ムゲン回廊の魔少女・限定版
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第三章第二節 地の魔術と天の魔法(advice)
レイチェルとエリックとの話を終えたヴェラは、ほむらたちのいる部屋に戻ってきた。ヴェラは心中訝しがっていた。あまりにも信じがたい話ばかりだ。とくにレイチェルがインキュベーターと契約をせずに自力で魔法少女になったという話はとうてい信じられそうになかった。
さきほど「問診のためにヘリに乗る」という話をした都合上ほむらにレイチェルのクルーによる適当な問診を受けさせヴェラたちはヘリの外に出る。
ヘリから十分に距離を置いた物陰でヴェラはカナメに「ラープスケンジャ」と「ガルトラサッカ」の報告をした。今回のTVチャットによる通信は杏子とチェンフイもすぐそばで見聞きしている。そのため「ラープスケンジャ」が悪魔を生け捕りにして情報を得ていることやレイチェルが不完全な魔法少女だという話はしなかった。ほむらに聞こえないよう距離を置き、追加で来た魔法少女たち四人に護衛をさせる。
「……そうか。魔法少女とソウルジェムを売買しているなど。しかも魔法少女自身がそれを行っていたなどとは、たしかに信じがたい話だ。そしてついにあの謎の組織と接触したか。何千年も前からある組織ならば、相当な人数の魔法少女を仲間として抱えているのだろう。彼女たちの力を借りることができれば、どれほど心強いだろうか」
「だがまだ信用できねえところが多すぎる。第一あいつが『ほむらに対する願い』というのがまだはっきりしない。敵ではないかもしれないがまだ身方と信じるには開示してくる情報が少なすぎる」
ヴェラは思う。「ラープスケンジャ」が生け捕りにした悪魔から情報を抜き出しているのと同様にこの通信でのやりとりも奴らに筒抜けなのだろうと。いかに暗号化されたセキュア通信であろうとも悪魔の力をもってすれば復号などたやすいだろう。おそらくダダ漏れなのであろう。それはインターネットを通じてだけでなくテレパシーによる会話も含めてすべて承知の上だった。だがこの連絡方法もいい加減限界にきていることはカナメもわかっていた。
「それにしてもどこかで聞いた気がする名前だ。『レイチェル、ドラグウェナ』……そうか、あのレイチェルか」
「なんだ、あいつのこと知っていたのか」
「いや、レイチェル=ドラグウェナという魔法少女は知らない。だが、『魔法少女レイチェル』なら知っている」
「どういう意味だ」
「私の知っているレイチェルは本の中、つまりフィクションの人物だ。子どものとき、レイチェルという名の魔法少女が活躍する物語を読んだことを思い出しただけだ」
「それはどんなお話なんですか」
チェンフイは好奇心に満ちた目で問いかける。
「話のあらすじはこうだ。――レイチェルという普通の少女が魔女によって魔法の星に誘拐される。魔女はレイチェルを甘いことばで誘惑しようとする。だがその魔女は自らの復讐がため、少女のもつ潜在的な魔法の力を利用しようとたくらんでいた。レイチェルは魔法少女として大いなる力に目覚めるが、魔女に変わる魔法をかけられ実際に魔女になりかける――という話だった。そしてその魔女の名が『ドラグウェナ』というのだ。今にして思えば、まるで自分の未来を預言するかのような話だった」
「まさに、わたしたちの置かれている状況にそっくりですね」
「レイチェルという名前には『捧げものの子羊』という意味が含まれているが、きっと彼女もレイチェルの物語を読んだのだろう」
「そうかそれで『本名じゃないけど』って言っていたのか。やれやれ、あいつ本当にバカなのか、それとも正直すぎるのか。ますます怪しくなるだけだっつーの」
カナメは少しのあいだ考え事をして言葉をつづけた。
「レイチェルに会ってみたい。ぜひ彼女の協力がほしい。そして彼女の願いを叶えてみたい。ほむらの記憶を戻すためにも、あの謎のアゲハチョウの調査についても、彼女のもつ組織力を利用したい」
その言葉に全員が驚く。
