は『冷戦』である。

 では、世界的財閥の集団、『ロゴス』に対してのアズラエルの立ち位置と考えはどうか。

 兵器や武装集団の売買などのいわゆる『死の商人』的な商売を含む世界規模の取引を行う『ロゴス』について、彼、ムルタ・アズラエルの素直な感想としては『必要悪』である。

 このコズミック・イラが重ねてきた『尽きることのない争いの歴史』のせいで、僅かな火種で、人は殺し合いを繰り返す。

 繰り返す、ということは、その分資源の再生産や建物の補修などに莫大なリソースがかかる、という訳で。

 そう考えると、大量生産、大量消費を即座に可能とするトップダウン形式は、なるほど都合が良いのである。

 無論、問題は多々ある。

 少数の企業が独占する市場、というのは価格が硬直しやすく、また傘下の企業が無理なノルマを課されやすくなる、というのは、ジュニアスクールですら習う資本主義の悪例だろう。

 『だが、どうしようもないのだ』

 その始まりが、『ジョージ・グレン』という個人の好意であろうと、無闇矢鱈にばら撒かれたコーディネーターの製造法はコズミック・イラの人類にとって猛毒であった。

 結局の所、火薬の発明などと同じで、受け取る側が知性と節度を持てない限り、どんな技術も、『凶器』となる。

 子供を軽い気持ちで改造する親、未熟な技術で安請け合いして『失敗作』を生み出す二流企業。

 逆に『支配階級』を作り出し、自身がそれをコントロールするという我欲のためにその技術を改変するもの。

 無作為にばら撒かれた『技術』は、多くの恩恵と悲劇を同時に生み、結果、世界中でその技術の危険性に気づきながらも、手放せないでいる。

 まるで、『兵器』のように。

 いや、コーディネーター技術は人を兵器にするものではない、という篤志家がいるが、それが真実ならば、『メンデル』コロニーで起こった、度を過ぎたコーディネート技術の悪用とそれに反発するテロは何なのか?

 各国の大金持ちが『不老不死』を夢見て、赤子を実験体にしては捨てる現実は何なのか?

 その問いに答えを出せないまま、この世界はズルズルと引き返せない所まで来てしまった。

 だから、アズラエルは善意でコントロールするのを諦め、力で押さえつけることにした。

 聞こえが悪いが、アズラエルの心情を一言で表せば、『世界を守るものと、捨てるものに別けた』

 身内に関するものを除き、多少の諍いによる被害を見逃す代わりに、それが大火になるまえに、『ロゴス』の持つ圧倒的な財力、権力を用いた徹底的な情報把握と財にものを云わせた戦力を用いて事態を鎮圧する。

 そうすれば、被害は『最小限』ですむ。

 それが、アズラエルの結論だった。

 全てを救え、と言う者はいうだろう。

 そんなこと、言われなくてもアズラエルは分かっていたが、ならば聞きたい。

 半世紀以上、誰も答えられなかったこの問題の解決法を具体的に教えてくれ、と。 
 

 
後書き
仕事で不定期ではありますが完結は目指します 
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