世界の礎
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第十四話 起きた世界でその三
「待っていてくれ」
「わかりました」
妻は微笑んで応えた。
「その様に」
「それでだが」
夫はさらに言った。
「私が留守の間に連絡があったらな」
「すぐにお知らせします」
「宜しく頼む、では行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
見事な和服を着た妻は微笑んで応えた、そうしてだった。
義青は彼女と使用人達に見送られて出勤した、神戸市にある八条グループ総本社ビルに入りその最上階のだ。
総帥の執務室に入った、そこで豪奢なアメリカ大統領のそれにも負けていない席に座る老人に頭を下げて挨拶をした。
「おはようございます」
「ははは、いつも堅苦しいな」
老人は彼に笑ってこう返した。
「君が赤ん坊の頃からの付き合いだからな」
「堅苦しくなることはないですか」
「そんな間柄じゃないだろう」
こう言うのだった。
「別に」
「いえ、仕事ですので」
義青は真面目に答えた。
「この様に」
「そう言っても仕事以外でもじゃないか」
老人は笑ってまた返した。
「君は」
「堅物ですか」
「要するにな」
「私は以前からこうなので」
「このままか」
「いかせてもらいます」
「止君とは違うな」
「止さんは従兄であって」
名前が出た人物の話もした。
「いい方ですが」
「彼の様にはか」
「とても」
こう言うのだった。
「なれません」
「ははは、そう言うか」
「一族のはねっ返りと言われていますが」
「やるべきことはな」
「しっかりとです」
「果たすしな」
「幾ら遊びましても」
それでもというのだ。
「家庭は忘れません」
「そうだよ」
笑顔でだ。八条グループの総帥である八条義康は微笑んで応えた。そうして義青に対してこうも言ったのだった。
「破天荒であるが」
「持つべきものは全て持っていまして」
「道は踏み外さない」
「そうした人です」
「そこがいいのだよ」
「ですから一族でもです」
八条家の中でもというのだ。
「よく注意されましても」
「嫌う者はいないな」
「そうですね」
「あの子は傾いているんだ」
彼はというのだ。
「つまりは」
「そうですね」
「暴力は振るわないしな」
「絶対に」
「人のものに手を出さないで」
「決して」
「そして法律も守る」
そうもしているというのだ。
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