内臓のドナー
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第一章
内臓のドナー
とある患者についてだ、八条病院大阪で勤務している加賀美家治は言った、真面目そうな顔で白髪が見事な初老の男だ。背は高くすらりとしている。
「まだだね」
「はい、ドナーがです」
看護師の宮部香子が応えた、大きな二重の垂れ目で眉は細く色白で顔は小さい。黒髪をセミロングにしている。
「まだです」
「出てくれないね」
「ですからまだ」
「仕方ないね」
加賀美は病院の事務室で宮部に話した。
「こればかりは」
「ドナーが出てくれない限りですね」
「順番だしね」
「ですから」
「待とう、まだ手遅れじゃないし」
「それで、ですね」
「若しもだよ」
ここで加賀美はこうも言った。
「どうしてもって言うなら」
「ドナーが必要と」
「恐ろしいことになりかねないからね」
「よくあるお話ですね」
「そう、内臓はね」
これはというのだ。
「裏社会の収入源になっているからね」
「今は」
「そういうのに関わると」
「臓器売買ですね」
「あんなおぞましいものはないから」
「そうですね」
確かにとだ、宮部も応えた。
「内臓移植が定着してからあるお話ですが」
「移植すれば助かるなら」
「それならですね」
「もうね」
それこそというのだ。
「どうしてもという人がいて」
「助かりたいので」
「それにだよ」
「裏社会が応えますね」
「いい儲けになるからね」
裏社会から見てだ。
「だからね」
「下手に求めますと」
「裏社会と関係持ちかねないからね」
「焦らないことですね」
「ちゃんとね」
しっかりとした口調で前置きをしてだ、加賀美は話した。
「ルートは信頼出来るもので」
「ドナーの人もですね」
「裏と関りのない」
「そうした人であることですね」
「ブラジルであったよ」
暗い顔でだ、宮部に話した。
「ストリートチルドレンがいて」
「かつてのブラジルには」
「今もいるかな、身寄りのない子供達が路上生活をして」
「窃盗等で暮らしますね」
「彼等を殺すことが治安維持になって」
そうであってというのだ。
「それで殺した彼等からね」
「内臓を取るんですね」
「その国の事情があっても」
「流石に殺人ですからね」
「それ時代が駄目だしね」
「ましてやですね」
「そこからね」
ストリートチルドレン達を殺してというのだ。
「内臓と取って売るなんて」
「尚更悪いです」
「おぞましいまでだよ、けれど迂闊に求めるなら」
内臓のドナーをというのだ。
「そうしたこととも関りになるから」
「慎重にですね」
「ドナーを待つべきだよ」
「そうですね」
「間に合うから」
加賀美は腕を組んで言った。
「待とう、今は」
「焦らないで」
「そう、患者さんはまだ元気で」
「ドナーの人は出てくれて」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
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