ピアノも続けてこそ
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第一章
ピアノも続けてこそ
小学一年からピアノを習って六年になる、小学六年生の上坂彩花は最近ようやくピアノが上達したと自分で思えてきた。短めの黒髪をツインテールにした少し垂れ目で優しい顔立ちだ。今ピアノ教室でピアノを弾きつつ言った。
「何かずっとやってやっとです」
「上手になったって思えてきたのね」
「はい」
先生の武藤里香に話した、大学で音楽の講師もしていて腰までの長い黒髪と細面で大きな細い垂れ目を持つ色白の女性で背は一六四でかなり胸が大きい。その彼女に言うのだ。
「ずっと全然弾けない感じでコンクールでも」
「去年と三年の時受賞したでしょ」
「そうでしたが」
それでもというのだ。
「ずっとです」
「満足出来なかったのね」
「はい、一年生の入学と同時にはじめて」
そうしてというのだ。
「全然駄目でしたが」
「六年生になって」
「少しですが上手になったなって」
「自分でそう思える演奏が出来てきたのね」
「何かです」
彩花はこうも言った。
「指が全然。思う様に動かなくて」
「それでなのね」
「駄目だ駄目だって」
その様にというのだ。
「思っていました」
「それが六年生になって」
「最近になって」
それでというのだ。
「思えてきました。駄目ですよね」
「駄目って?」
「はい、一年生からやっていて」
里香にそれでと話した。
「やっとですから」
「そんなものよ」
だが里香はこう言った。
「先生もずっとやってまだまだよ」
「そうなんですか」
「そうよ、ずっとやっていて」
「やっとですか」
「少しでもね」
「上手になったってですか」
「思えるのよ」
「実はちょっとやったら」
彩花は一年生の春の自分を思い出しつつ話した。
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