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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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九十七 復活

血の涙を流して感情の一切を殺して里の為に父も母も友も仲間も同胞も、うちは一族全てを殺戮したうちはイタチ。

だが彼にはどうしても殺せなかったモノがいる。
里よりも重かったそれが、自分のことだとサスケはもう知っている。

(イタチ)にとって弟(自分)の命は里よりも重かった。
それを知れただけでもサスケにとっては僥倖だった。

いや、本当はもっと早く動くべきだった。イタチの真実を知れたあの時に。
だが兄本人からの願いにより先送りにしてしまった。
その結果、イタチが死んだという訃報を、うずまきナルトから聞かされたサスケは、目の前の忍びの闇を見る。

そうだ復讐だ。志村ダンゾウの次には、うずまきナルト。
だからこんなところで立ち止まっていられない。

しかしながら忍びの闇はやはり一筋縄ではいかなかった。





【自業呪縛の印】。

自らの身体を縛る呪印。対象者を動けなくさせるその印がサスケの身を蝕む。
動けぬ我が身に顔を顰めたサスケへ、ダンゾウは悠々とクナイを構えた。

「イタチに説教でもされてくるといい」

そう嘲笑するダンゾウの前で、サスケは双眸を閉ざす。観念したか、と油断したダンゾウは気づかなかった。
次に開眼したサスケのその眼から流れる血の涙を。


「【天照】」

黒い炎がダンゾウのクナイに絡みつく。咄嗟にクナイを手放したダンゾウの身を黒炎は更に追い駆ける。
その衝撃でダンゾウの支配から逃れたサスケは【自業呪縛の印】を振り払うと、己の得物である刀を振り被った。

が、黒炎と共に刀を防ごうとしたダンゾウの右腕が突如変化する。

「【天照】…久しぶりに見た。やはりイタチの弟だな」


いきなりダンゾウの腕から生えた巨大な大木。木の勢いに【天照】の黒炎が掻き消される。
そのままサスケを捕らえようとする木の枝を刀で断ち切って、サスケはダンゾウから距離を取った。



「────その右腕はどうした」

いくつもの【写輪眼】がついている右腕。
更に大木が生えているその右肩には人の顔のようなモノがついている。
そのおぞましく異形な腕を目の当たりにし、サスケは顔を顰めて問い質した。


「…色々あってな…話すと長い」

ダンゾウの素っ気ない返事に、サスケは「色々か…ふん」と鼻を鳴らす。

「どちらにせよ【写輪眼】は、うちは一族から奪ったに他ならないだろう」


言わずともわかる答えを言い当てたサスケにダンゾウは沈黙で返す。
それが正解なのは明白だった。

「…それにそれは…木遁、か?」


ダンゾウの右肩に浮かぶ人の顔。その相貌にサスケは見覚えがあった。
かつて故郷で嫌というほど見た顔だ。サスケの故郷である木ノ葉の里で。


「初代火影の顔…どういうことだ」

木ノ葉の里の顔岩。其処に一番に彫られている初代火影が確か木遁を使えたと聞いたことがある。


「これほどの【写輪眼】の数…うちは一族でない者が扱うには何か秘密があると思ってはいたが…」

目的の為には自分の腕にも容赦ない忍びの闇の罪を改めて思い知る。

うちは一族や千手の血統以外には過剰な負荷を強いる【写輪眼】。
それを制御する為の処置として初代火影の柱間細胞を埋め込んでいるダンゾウの右腕を、眉を顰めてサスケは睨んだ。
右腕の秘密に薄々気づき始めているサスケへ、ダンゾウは平然を装いながら宣告する。


