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見えない扉

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第二章

「とてもな」
「左様ですね」
「それではですね」
「帰りますか」
「そうしますか」
「そうするぞ」
 手下達に言ってだった。 
 彼等はそのまま帰った、五右衛門は自ら後詰に回ったが。
 聚楽第の壁を越える時にふと物陰から誰か出て来た、それは小柄で猿面のやたら
笑っている男だった。
「ははは、やはりそのまま帰ったか」
「貴殿は」
 五右衛門はすぐにわかった、それが誰か。
「太閤様ですか」
「わかるか」
「はい、お会いしたことはないですが」
「左様、わしがその太閤じゃ」
 彼は壁の上にいる五右衛門を見上げ明るく笑って名乗った。
「羽柴藤吉郎じゃ」
「左様ですな」
「うむ、本姓と諱も知っておるな」
「聞いておりまする」
「そうであるな、それで盗めなかったな」
 秀吉は五右衛門に問うた。
「そうであるな」
「とても」
「何も備えがないのではな」
「罠もなければ」
「張り合いがなかろう」
「全く以て」
 秀吉に答えた。
「見張りもおりませぬし」
「そうであろう、では今度来る時はな」
 秀吉は自分に正直に答えた五右衛門にそれではと返した。
「これ以上はないまでにな」
「見張りの者を置き」
「宝の周りも厳重にじゃ」
「幾重にも鍵をかけますか」
「そうして隠しもしてな」
「盗めるものなら盗んでみよと」
「しておく。そこでお主が勝てばよいが」
 それでもというのだ。
「わしが勝てばな」
「その時は」
「釜茹でじゃ、それでもするか」
「それが大泥棒と言われる者の誇りです」
 五右衛門は自分に勝負を仕掛けて来た秀吉に笑って答えた。
「それでは」
「うむ、ではまた来るのじゃ」
「そしてその時は」
「見事わしに勝って盗んでみよ」
「盗んでみせます」
 五右衛門は笑って応えた、そうしてだった。
 今は去った、そしてだった。
 後日秀吉に挑んだ、その後は史実で書かれている通りである。だが史実では最期はいいものには書かれていなかったが実は全力で挑んだうえでの完敗だと認めて悔いのない清々しい顔で負けたというものだたとも言われている、それは何もないところから盗むのではなく厳重な護り天下人のそれに負けたのだからだと。そう言われている方が真実だという。


見えない扉   完


                     2025・1・12 
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