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天の船

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第一章

               天の船
 気球の話を聞いてだった。 
 江戸の者達は笑ってだ、その話した平賀源内に言った。
「また玄愛さんの作り話か」
「ほらだろ」
「全くいつもそんなことを言って」
「源内さん話が上手ね」
「出来た話だよ」
「いやいや、それが出来るんだ」
 だが当の源内は煙管片手に話した。
「その気球を使って空を飛ぶことがな」
「本当かい?」
「人が空を飛ぶなんて」
「鳥みたいに」
「嘘みたいな話ね」
「そうだよ、阿蘭陀辺りじゃな」
 蘭学を学ぶ者として話した。
「それが出来るんだよ」
「何か仙人みたいだな」
「空を飛ぶなんて」
「気球を使って」
「そんなことが出来るなんて」
「だからお前さん達もな」
今自分の話に嗤っている彼等もというのだ。
「気球が日本に入ったらな」
「空を飛べるのかい?」
「その気球とやらに乗って」
「それが出来るんだね」
「そうなるんだよ」
 こう言うのだった、だが。
 そんな話はほぼ誰も信じなかった、江戸の者は源内が世を去ってもそんな話は作り話だと思っていた。 
 それは勝海舟も同じでだ、笑って言っていた。
「全くそんなことあるかってな」
「思いますよね」
「普通に」
「人が空を飛ぶなんて」
「それが出来るのは鳥だよ」
 道場で弟弟子達に話した。
「それか天狗のすることだ」
「仙人か妖術使いか」
「そんな話ですよね」
「出来る筈がないですね」
「人が空を飛ぶなんて」
「そうさ、おいらあと少しで亜米利加に行くけれどな」
 それでもというのだ。
「そんなのあるかってんだ」
「全くですね」
「気球でしたっけ」
「そんなものがあるんて」
「ああ、源内さんの与太話さ」
 こう言っていた、そしてアメリカに行ったが。
 道場でだ、彼は目を丸くさせて言った。
「気球本当にあったぜ」
「えっ、あったんですか」
「気球本当にあったんですか」
「それで空を飛べるんですか」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「源内さんの話は嘘じゃなくてな」
「人は空を飛べますか」
「気球を使ったら」
「それが出来ますか」
「ああ、そうなんだよ」 
 弟弟子達に真顔で話した、そしてだった。
 この話は日本中に伝わり誰もが驚いた、人は空を飛べるのかと。
 西洋のことは何でも驚かれたが気球のことでもだ、兎角人が空を飛べるということはまさに夢の様だった。 
 やがて日本でも気球が作られ人は空を飛ぶ様になった、だがここである者がこんなことを言ったのだった。
「船で空を飛べるか」
「いやいや、無理だろ」
「船が空を飛ぶか」
「船は河や海のものだ」
「空を飛ぶなんてな」
「有り得ないだろ」
「けれど気球が大きくなってな」
 その者は周りの否定に対して言った。
「それでな」
「そのうえでか」
「船になってか」
「空を飛ぶのか」
「ああ、若しかしたらな」
 その者はさらに言った。 
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