「…おまえの写輪眼も頂くとしよう」






















手の内を知る【根】同士。

互いに能力を知っているからこそ戦闘しにくい相手だとは理解していたが、こうも劣勢になるとは油目トルネは思ってもみなかった。

敵対しているサイが遠距離タイプであることは昔から知っている。
一方でトルネは触った者の細胞を破壊する毒虫使い。

触れれば即死させる自信があるが、それも対象に触れられなければ意味がない。
故に墨で形成された獣相手では流石のトルネも己の能力を発揮できなかった。

フーとの連携ならばまだなんとか対処できたかもしれないが、残念ながらフーは今現在【心転身の術】で兎の中にいる。
春野サクラに嵌められ、己の術で自滅してしまったフーが戦線離脱している今、戦えるのは自分だけ。

しかしながら現状、サイの【超獣戯画】で実体化した墨の蛇に巻き付かれ身動きできぬ状態。
戦闘をサイに任せてサスケの許へ向かったサクラの後ろ姿に歯噛みし、なんとか現状を打破しようと思考を巡らせていたトルネは、背後から聞こえてきた声に、ピタリと身体が強張った。


「あ、あなたは…」






















幻と現実の狭間をコントロールできる己自身へかける究極幻術【イザナギ】。

そしてその幻術を使用した写輪眼は光を失い、二度と開くことはない。
絶大な効果を発揮する【イザナギ】だが、術を発動させた瞳は失明するリスクを負うのである。

文字通り使い捨ての瞳術だ。
そしてそれは今まで部下達を使い捨ての駒として利用してきた男にとっては皮肉にもお似合いの戦術であった。

右腕に移植された数多の【写輪眼】。全てがうちは一族から奪った瞳であることは明白だ。
自分にとって都合の悪いことは夢に、都合の良いことは現実に書き換える瞳術。

その【イザナギ】で何度も窮地を脱し、いくつもの【写輪眼】を犠牲にするダンゾウに翻弄され、サスケは歯痒い思いを抱えていた。
その焦りを見て取って、ダンゾウの顔に余裕が生まれる。
だからこそサスケの鋭い質問を、忍びの闇は今度は沈黙で返さなかった。


「…おまえには木ノ葉の里を守るという志があると言うが…里の為に、おまえは結果、何をした?」
「何の話だ」
「しらばっくれるな。【根】が木ノ葉を守る為の組織ならば『木ノ葉崩し』の犠牲はもっと少なかったはず…」


大蛇丸が木ノ葉を襲撃した『木ノ葉崩し』。
サスケの言う通り【根】の忍びが動いていれば『木ノ葉崩し』は三代目火影の死で終幕を迎えなかった。
実際のところ三代目火影は死んではいないものの、世間ではそうなっている。
そもそも【根】が動いていれば犠牲はもっと少なく済んでいたのは間違いない。


「…第一、九尾が里を壊滅させた時も、おまえら【根】は何をしていた」

四代目火影が死んだあの事件。あの一件のせいでサスケの同班であった波風ナルに対する里人の怨嗟は根強く残っている。
四代目火影が就任するより前にダンゾウは【根】の組織をとっくに設立していたはず。
だがその結果、四代目火影を始め、多くの者が死傷し、木ノ葉の里は半壊している。

「それに『暁』のペインが襲来した際も【根】は動いていなかったと聞く…」


ペインが襲撃した時も、里が崩壊し、五代目火影が消息不明になっても【根】の忍びが活躍したという噂はなにひとつ届いていない。世間的には抜け忍であるサスケにも、そんな情報は耳にしていない。


「里を守る?ふざけるな…里を守る為に、おまえら【根】は何をした!?」


激昂するサスケを前に、ダンゾウは顔色ひとつ変えない。
ガクリ、と地面に膝をつき、息も絶え絶えに耐え忍ぶサスケを目にして、秘密主義である忍びの闇の口許が緩んだ。

「冥土の土産に教えてやろう」


死に掛けの若造に気を許し、口を滑らせる。
それこそが自らの壊滅だとも知らずに。






















暗部育成部門【根】。
この組織の概念は木ノ葉という大木を眼に見えぬ地の中より支える事だ。

里に有事が発生した場合、メンバーを派遣して対処に当たらせるのが【根】の役割であろうに、実際には『木ノ葉崩し』も『九尾事件』も『ペイン襲来』時にも、彼らは沈黙していた。
ダンゾウの命令で【根】が仕出かした事と言えば、以下の通りである。

