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過ぎ去った台風

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第一章

                過ぎ去った台風
 昭和の頃の話である。
 日本に台風が来た、毎年幾つか来るうちの一つである。そしてその台風がだ。
 東京に来た、それで宮内省の官吏達は昭和帝に言った。
「陛下、台風が来ましたので」
「今は皇居の中にお留まり下さい」
「穏やかに過ごされて下さい」
「そうして難を避けて下さい」
「わかった」
 帝は確かなお顔とお声で頷かれた。
「こうした時は難を避けるものだ」
「左様です」
「ではご公務に励まれて下さい」
「台風でもありますので」
「そして読書も」
「そうしていよう」
 こう言われてだった。
 帝は台風が来ると皇居の中で静かに公務に入られた、だが。
 ここでだ、東京の状況逐一聞かれ言われた、
「皆に難がない様に」
「細心のですね」
「対策を講じですね」
「行っていくことですね」
「そうであることを願う」
 帝として言われるのだった。
「心からな」
「今誰もが励んでおります」
「東京と都民の為に」
「そうしていますし」
「また誰もが難を逃れています」
「そうであるなら嬉しい」
 帝はそれならと言われた。
「ではな」
「台風が過ぎるまで難を避け」
「ことにあたる」
「そして過ぎるのを待つ」
「そうすることですね」
「皆そうしてくれることを願う」
 君臨すれども統治せず、そのお立場から言われた。そうして誰もが東京に上陸した台風にそれぞれ向かったが。
 台風は東京を過ぎ去った、それでだった。 
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