「なんだって。あいつはなに考えているのか、わからないんだぞ。それに肝心のほむら本人になんて説明するつもりなんだ」
すぐさま杏子が反論した。
「ほむらに説明はしない。私が独断で決める」
「お前正気かよ。そんなの、あたしがゆるさない」
「杏子、オレたちの敵はなんだ。悪魔だ。人間じゃねえ。悪魔と戦争をするのに正気なままでいられるかよ」
「ヴェラ、言い過ぎだ。たしかに、私ときみは正気ではないかもしれないが……いや失礼。佐倉杏子、どうか私を信じてくれないだろうか」
「仮にあいつが魂をよこせと言ったら、ほむらはイエスとしか言えなくなるんだぞ」
「もちろんそうならないようにするのが私の役目だ。そしてほむらの記憶を取り戻すためにも、悪魔との戦いをつづけるためにも、彼女のもつ巨大な組織力は必要だ。そこをどうかわかってくれないだろうか」
杏子はモニターに映るカナメを凝視した。しばらくの沈黙の後、重い口をひらく。
「……ほむらはあんたを信用できる人物だといった。あたしはほむらを信じた。そのほむらが信用した人間なら、信用する」
「ありがとう杏子。ヴェラ、彼女と会う段取りをつけてくれ」
「わかった」
「それからもうひとつきみたちに頼みたいことがある。おそらくこのまま見滝原に残っていても、ほむらの記憶が回復するとは限らないだろう。それより私はパプアニューギニアに行く予定だったのだが、それを代行してもらいたい」
「パプアニューギニアに何の用だ」
「先日現地で魔女狩りが実際に行われ、公開処刑がされたというニュースがあった」
「例のあの動画の影響がもう出はじめたのか。いくらなんでも早すぎないか」
「いや、これは私の推測ではあるが、あの動画は関係ないだろう。パプアニューギニアはもとより魔術信仰が現代にも残っており、黒魔術によって本気で人を呪い殺すことができると信じている人々が今でもいるのだ。人間につかまるような魔法少女はいないとは思うが、このタイミングでこういう事件が起きたということに、私はなにか引っかかるものを感じた。つまりなにも根拠がないということなのだが、なぜか現地に行って何かを確認してきたいという欲求が、私の中で大きく膨らんでいるのだ。こんな理由ですまないが引き受けてくれないだろうか」
「わかった。お前の直感と本能がそう告げているというだけで、理由としては充分だ」
(こいつら、それだけの理由で海の向こうまで行っちまうのかよ。でもたしかに、あたしにも直感を信じてよかったと思った経験がある。どのみち国外に出る予定だった。行き先が変わっただけだ)
杏子はそう思って反対はしなかった。
「すまない。助かる。もし魔法少女に出会えたら、そのときは頼む」
「まかせておけって。そうだついでだから交渉の材料として、あいつらに現地までの足を用意させようぜ。使えるものは大いに利用しないとな」
「ふふ、それはいいな。これでしばらくは予約済み航空席を盗らなくて済むな」
「えっ、お前らそんなこともやってたのか。まあ、あたしも食うためにいろいろやったから、人のことは言えないけどな」
ヴェラはレイチェルにカナメの伝言を伝えるためヘリに戻ることにした。
杏子とチェンフイは、ほむらのもとに戻ると護衛の少女たちとの会話が聞こえてきた。
「みなさんは大道芸人なんですよね。ぜひ芸をみせてください」
ほむらはウキウキして目を輝かせながら四人の少女たちにせがんでいた。少女たちはテレパシーで会話する。
〈えっ、ああそういえば、あたしらそういう設定になってたっけ。どうする〉
〈どうするって。いまさらウソでしたとは言えないでしょう〉
〈それはわかるんだけどさあ、このメンツのなかで芸なんかできる子いたっけ〉
〈わたし芸なんかないよ。あんたのダンスか歌でも披露したら〉
〈そんなんで大道芸人って言えるの〉
「どうしたんですか、みなさん。はやくおねがいしますよ」
少女たちは困惑した表情を浮かべ互いの顔を見つめあう。気まずい空気が流れた。
(あーあいつら困ってんな。んーどうしよっか。あたしも芸といえるもんはないな)
「それでは、わたしが披露させていただきましょう」