かつて【根】に所属しており引退して孤児院を運営していたノノウ。
一線を退いた元部下を脅迫で引っ張り出し、復帰を強要させた。
同じく、孤児院で暮らしていた薬師カブトを脅迫し、孤児院を守る為に自ら【根】に入団希望させ、スパイとして五大国を渡り歩かせる。

にもかかわらず、情報を知りすぎたとして同じ【根】の部下同士、ノノウと薬師カブトに同士討ちをするよう仕組んだ。

雨隠れの内戦に干渉し、平和を実現させるために奮闘していたかつての【暁】を崩壊させた。
大蛇丸の研究を支援し、人体実験などを見逃し、更には『木ノ葉崩し』でも裏で繋がっていた為、沈黙を貫く。

九尾が木ノ葉の里を壊滅寸前にまで追い込んだ際も【根】を動かさず沈黙。
更には自分の部下には拷問で情報を吐かせない為、舌に【舌禍根絶の印】という呪印を施し、口止めしているという徹底ぶり。

だがその一方で里に居場所がない者達へ里を守るという目的と【根】という居場所を与えたのも事実。


「一流の忍びに仕立て上げたのは、この儂だ…感謝されこそすれ恨まれる筋合いはない」
「どの口が…ッ、【根】の忍びを育成する際、訓練生同士殺し合いをさせたくせに」

悪態を吐いたサスケの発言に、そこで初めてダンゾウは眼を見張った。
ダンゾウが忍びを育成させる時に殺し合いをさせていたのを知っているのは、実際に殺し合いをさせられた【根】の忍びであり、生き残りだけ。
故に、普段閉じている瞳が驚愕に彩られ、口からは自然に言葉が漏れた。

「…どこでその話を…」


今度はサスケが沈黙を貫く。
その話は既に知っている。何故ならサスケが暫く身を置いていた大蛇丸の許には、その生き残りがいたからだ。


「答えぬならば答えさせるまでだ…」

自らの罪を棚上げし、ダンゾウは更にサスケを追い詰めようと印を結ぶ。ここまで己が行った闇を暴露したのだ。
生かす理由はない。

元々サスケは殺すつもりだった。
ならば何故【根】の忍びの育成の情報を知っているのか、その理由を吐かせてからでも遅くはない。


「【口寄せの術】…!」

印を結ぶ。途端、ダンゾウの口寄せ動物である巨大な獏が現れた。
ダンゾウと同じく頭部に包帯を巻いているその生き物は悪夢を喰らうとして有名な化け物だ。

獏が口を開く。
直後、凄まじい吸引力がサスケを襲った。

地面も岩もその場にあるモノ何もかもを吸い込む獏を前に、吸い込まれまいと必死で踏ん張るサスケ目掛け、ダンゾウは印を結ぶ。
獏の吸引力を利用し威力を上げた風遁の術。


「【風遁・真空連波】!」

真空の刃。
襲い来る凄まじい切れ味の刃が連発で自身に向かってくるのを眼の端で捉えたサスケはすぐさま印を結ぶ。
標的はダンゾウ…ではなく、ダンゾウの口寄せ動物。


「【火遁・豪火球の術】!」

獏の吸引力を利用し風遁の術の威力を増したダンゾウ同様、吸引力を逆手に取る。

全てを吸い込む獏に当然、豪火球は吸い込まれる。
だがそんなことをすれば当然獏は無傷でいられない。

案の定、火球を吸い込んだせいで、獏はその巨体をのたうち回らせた。
その衝撃で足場が崩れ、ダンゾウの狙いが外れる。

サスケ目掛けて放たれた真空の刃があらぬ方向へ飛んでゆき、その隙にダンゾウの間合いからサスケは距離を取った。
サスケの【火遁・豪火球の術】に耐え切れず、ダンゾウの口寄せ動物が白煙と化す。



