ナポレオンコンプレックス

「だからだ」
「これ以上はだな」
「無理だ、フランスの為にならない」
「フランスに害になるか」
「卿も思うな」
「私が忠誠を誓うとすればフランスだけだ」
　これがフーシェの返事だった。
「卿と同じだ」
「そうだな、ではだ」
「動くか」
「いがみ合いは中断だ」
　二人で話した。
「一時でもな」
「そうすることだな」
「英雄を倒すのだ」
「古今無双と言っていいな」
「それならばだ」
「いがみ合っていてはならない」
「フランスの為だ」
　タレーランは真剣な顔で言った。
「動くとしよう」
「共にな。しかしだ」
　フーシェはタレーランの言葉に頷きつつ彼に言った。
「イギリス等では彼を小男と言うな」
「小柄とだな」
「そう言うがな」
「何処がと言いたい」
　これがタレーランの返事だった。
「彼はどう見ても平均かやや高い」
「背丈はな」
「頭は大きく体形は男性的ではないが」　
　それでもというのだ。
「小柄ではない」
「そうだな」
「彼を貶めたいのかも知れないが」
　タレーランはそうした話が出たのはそうではないかと考えつつ話した。
「事実は見ることだ」
「しっかりとな」
「さもないと間違える」
「彼に対することにもな」
「あらゆることについて間違える」
　それこそというのだ。
「相手を貶める、誤った情報を信じる」
「そうするとな」
「だからだ」
「彼の背丈についてもな」
「正確な情報を知ることだ」　
　それが絶対だというのだ。
「彼はむしろ背は高い」
「そうだな」
「周りの近衛兵や将軍が大きいだけだ」
「フランスの平均で言うと小さくない」
「そんな話は一笑に付す」
　タレーランはにこりともせず言った。
「それだけだ」
「間違いだとな」
「それだけだ、ではだ」
「英雄にあたろう、決して小さくない英雄にな」　
　フーシェもこう言った、そして二人はナポレオンにあたった。　
　後世ナポレオンは小柄と言われ当時からそうだったが実は違った、この話をここに書いておく。これもまた事実を書き残すことだと思いそうした。一人でも多くの人が読んで頂けるのなら幸いである。


ナポレオンコンプレックス　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２５・５・３０