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幽幻の茶

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第二章

「そうか、これか」
「これが上様のお考えか」
「幽幻と詫び錆び」
「その二つを共に堪能する」
「その場を我等に下さったか」
「二つを同時に堪能する場を」
「何と贅沢な」
 大名の一人が思わず言った。
「これはまた」
「全くだ」
「幽幻も詫び錆びも共に堪能出来るとは」
「どちらも素晴らしいものだが」
「そのどちらも共に堪能出来るとは」
「これはまた贅沢だ」
「至上の贅沢だ」
 こう言って唸った、そして綱吉のこの度の催しについての考えと狙いに唸っただった。
 その場には柳沢もいた、それで彼は場が催しが終わった後で綱吉に言った。
「まさか両方を堪能する為のものとは」
「どうであったか」
「はい、実にです」
 綱吉に微笑んで答えた。
「贅沢でした」
「そうであろう、能を楽しみな」
「共に茶を楽しむ」
「幽幻も詫び錆びもな」
「共に堪能する」
「そうしたことはどうかと思ったが」
「二つのこの世でない美を感じました」
 こう綱吉に述べた。
「お見事でした」
「そう言ってくれるか、ではまた機会があればな」
「行われますか」
「そうしようぞ」  
 こう言ってだった。
 綱吉はまたそうした場をもうけた、そうして言うのだった。
「二つの美が共にあるのもな」
「よいものだというのですね」
「余はそう思ってな」 
 柳沢に茶道を共に楽しみつつ話した。
「催してみたが」
「よいかと」
 柳沢は率直に答えた。
「これもまた」
「よいか」
「はい、よいと思えばです」
「そなたはよしと言うわ」
「そしてどうかと思えば」
「そなたはそうした者だ、ではな」 
 綱吉は微笑んで言った。
「これはよいな」
「ですからこれからも」
「催すぞ」
 柳沢に笑顔で言った、そうしてだった。
 綱吉は能の時に茶道も共に催す様になった、それは二つの美が共にあるものとして評判が高かった。それで彼は死ぬまでよくこの催しを行った。
 徳川綱吉のこの催しの話は後世には広く伝わっていない、だが彼がそうした催しをしていたことは僅かな書にある。そして真に美を知っていたとして高く評価されている。犬公方と言われ長く評判が悪かったが近年再評価されている彼のまた新たな一面と言えるであろうか。


幽幻の茶   完


                    2024・12・11 
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