「その右腕を手に入れる為に、何人のうちはを手に掛けた!?」

消えた獏。同時に地面を蹴る両者。互いに体力もチャクラも限界。
決着の時だった。

「その手を下したのはイタチだ」


ダンゾウは己の腕に残る眼球の数を確認する。ひとつがまだ開眼していることを見て取って、クナイにチャクラで練り上げた風遁の術を付加させた。
チャクラで練り上げて生成した刀状にしたクナイ。短いクナイが風の刃と化し、リーチと殺傷力を上げた長い刀と生成される。


「おまえが…っ、そうさせた…ッ!」

同時にサスケも雷遁で創った刀を手にする。
後ろ手で握った本物の刀を隠し、手首に巻いた巻物から口寄せした手裏剣を数枚投擲。
風を切って迫りくる巨大な手裏剣の合間を縫ってダンゾウはサスケへ接近した。



「イタチの唯一の失敗であるおまえが木ノ葉の為に貢献できることは儂に【写輪眼】を差し出すことだ…この右腕のように、な」
「ほざくな…!【根】を私兵とし里で権力を振り翳すだけの、自己愛の塊が…!」




ダンゾウの人柄を的確に評したサスケの言葉の刃が、雷と共に下される。
手段を選ばず木ノ葉の里を守るという信念を、風の刃と同じく貫き通す。


相討ち。


だがダンゾウには【イザナギ】がある。
幻と現実の狭間をコントロールできる己自身へかける究極幻術【イザナギ】。
自分の攻撃は有効に対し敵の攻撃は無効になる、ダンゾウにだけ都合の良い術は相討ちでさえ彼の勝ちになる。
よって。


「儂の勝ち…だ」

ダンゾウは己の勝利を確信した。




















だが直後、背中に激痛が奔る。

「ガハ…ッ」


突如背後からの攻撃を受け、ダンゾウは眼を見開いた。首を巡らす。
其処には、サスケの得物である本物の刀が刺さっていた。


「な…貴様…」
「手裏剣を躱して良い気になっていたな…忍びの闇が聞いて呆れる」

先ほどダンゾウが易々と回避した巨大手裏剣。その内の一枚の中央に秘かに仕込んでおいたサスケの得物。
手裏剣の穴に潜ませたその刀が、手裏剣と共に戻ってきたのである。

本来ブーメランのように投擲したモノは持ち主の許へ戻る。が、サスケはダンゾウの身体を盾にした。
己の許へ戻る刃物が向かう先をダンゾウへと上手く誘導。つまりこれでダンゾウは二回死亡したことになる。
一回を【イザナギ】で回避したとしても予期せぬ不意打ちはダンゾウとて予想できなかったであろう。


「アンタは二度死んだ…うちはを舐めるな」












「──これが眼で語る戦いだ」


サスケの【写輪眼】の力はイタチに比べると天地の差だ。

だが、少ししかもたない小さく弱いその幻術も要は使い所。
【イザナギ】は確かに究極幻術だが、その分、その効果時間は不安定である。
何度も右腕の写輪眼を確認するダンゾウを見て確信したサスケは【イザナギ】の効果時間がまだあるかのように見せかけ、右腕の写輪眼がまだ残っている幻術をかけたのだ。

写輪眼を持たぬ者が写輪眼を手に入れたことにより、その戦い方を甘く見る。
その奢りがダンゾウを敗北へと導いたのだ。

「ぐ…ッ」


幻術ではないサスケの刀に差し貫かれた激痛が、ダンゾウに膝をつかせる。
本来ならば今頃、夢にまでみた火影として五影会議に参加していただろうに、今や地面に転がる火影の笠が己の失墜を示しているかのようで、ダンゾウは屈辱と激憤に塗れた形相でサスケを睥睨する。


