冥王来訪
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第三部 1979年
新元素争奪戦
硝煙 その1
前書き
ダットサンは、日産が1931年から1986年まで、そして2013年に復活し、2023年まで海外で販売していたブランドです。
サニー、ブルーバードや、シルビアなども、元はダットサンブランドでした。
日本国内だと1986年までかな……
旧式のダットサンが喘ぐようにして、濃茶色の排気煙を後方に流しながら登坂していく。
速度は精々40キロほどだろうか。
5台続くトラックの荷台には、それぞれソ連製の対空機関砲が積んである。
車列の真ん中の三代目の車両の助手席は、白樺迷彩の戦闘服に身を包んだKGB大佐が座っている。
先頭だとロケット弾や機関銃の標的になり、最後尾だと退路を断つために狙われる可能性があるからだ。
「同志大尉、滑走路を先に抑えよう」
KGB大佐は、脇にいる副官のチェチェン人の大尉に話しかけた。
「もしかすると、これは罠かもしれませんね」
チェチェン人の男は疑心暗鬼にかかっており、そんな事を言う始末である。
KGBのアルファ部隊は、木原マサキの為に既に200名近い損失を受けており、そのショックは大きかった。
「そうかもしれない。
だが、恐れていては何も始まらない」
「ええ……」
チェチェン人は、少しばかり気弱な返事をする。
「参謀総長は既に50の大台を超えている。そんな老いぼれとESPの女を連れては、さほどは動けまい」
「あの日本野郎は……今後、どうするつもりでしょうか」
「単純に考えれば、あの飛行機を操縦して、本土に持っていくのだろう」
トラックは滑走路まで200メートル足らずとなり、皆に緊張感が走る。
AK74の銃把を握りしめたり、示す態度は千差万別である。
1979年当時の函館空港は、2500メートルの国内線限定の民用空港だった。
元々は1200メートルだったが、71年に700メートル、78年に500メートルと延長され、現在の形になった。
民用空港の建前なので、軍の警備隊はおらず、空港警備派出所しかなく、武装も軽微なものだった。
敵のヘリボーン奇襲を受ければ、即座に空港機能は停止し、降伏せざるを得ないだろう。
マサキは疑心暗鬼になった。
もし実戦経験豊富なソ連のスペツナズに襲われたら、北海道警では不安だった。
何しろ、機動隊の訓練を受けていないものが多く、頭数をそろえるのを優先したからだ。
そう思ったマサキが、喫煙所から格納庫に向かう際、鈍い爆音が聞こえた。
突然、閃光が走り、ほとんど同時に衝撃はと大音響が襲う。
ポリウレタン製の耳栓をしているのに、一瞬鼓膜が破れたかと思うほどだった。
視線を投げると、滑走路に留まっている旅客機やヘリが、断続的に攻撃されている。
82ミリ榴弾が滑走路の近くに落下するが、密生した下草の為に本来の威力を発揮できなかった。
ただし小規模な火災は生じさせている。
その弾雨の中で、炎上している旅客機が、何かの拍子で後方に下がっていく。
駐機している際に攻撃を受け、ギアを後方に入れたまま、操縦士が脱出した為である。
そして止めてある別な旅客機と衝突した際に、燃料に引火して、大爆発を起こす。
旅客機の大爆発で、函館空港は危険な状態に陥ってしまった。
「敵が速い速度で基地への奇襲をかけています。
5分ほどでそこから救援を……」
函館中央署の所長の所へ、函館空港交番から連絡が入った。
早くも目論見に狂いが出ている。
「まさかソ連が特殊部隊を……」
「いきなり対戦車ロケット砲で」
「滑走路をか」
「そうです」
「敵はどの程度か」
「皆目、見当が付きません」
「反撃できなかったのか」
「派出所を一撃で破壊され、それ以外にもターミナルビルに一発砲弾を食らいました」
第二航空団の団司令に掛け合って、航空戦力を呼び込んでもらうか……
署長は、それまで蔑んでいた北海道の各師団に電話を入れることにした。
空港に警報が鳴り渡った。
短く鋭いサイレンの音が、滔々と響いていく。
遠目にもわかる赤い線が一直線に進み、ターミナルビルの管制塔の部分に直撃する。
一瞬赤い火焔が上がり、凄まじい爆音を生じさせる。
砲弾の一部が落下し、何か所かで燃え始める。
戦端は、突然として開かれた。
白樺迷彩を着たソ連兵、およそ200名が、空港を制する勢いで駆け寄ってくる。
将に雲霞のごとしだ。
しかし鎧衣たちは、無為無策ではなかった。
既に密かにクレイモア地雷を設置し、迎撃する自信はあった。
鎧衣は、M57起爆スイッチの蓋を開けると、プラスチック製の黒いボタンを操作した。
それと同時に、函館空港の北側にすさまじい爆音が響き渡る。
スペツナズの隊長は、鋭い爆発に視線を送った。
ソ連兵の相当数が爆風に巻き込まれ、空中に飛ばされている。
同時に滑走路の方から、閃光と共に白煙が上がった。
ソ連兵のいる北側の区画へ、鎧衣の手により、89mmロケット発射筒が撃ち込まれたのだ。
二秒ほど経過して、爆発が起こり、衝撃波と破片が飛び散る。
爆風が立っている者を、ことごとくなぎ倒した。
鎧衣は、M20A1 スーパー・バズーカの次弾の装填準備に入る。
点火する電気系統に、ロケット弾を装填し、発射の準備を完了した。
爆風を受けて無事だった者が、よろよろと立ち上がる。
その近くには、彼らを乗せて来たダットサンが見える。
それを狙って、鎧衣は二発目を発射した。
だが標的が小さいため外れ、手前で爆発する。
襲撃してきた兵士は、その破片を浴びて、五体がバラバラになる。
残った三人の兵士を白銀が掃射する。
スペツナズの隊員を、煉獄の苦しみから解放してやるのだ。
全ての出来事は、わずか20分から30分ほどの間だった。
後書き
戦闘描写、単調ではありませんか?
改善しているつもりですが、どうでしょうか。
何かご不満な点がありましたら、感想欄にお書きください。
その他、ご感想お待ちしております。
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