だからってなんだよー 私は負けない
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お葬式には、田畑を借りている人なんだろう3人の参列と、篠田夫妻に貫次が、貫一兄ちゃんの姿は見えなかった。それに、しずゑ婆ちゃんとお母さんと私。それ以外に農協の人と信用組合の人。あと近所の人が2人。10人だけの寂しいお葬式だった。
火葬場には、おばぁちゃんとお母さんに私。篠田の社長さん、信用組合の人だけだった。さすがに、炉に入る間際には、私も涙が出てきて止まらなかったのだ。
戻って来て、お仏壇の隣に庄爺のお骨とお位牌、遺影の写真と共に祭壇を置く感じになっていた。写真といっても最近のものは無くて、庄爺の結婚式の写真でずいぶんと若い時のものなのだ。
そして、信用組合の人が
「故人の遺言書を預かっているんです。開けますので、荒井しずゑさんと篠田健太さんと愛崎紗栄子さん、すぐりさんに立ち会って欲しいとのことです」と、信用組合の人と農協の人が見届け人という形で、みんなの前で開けられた。同じものがお仏壇の引き出しに入っているということで、農協の人がそっちを相違ないかを確認して、読み上げられた。
「まず 愛崎紗栄子には 長きに渡り この年寄の身の回りの世話をして尽くしてくれたことに感謝する次第であります
一、 木下庄一郎の所有する不動産及び財産、預貯金を次の通りに相続させるものとする
二、 木下庄一郎の所有する預貯金、田畑並びに雑木林、土地 5600坪及び、土地・家屋一切を愛崎紗栄子に相続させるものとする 別途、権利書の通り
三、 木下庄一郎の所有する山林 80.57haについては愛崎すぐりに相続させるものとする 別途、権利書の通り
尚 木下庄一郎の遺骨に関しては正安寺 木下カズエの墓に一緒に葬ること 管理費用については、すでに納金済のこと 以上 遺言書です」と、読み上げるとその信用組合の人は農協の人に同意を求めるようにしていて、篠田社長さんは
「ふぅー・・・なぁーほどなあー 紗栄子さんは いろいろとお世話していたもんなぁー」
「んだぁー 尽くしていたんだものー 当然だよー」と、しずゑ婆さんも納得していたのだ。おそらく、二人とも お母さんと庄爺の関係があそこまでだったとは、知るはずも無いと私は思っていた。
お母さんは泣いていたばっかりだったけど・・・信用組合の人は
「別に 預金通帳も預かっております 相続税のためだとか・・・印鑑は仏壇の引き出しに入れてあるとか・・・」
私も、理解出来ていなかった。突然のことだったし・・・。庄爺がそこまで、私達母娘のことを考えていてくれたとは・・・チラッとは言っていたものの・・・。
そして、皆が帰った後・・・もう一度 農協の人がやって来て
「あの場では 言い出せなかったんですがね 実は 木村さんの預金以外にお二人の積立預金も預かっているんですよ」と、その通帳明細を見せてくれて・・・
お母さんのは、800万を超えていて、私のは200万以外にもうひとつ150万の定期預金が・・・。
「この150万は夏の終わり頃 突然 自分口座から すぐりさんの方に移しておられました。やっぱり、印鑑はお仏壇の引き出しにあるとか・・・照合してみてください」
「えぇーぇ」と、私が確かめると確かに印鑑が幾つもあって、その中には (愛崎)というものも入っていたのだ。
「とにかく 年金なんかも ず~っとお使いにならないで 貯めておられましたよ お二人には、相続税のかからない形でと・・・」と、言って帰って行った。
その後、お母さんは、「旦那様・・・」と、言いながら、庄爺の遺骨を抱きしめて、泣き崩れるようにしていたのだ。お母さんがそんな調子なので、私は、晩御飯にと道の駅に買い出しに出掛けて、お弁当とおかずになるものを買っていると、食堂のお母さんの同僚なのだ 声を掛けてきて
「すぐりちゃん お葬式は終えたのかねー」
「うん だけど お母さんは元気も無くてね お弁当買いに来たの 明日は 大丈夫だと思う」
「そーかい 紗栄子さんも 親切な人だからねー 知り合いでもショックなんだろうね まぁ 励ましてあげてよー」と、言いながらレヂの人に言って割り引いてくれたのだ。
夜になって、ようやくお母さんも落ち着いたのか
「ねぇ すぐり 旦那様がこんなまでしてくれていて・・・良いのかしらねぇ・・・」
「だって お母さんも自分を捧げていたんじゃぁないの! 庄爺も嬉しかったんだよー きっと 最後は生き甲斐だったんじゃぁない? だから、全て お母さんにって・・・おばぁさんも言ってたじゃぁない 当然だよって」
「そーかねぇー・・・」
「そーだよ 神様も見ててくれて お母さんに 幸せを分けてくれたんだよ」
「私・・・すぐりが居るだけで 幸せなのに・・・」
その夜も、二人で 昨日とは違ったものだけど・・・悩ましいものを・・・
「お母さんは 今日で こんな風のは最後よ すぐりは まだまだだから これからもってこと あるかもね」と、
「庄爺 どう? 私 色っぽい? 天国にもこんなに可愛い子いないでしょぅ? 私 庄爺から貰った山 大切にするね」と、私も言いながら、庄爺の遺影の前でレースの裾を広げて、くるりと回って見せていたのだ。もう、恥ずかしいといった気持ちも無くて、不思議と庄爺に喜んでほしいという気持ちだったのだ。
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