(この儂が…こんな若造に…ッ、)

地に伏せて歯噛みしていたダンゾウは視界の端に映った桃色を捉えると、その口許を緩める。
倒れているふりをして最後の奥の手であった包帯に手をかけた。


「裏切り者め…せめて最後くらい役に立て」

力を振り絞って立ち上がり、サスケの隙を突いて人質をとる。
クナイを突きつけた己の元部下であった春野サクラが顔を引き攣らせた。


「…よく言うわ。どうせ私も殺すつもりだったんでしょう?」

五影会議に護衛はふたりと決まっているのに、サイとサクラの後方から監視していたトルネとフー。
最初からダンゾウは護衛役に後者のふたりを選んでおり、前者は抹殺する魂胆が見え見えであった。


「そうとも…火影になる為に貴様らを利用した。ならば口封じとして抹殺するのは道理だろう」
「…綱手様の暗殺をサイと私に命じた時には、私達の抹殺も考慮に入れてたってわけ」


ダンゾウが火影の座に就くには現火影である綱手が邪魔だ。
だからこそペイン襲来のどさくさに紛れて部下であるサイとサクラに暗殺を命じたのである。

優秀な忍びの部下を殺すには惜しい。ならば使い捨ての部下を利用するのが一番手っ取り早い。
そう、今まで【イザナギ】で使い捨てた写輪眼のように。


「そこまで解っているのなら潔く犠牲になれ」
「お断りよ」

主に楯突く元部下に顔を顰めるダンゾウへ、瞳術の使い過ぎで疲労困憊のサスケはようやっと息を整えると、刀を構え直した。

「…それが最後の写輪眼か…」


露わになったダンゾウの右目。其処に浮かぶ自分と同じ朱い車輪に、顔を顰める。
一方で、本当に最後の写輪眼を使う羽目になったダンゾウは内心、後悔していた。


(こんなことなら、うちはシスイの写輪眼を何が何でも手に入れるべきだったな…)

そうすればここまで追い込まれることもなかっただろうに。


だが仕方あるまい。シスイの眼を狙った時には既に彼は片目しか【写輪眼】を持っていなかった。
節穴である瞳が誰の元へ向かったのか、誰が奪ったのか、或いはシスイ本人が寄贈したのか。
情報収集に長けた【根】であっても真実は明らかになっていない。
最後の片目の写輪眼を奪おうとしたものの、死ぬ直前シスイが自ら己の眼を潰してしまったのでそれも泡沫に帰してしまう。

故にこの最後の写輪眼は今までの使い捨ての写輪眼を同じモノだが、そうとは悟られないようにダンゾウは振る舞った。
そうすれば最後の写輪眼故にどれほどの効果があるのかとサスケは警戒し、下手に手を出してこない。
その間に人質としてサクラを盾に自分は生き延びられる。


「自己犠牲を語ったおまえが…人質とはな」
「木ノ葉の為、里の為…儂はこんな所で死ぬわけにはいかん…」

自分の命が惜しいわけではない。全ては里の為。


「この忍びの…世を変える…唯一の改革者となる者…それが儂だ…」

己の器を過信し、自分こそが希代の火影になり得るという自信があるからこそ、ダンゾウは此処で倒れるわけにはいかなかった。
たとえ、どんな手を使っても。


「その為の犠牲になってもらうぞ…春野サクラ…」

若い者の命と未来を摘み取っても自分は生き残る。
唯一の改革者であり希代の火影である自分は此処で死ぬべきではない。
どんな卑劣な手段を用いてもサスケに殺されてやるわけにはいかない。