そういいだしたのはチェンフイだった。
「へ、お前なんかできるの」
「チェンフイ、さん。ぜひお願いします」
普段だったら呼び捨てで呼び合う少女たちは救い主を見る目でチェンフイを見つめた。
「それではほむらさん、その看板まえに立って、うでをひろげてください。みんな、ほむらさんの手を支えてあげてね」
「こうですか」
「決して動かないでくださいね。動くとけがをしちゃいますよー」
(おいチェンフイ、なにをするつもりだ)
全員がそう思った瞬間、チェンフイは片手に三本ずつナイフをとりだした。
「えっ、まさか、それをわたしに向けて……」
はたしてほむらが思った通りチェンフイはほむらにナイフをたて続けに投げる。
「はい、はい、はい、はい、はい、はい」
ナイフはほむらのからだのライン沿いに見事に看板に突き刺さった。
「ひぃっ」
ほむらは顔を引きつらせる。さすがにこれはみなが度肝を抜かれた。芸とはいえ自分たちのリーダーに向けてナイフを投げつけるとは。
「つぎは回転しながら投げまーす」
周囲の心配もよそにチェンフイはますます調子にのってきた。片脚を軸にしてスピンした状態でナイフを投げる。これも見事にぎりぎりではずれた。
「はい。はくしゅー」
はっとした少女たちはあわてて拍手をする。
〈うは、あいつノリノリだな〉
〈リーダーに対しこんなことやるって、なんて大胆な子なの〉
〈すごーい。あたしもあとで教えてもらおうっと〉
〈ねえ、止めたほうがいいんじゃないこれ〉
〈大丈夫だって。たぶん問題ないって〉
〈これってさあ、もしものときは、連帯責任にならないの〉
「さて、次はもっとすごいですよ~」
チェンフイはその場でジャンプ、宙返りして逆さの状態からナイフを投げる。
「おおぉ」
「かっこいいぃ」
「ステキ、ステキー」
「ちょっ、調子にのりすぎじゃない」
「それでは、いよいよフィニッシュでーす。今度は目をつむって十二本投げまーす」
「ええぇ。マジ」
「すごい。ワクワク」
「止めろ。だれか止めろ」
宣言通りチェンフイは目をつむって十二本のナイフを数えながら投げる。
「一、二、三、四、五、六……」
ほむらは恐怖と緊張でがちがちにかたまり顔面蒼白になっていた。
「七、八、九、十、十一、そして十二」
最後の一本がほむらの頭上付近に刺さり、クラッカーのように軽い爆発をした。
「ひいいっ」
驚いたほむらに紙ふぶきが散りナイフの柄から花が飛び出し目前にたれる。ほむらは腰を抜かしてその場にぺたりと尻もちをついた。
「いじょーでーす」
チェンフイは得意げそうに満面の笑みを浮かべていた。
「わーい、おみごとー」
「すごい、すごーい」
「いいもの見たー。すごく得した気分」
「やりすぎ。あんたやりすぎ」
少女たちから拍手と歓声と怒鳴り声がわきおこる。
「……お前ら、なにやってんだ」
ちょうどその場にもどってきたヴェラはあきれていた。
「えっ、えーと、これはほむらさんが芸を見たいといいだして……」
「あたしたちはその、なにもできないから、どーしよーかなーって」
「それでチェンフイ、さんが自分がやりだすといって」
「わたしは、一応止めようとしたんですけど……」
少女たちは叱られると思ってびくびくしていた。
「ふーん。で、お前らはその肝心なほむらを、放置か」
少女たちは「あっ」と思いあわててほむらを介抱する。
「ほむらさん大丈夫ですか」
「おけがは。ないか」
「ごめんなさい気づきませんでした」
「顔色悪いですけど、気分が悪いんですか」
「えっ、あっ、はい。わたしは、大丈夫、です。正直びっくりしました、けど。えっと、もう、芸はけっこうです」
「なんだよほむら、もういいのかよ。せっかくあたしも面白い芸を思いついたのに」
杏子が糸切り歯を見せていたずらっぽい目で笑っていた。
「どんな芸を思いついたんですか」
チェンフイが興味深げに聞く。
「槍を地面に突き刺して、そのうえでアクロバットをしようと思いついた」
「わぁ、おもしろそう♪」
「ほむらも含めてお前らに報告がある。まずは全員集まれ」
