蝶々の夜
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第一章
蝶々の夜
夜に蝶は出ない、だが。
その言葉に対してだ、昆虫学者のロバート=クリンソン眼鏡をかけ口髭を生やした面長の顔に白髪の長身の彼は言った。
「それは何とでもなる」
「夜にもですか」
「蝶は飛ぶ」
助手のトーマス=マスダ日系人で黒髪で黒い目の面長で自分より背の高い彼に言った。
「夜もな」
「そうなのですね」
「工夫次第でな」
「工夫によってですか」
「そうだよ」
こう言うのだった。
「これが」
「そうなのですね」
「実際にだよ」
クリンソンはマスダに言った。
「今夜にもだ」
「蝶達をですか」
「飛ばしてみせるが」
「それが出来ますか」
「簡単に」
一言で言い切った。
「出来るとも」
「簡単にですか」
「そうだよ、では今夜時間はあるかね」
「独身彼女なしです」
マスダは笑って答えた。
「そして今夜はマリナーズの試合もありません」
「奇遇だ、私もドジャースの試合がない」
「バスケの方もです」
「私はホッケーだが」
「お互い都合がつきますね」
「そうだな、ではな」
「今夜ですね」
「夜に飛ぶ蝶達を見せよう」
マスダに笑顔で言った、そうしてだった。
二人は昼の間働き共に夕食を食べた、そして。
日が暮れて夜の帳が世界を支配するとだ、クリンソンは濃紫の世界を窓の外に観ながらそのうえでマスダに話した。
「ではだ」
「これからですね」
「それを見せよう」
「夜に飛ぶ蝶達を」
「そうしよう」
こう言うのだった。
「これよりな」
「ではどういったものか」
マスダはそれならと応えた。
「見せてもらいます」
「それではな」
クリンソンは微笑んだ、そしてだった。
マスダを連れて二人が所属し勤務している研究所の温室に行った、温室は密室の中にありまるで昼の様に明るい。ただ温室の外は夜そのものだ。
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