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見えない扉

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第一章

                見えない扉
 石川五右衛門は今大きな盗みにかかっていた。 
 手下達にだ、彼は聚楽第に忍び込んで言った。
「狙うのは太閤様の刀だ」
「でかいですね」
「そんなものを盗もうなんて」
「まさに一世一代の盗みですね」
「これは」
「そうだ、だからこそな」
 五右衛門は笑って言った。
「気合い入れていくぞ」
「もう忍び込んでますし」
「聚楽第に」
「それならですね」
「これからですね」
「太閤様のところまで行ってな」 
 そうしてというのだ。
「そしてだ」
「そのうえで、ですね」
「盗みますね」
「太閤様のお腰刀を」
「そうしますね」
「ああ、盗むならな」
 五右衛門はにやりと笑って言った。
「大きなものを盗まないとな」
「そうですよね」
「やるなら何でもですよ」
「でかいことをやる」
「それが男ですよ」
「天下人の刀を盗む」
 それこ腰に差している刀をだ。
「やってやるぞ」
「ええ、それじゃあ」
「やってやりましょう」
「今から」
 手下達も笑顔で頷いてだった。
 そのうえで秀吉のいる場所へと向かった、闇夜に紛れ人目を忍びそうしてだった。
 先に先にと進んでいく、そして。
 秀吉の部屋の傍まで来た、そうして刀がある場所にまで辿り着いたがその刀はただ空いている場所に置かれているだけだった。
 手を伸ばせば取れる、だがここで手下達はすぐにだった。
 罠がないか調べた、五右衛門自身そうして言った。
「ないな」
「ですね」
「罠も何もありません」
「そのまま飾っているだけです」
「空いている場所に」
「何でしょうか」
「うむ、罠はなくな」
 そうでありとだ、五右衛門は言った。
「もう手を伸ばせばだ」
「取れます」
「そのまま帰ることが出来ます」
「しかもここに来るまで何なく来られました」
「見張りの者もおらず」
「極めて楽でした」
「それで盗んでもな」 
 五右衛門はどうにもという顔で言った。
「面白くないな」
「全くですね」
「こんな簡単に手に入っては」
「面白くありません」
「全く以て」
「天下の大泥棒の仕事ではない」 
 五右衛門は腕を組んで述べた。
「到底な」
「ですね、それじゃあ」
「今は帰りますか」
「そうしますか」
「そうする、盗んでも仕方ない」
 秀吉の刀を観つつ言った。 
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