ヴェラの招集にほむらと七人の魔法少女たちが集まる。
「ラープスケンジャの医療スタッフがいうには、国外でしか受けられない治療をほむらに受けさせたいのと、ほむらが現在かかっている病気の情報をもっと集めたいそうだ。あいつらは国際的な慈善組織で世界中を自由に行き来できる特権を持っているらしい。そのため民間の航空機は使わない。オレたちはあいつらの用意したチャーター便で国外へ出る」
もちろんこれは、ほむらを納得させるための口実で当然ほむら以外にはわかっていた。
「えっ、わたし外国につれていかれるんですか。そんな突然に。それにわたしパスポートを持ってないから、むりです」
「パスポートなら心配いらない。機内で作ってくれるようになっている」
もちろんこれは非合法なやり方でラープスケンジャのスタッフが用意をするという意味だが、それはいわなかった。
「へー、パスポートってそんなにカンタンにできるんですね。わたし知りませんでした」
世間知らずのおかげでほむらはまったく疑問を感じなかった。
「ほむら、お前の円盤ケースをちょっと貸してくれ」
ヴェラはほむらの盾から本人に気づかれないようにほむらのパスポートを取り出した。ほむらはもともとソウル市へ行くときにすでにパスポートを作っていた。だが本人の知らないところでこんなものが出てきたらまた話がややこしくなる。しかも眼鏡をかけず目つきも別人の写真が貼ってある。ほむらは写真だけ貼り直せばいい。偽造パスポート作りには外務省に登録してある旅券番号の照合が必要だ。それにはそれらの職権をもつ人間とのコネがなくてはならないしハードルは高い。だが正規経由で作ったものを写真を貼り替えるだけの変造だけならさほどむずかしくはない。ラープスケンジャはこのような偽装工作にも抜かりのない組織だった。
実はヴェラたちもこうやってその筋の職人に変造パスポートを作ってもらっていたので流れはよくわかっていた。あのときは年齢が二十歳になるよう生年月日と有効期限を変造した。未成年では有効期限が五年までのものしかつくれないことと、成人になっていればカジノに入り魔法をつかって楽に大金が作れるからだ。さすがにカナメとヴェラに変造技術はなかったのであのときは高額な制作費を請求された。
「医療スタッフはすでにお前の病院と親に連絡をとり、行き先の宿泊施設の確保もできているそうだ。さすがに日帰りできる用事じゃないからな。治療と検査が順調にいっても三日から四日くらいということだ」
そのとき上空から新たな別のヘリが来るのが見えた。ほむらたちを乗せる専用のヘリだ。
「ちょうどお迎えが来たようだぜ。オレたちはあれに乗る」
〈ヴェラ、あのレイチェルって子はカナメさんの所へいくのね〉
〈そうだ。現時点であいつらの信用度は不明だが、カナメが白黒はっきりさせてくれる〉
〈是非そうあってほしいもんだ。あたしはさっき、ああはいったものの、正直まだ気が気でならないんだ〉
「あのーところでヴェラさん、行き先はどこなんですか」
「パプアニューギニアさ」
なんでパプアニューギニアなんだろうか。最先端医療のイメージとは真逆のように感じた。ほむらは疑問に思いつつも弱気な性格のため反抗せずおとなしくしたがうことにした。
ヴェラたちはヘリに乗り込み見滝原の町をあとに南国へ向けて飛び立った。
レイチェルはヘリで移動しながらTVチャットで父モルペスへの報告をしていた。重篤なモルペスは治療室のベッドのうえで寝たままの状態が長く続き相当やつれていた。まだ四十代前半だというのに五十代以上に老け込んで見えた。
「お父様、申し訳ありません。ほむらが記憶喪失になってしまいました」
「……案ずることはないレイチェル。ソウルジェム、すなわち人間の魂魄に宿る神秘なる霊性の力を信じよ。魔法少女のもつ可能性と創造性を信じるのだ。それが我ら『ラープスケンジャ』がはるか古代より受け継がれてきた教え。……レイチェル」
「はい」
「禍いも困難も生じて然り。これでいいのだ」
やつれながらもモルペスは朗らかな小児のように白い歯を見せて笑った。
「はい。お父さま」
