冬の中の郷
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第一章
冬の中の郷
この頃まだ自然は今よりも人の傍にあった、それこそ少し行けば山があり川がありそこに生きものや草花があった。
相当な都会でもそうだった、それは東北のその地方なら尚更だった。
冬になり外は雪が深く積もり外に出るのも難しいその村でだ、田所元春小さな目と超保形の彫の薄い顔に短い黒髪を持つ一七〇程の背の彼は家の中で内職をしつつ妻の芳江ふっくらとしたおかめの様な顔立ちで黒く長い髪の毛を後ろで団子にした小柄でやや太った彼女に言った、二人共厚着で部屋には石油ストーブがあり上には薬缶がある。
「畑が終わるとな」
「こうしていつも内職よね」
「ああ、もうずっとな」
夫は妻に話した。
「こうだな」
「この辺りはね」
「昔よりましになった」
テレビ、カラーのそれに映るタイムぼかんシリーズを観つつ言った。畳でガラスと一緒にある障子と木の箪笥の部屋の中で話している。
「昔なんてな」
「こんなストーブもなかったし」
「テレビだってな」
「なかったしね」
「ずっとましになったな」
「そうよね、けれど服はね」
「畑仕事がなくなったらこうだ」
農具を作りながら言った。
「ものを作って売ってな」
「お金手に入れてるわね」
「ああ、農具ならいつも触ってるしな」
「作れるわ」
「冬も何か作れる様にするか」
「うちもハウス栽培やるの?」
妻は夫に問うた。
「これからは」
「そうする、もう農具だってでかい会社が作ってるしな」
「それじゃあね」
「そうしていくか、それで子供達はまたか」
「学校から帰ってね」
妻は夫に手を動かしながら答えた。
「飛んでいったわ」
「わしが村長さんのとこ行ってる間にか」
「二人共帰ってきてね」
学校から家にというのだ。
「ランドセル置いてよ」
「遊びに行ったか」
「今頃スキーか橇か雪合戦よ」
「雪だるまかかまくら作ってか」
「遊んでるわ」
「毎日だな、わし等が子供の頃からそうだったな」
「その前からね、冬になったらね」
今の季節になればというのだ。
「もうね」
「遊ぶといったらな」
「雪でよ」
「皆でな、だったら帰ったらな」
夫は妻に笑って話した。
「すぐに風呂に入る様に言うか」
「濡れて冷えてるからね」
「だからな」
それでというのだ。
「言うか」
「そろそろ沸かすわね」
風呂をというのだ。
「そうするわね」
「今はガスだし楽だな」
「お風呂沸かすのもね」
「昔は薪でだったからな」
「大変だったけれど」
「今はガスだからな」
それで沸かせる様になったからだというのだ。
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