頭上で飛び回る鴉が煩い。サクラの首筋に突き立てるクナイに手汗が滲む。
サスケに負わされた傷が深く、額に噴き出す汗が視界を覆ったが、ダンゾウは決して写輪眼を閉ざさなかった。
この最後の眼だけが自分に残された唯一の希望と生きる砦。

サクラを盾にするダンゾウを窺っていたサスケの眼には迷いがある。
やはり昔の同班であった春野サクラは弱点であったか、とダンゾウは逃げる算段をつける。
じり、と後ずさったダンゾウに命を握られているはずのサクラが鋭く叫んだ。


「サスケくん…ッ」
「動くな────サクラ」



その瞬間。
ダンゾウは人質ごと刀に貫かれた。























「な…」

サクラとダンゾウ。両者の胸に生えるサスケの刀。

死んだ人質を連れて行ったところで意味はない。少しでもサスケから離れようと、刺されたサクラを強引に引き離す。
振り払ったサクラの死体が地面に転がった。



途端、その死体から桜の花びらが舞い上がる。




サクラだったソレが花びらとなって散ってゆくのを、ダンゾウは呆然と見遣った。思わず自分の瞳を手で押さえる。

【写輪眼】だ。写輪眼が幻術を見破れぬわけがない。
何故。


「アンタは二度死んだ、そう言ったはずだ」

サスケは最初からダンゾウの右目を覆い隠す包帯の奥には写輪眼があると睨んでいた。
だから雷遁で成形した剣で刺した際、背中から巨大手裏剣に仕込んだ刀を突き刺したのだ。

幻術で右腕にはふたつの写輪眼が開眼しているとダンゾウは考えていた。
だが実際には右腕の写輪眼はひとつも残っていない。

雷遁の剣か、手裏剣の刀か。
どちらかが【イザナギ】で無かったことにしたのは、ダンゾウの最後の奥の手であった右目の写輪眼だったのだ。

瞳術の使い過ぎとは言え、サスケの写輪眼はダンゾウに人質にされたサクラが幻術だと見破っていた。
だが既に写輪眼を使い果たしたダンゾウはそれが見抜けなかった。

それだけのことである。


「おまえには最初からうちはを語る資格などない」

写輪眼をいくつも持っていながらサクラの幻術に騙され、サスケに冷ややかに見下ろされ、ダンゾウはそれでも足掻く。
だが急に右肩がボコりと盛り上がったかと思うと、大木が急速に生えて成長し始めた。


「ぐああああああああ」

絶叫する。
サスケに刺された刀傷よりも遥かに痛いものの、それよりも恐怖が勝った。
写輪眼をコントロールする為に埋め込んだ柱間の細胞。それが暴走し始めた。
呑み込まれる。




「……死に掛けてチャクラの制御が出来なくなったようだね」


右肩から伸びる巨大な大木。
急成長する木々に呑み込まれそうになりつつも、それよりも聞き覚えのある声にダンゾウは眼を見開いた。


「な、何故…」

浮かぶ疑問に困惑するよりも先に、呑み込まれる恐怖からダンゾウは己の右腕を躊躇なく捨てる。
自ら斬り落とした腕がぐんぐんと大木へ成長するのを横目に、忍びの闇は愕然と立ち竦んだ。

右腕を失った喪失感よりも目の前の、死んだはずの存在に驚愕する。



「おじい様の力をそう簡単にコントロールできやしないよ」


翻る金髪。剛腕でありながら医療忍術のスペシャリスト。
実年齢に反して若々しい容姿。





「綱手…姫」
「よぉ…ダンゾウ。一時の火影の夢は見れたかい?」



五代目火影であり美しき女傑────三忍のひとり、綱手が其処に立っていた。
 
 

 
後書き
あの慎重すぎるダンゾウが自白することってないと思いますが、そこはご容赦くださいませ…!(土下座)
色々矛盾もあるでしょうが申し訳ないですけどサラッと流してくださると嬉しいです。

次回もどうぞよろしくお願い致します!! 
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