俊足婆ちゃん
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第一章
俊足婆ちゃん
八十を越えてもだ。
前畑淳子は背筋がしっかりしていてすいすい歩く、一日二万歩は歩き歩く速さもかなりのものであり。
同じ歳の夫の防人よりも健康的な位だ、それで近所の人達は驚いていた。
「本当に健康ね」
「背筋がしっかりしていて」
「すいすい歩いて」
「歩く距離も多くて」
「歩くのも速くて」
「いや、若い頃からそうなんだよ」
皺だらけの顔で白髪がかなり減っている穏やかな顔立ちの夫が言った、見ればその手には杖がある。
「奥さんは」
「そうですか」
「若い頃からですか」
「健康で、ですか」
「若くて」
「そうなんだよ、もうそれこそ」
夫はさらに言った。
「健康そのもので」
「それで、ですか」
「歩くのも速くて」
「それで、ですね」
「健康だったんですね」
「そうなんだ、僕なんてね」
夫は自分のことも話した。
「最近足が弱って」
「杖ですね」
「杖使っておられますね」
「そうですね」
「そうなんだ」
そうだというのだ。
「今ではね」
「やっぱり八十越えますと」
「杖も必要ですね」
「そうなりますね」
「そうだけれどね」
それでもいうのだ。
「うちの奥さんは違うよ」
「本当に凄いですね」
「今も杖なしであそこまで歩けるなんて」
「若い頃みたいに」
「どうしてああなれるのか」
誰もが不思議に思う位だった、兎角淳子の足は年齢を感じさせない健脚だった。それは家でも同じであり。
夫にだ、白髪のショートヘアで皺だらけだがしっかりしている表情で話した。
「若い頃からの習慣って抜けないわね」
「歩くことだね」
「流石に走ることはしないけれど」
「八十になったら」
「ええ、けれど歩くことはね」
このことはというのだ。
「運動自体が日課になっているわ」
「陸上選手だったからね」
「中学の部活ではじめて」
そうしてというのだ。
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