レイチェルも父の笑顔と言葉に励まされたことで自然と笑みがこぼれた。
「レイチェル、魔法の力とは悪魔によって与えられたものではない。わかってるな」
「はい、お父様。魔法の力とは宇宙から与えられた力である。それは宇宙の意志による人類への贈り物。わたしたち幼い人類に対し『目覚めよ。そして創造せよ』と宇宙が問いかけ求めているものです」
レイチェルはいったん深呼吸をして言葉を続けた。
「そして力という自由と権利が与えられるということは、同時に義務と責任が与えられるということでもある。そうでしたね、お父様」
「これが新頭首であるお前にとって、最初の困難と試練となるだろう。だが宇宙の意志に身をゆだねてゆけば、自ずと道は開かれる。レイチェル、お前なら必ず乗り越えられる。エリック、力になってやってくれ」
「先代、わたくしめが必ずや、お嬢様の願いを叶えてみせます」
「たのんだぞ。私はもう少し休むとしよう。おやすみレイチェル」
「おやすみなさい、お父様」
レイチェルはこれが父との本当の別れの挨拶になるかもしれないと、このころ感じていた。それほどまでに父の容態は悪化していたのだ。だがここで父やエリックたちに涙を見せるわけにはいかない。自分はもう、ただの少女ではない。ラープスケンジャという巨大組織の中心に立っているのだから。かつて魔法少女だった亡き母がそうであったように自分も同じ場所にいるのだから。少女はその小さな双肩に全世界にいる魔法少女らの命運を背負っていた。ほむらとレイチェル。先ほど出会ったばかりのふたりの少女の境遇はとてもよく似ていた。運命の歯車はまたしても不思議な巡り合わせを運んできた。そしてその歯車は少しずつ互いに惹かれ合うように近づきつつある。そしていまもうひとり、運命の歯車である少女がまた近づきつつあった。その少女はカナメ=クラウディア。ほむら、カナメ、レイチェル。三人の少女たちは人類史上かつてない強大な魔法少女組織を生み出す可能性とリーダーシップを秘めていた。この三つの歯車が完全にかみ合わさったとき、悪魔たちにとって最大の驚異となるにちがいなかった。
この世とは次元の違ういずこかの異空間。ここで十体のインキュベーターが集まり会議を行っていた。三人の魔法少女たちの出会いを危険視し重大視した悪魔たちは新たな策略を練り始めていた。
〈しかしカナメとレイチェルが出会うということは同時にチャンスでもある〉
〈たしかに。ふたりを同時に消すことができれば手間もはぶける〉
〈ハイキたちは所詮捨て駒。カナメとレイチェルの会合場所はこちらに筒抜けだ。魔女を用意しよう〉
〈ゲラルディーネはまだ使えないのか〉
〈彼女は深層意識下で命令を拒絶している。デバッグは進行中だ〉
〈情けない。それではとても「魔操少女」と呼べないではないか〉
〈せっかく手間と暇をかけた魔操少女も使えなければ意味がない〉
〈もうひとりの魔操少女を早急に調整するべきではないか〉
〈彼女はまだ不安定だ。それにゲラルディーネより圧倒的に劣る〉
〈しかしほむらの狙撃に失敗したというのは実に解せない〉
〈「彼女」のじゃまさえなければ。その動機も理由も不可解だ〉
〈彼女がやったこととなればボクたちにはどうしようもない。仕方がないことだ〉
〈だがほむらの記憶は消された。これはまたとないチャンスだ〉
〈見滝原から出てしまえばいくら特別な存在である彼女といえど手はだせまい〉
〈そうかな。彼女は観の眼の持ち主だ。たとえ世界の裏側でも知ることができる〉
〈ほむらが自分が魔法少女だと知らないうちに手を打たなければ〉
〈やはりパプアニューギニアの魔女を利用するのが一番か〉
〈よしほむらに対してはそれでいく。現地担当は魔女を用意〉
〈カナメとレイチェルにも現地担当は魔女の用意をするように〉
〈以上をもって本会議を終了とする〉
悪魔たちは忽然と姿を消した。ほむらたちに対し新たな悪魔の影が音も立てず、そして確実に忍び寄っていた。
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