魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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XV編
第247話:解放と帰還
苦労はしたが、無事に未来を取り戻し主犯の1人である訃堂も逮捕する事が出来た。今訃堂は特別厳重な収容所に収監され、24時間体制で監視されている。収監後、弦十郎と輝彦が彼から詳しい話を聞こうと度々ここを訪れていたが、逮捕後は魂が抜けた様にと言う程ではないが一言も発する事無く、何を聞かれても黙秘を貫き続けていた。
訃堂からの尋問は苦難を極めていたが、一方で取り戻した未来への対処も難儀していた。
「未来ッ!」
「待て立花、今はまだ……」
風鳴宗家でワイズマンが撤退した後、時を同じくして本部を襲撃していた魔法使い達も姿を消していった。襲撃をやり過ごした事で安堵していた響達は、それに前後する形で戻ってきたキャロルが未来を連れてきた事で大いに喜んだ。特に響の喜びようは凄く、そのまま気絶した未来に飛びつこうとした位である。流石に未来の安否が完全には分からないと言うのと、そもそも安全なのかどうかが不明だった為翼が逸る彼女を宥めて未来はキャロルがそのままアリスの元へと連れて行ったが。
そうしてアリスの元へと連れて行かれた未来だったが、今彼女は錬金術により強制的に眠らされた状態でベッドの上に安置されていた。これから彼女は洗脳を解き本来の意味で解放する予定なのだが、前述した通り彼女の治療は難儀していた。
その理由は大きく分けて二つ。一つはダイレクトフィードバックシステムは迂闊に外すと本人に悪影響が出る危険があるからだ。フロンティア事変の時にも彼女はウェル博士により取り付けられたダイレクトフィードバックシステムで洗脳状態となっていたが、その時は彼女が纏う神獣鏡のシンフォギアの光を響共々彼女に浴びせる事で除去する事が出来た。なのでシステム自体は同じやり方で外そうと思えば外せるかもしれない。
だがもう一つの問題がそれを安易に踏み切らせる事を躊躇わせていた。その問題とは…………
「未来さんからダイレクトフィードバックシステムを除去するとして、そうなると彼女を依り代にしている神の力が猛威を振るう危険がある……と言う事ですね」
アリスがため息交じりにそう言えば、了子とエルフナイン、キャロルも同じように難しい顔になった。
「神獣鏡の力を使えばシステムの除去は出来るかもしれないけれど、内に宿らされた神の力が浄化されるとは限らないわよね」
「そうですね。浄化とは即ち邪なものを取り除く事。曲がりなりにも神の力であれば邪なものと見なされる事は無いでしょうから……」
「まず間違いなく、神の力であるシェム・ハは残る。ある意味でその意思が表に出てこないのはダイレクトフィードバックシステムが主導権を握っているから。それを取り除くと言う事は、鎖を解き放ち自由を与えると言う事。そうなれば、まぁ面倒な事になるだろうな」
つまりはそう言う事であった。迂闊に未来からシステムを取り除く事は出来ないが、取り除かなければ本当の意味で彼女を助ける事は出来ない。かと言ってこのまま眠らせる訳にもいかないし…………
早々に壁にぶつかり対応に苦慮する事になったアリス達は、雁首揃えて一様に項垂れ頭を悩ませる。あーでもないこーでもないと議論を重ねていると、颯人達が様子を見にやって来た。
「よぉ、どんな調子だ母さん?」
「未来は大丈夫ですか?」
一緒にやって来た響はベッドの上で寝かされた未来を見ながら心配そうに見つめながら問い掛ける。そんな彼女に未だ何の進展もないと告げるのは物凄く心苦しいのだが、そうも言っていられないので意を決して了子が彼女に現状を伝えた。
「ゴメンね、響ちゃん。実は……まだどうするかが決まってなくて」
「そんな……」
「仕方がないんだ。今の状態で小日向 未来からダイレクトフィードバックシステムを取り除けば、彼女に取り付いたシェム・ハが動き出す。そうなればどうなるか分かったものではない」
「奏に頼んでパリハレイトしてもらうか? もしかしたら下ろされた神の力も取り除けるかも」
「難しい所ですね。やってみる価値はあるかもしれませんが……」
颯人達も加えて議論が進み、本格的に未来に対して奏のウィザードギアブレイブによるパリハレイトの魔法が使われるかと言う段階に入った。他にいい方法はないし、あの魔法自体に攻撃力は無い為未来の体が傷付くような事にはならない。
準備は着々と進み、いよいよ作戦が決行される。既にウィザードギアブレイブのガングニールを身に纏った奏が、ベッドの上で眠る未来の傍で何時でも魔法がつかえる様に準備を整えていた。
その近くにはもしもと言う時に治療に移れるよう、アリスや了子、エルフナインたちが控え、更には独房に入れておいたウェル博士も念の為この場に呼び寄せていた。久し振りに独房から外に出られたウェル博士だったが、その表情はあまり気乗りしていなさそうだ。
「な~んで僕が、こんな事を手伝わなきゃならないんです」
「元々はお前が作ったシステムだろうが。だったら最後まで責任とれよ」
無理矢理付き合わされる形となった事に、ウェル博士は心底面倒くさそうに溜め息と共に不平不満を口にした。それに対し、颯人はそもそもの発端は彼がこんなものを作り出したからだと指摘してやれば、彼は大人しく引き下がるどころか逆に彼の言葉に噛み付いてきた。
「言っときますけど、資料を見せてもらった限りあのダイレクトフィードバックシステムは以前僕が作った物とは大分変っています。より強く洗脳できるように改良したんでしょう。正直、あそこまで改良されればもう別物です。僕が手を出す事じゃありません」
「基礎原理を作ったのはあなたでしょう。ならそれを応用すればいいじゃない」
ぶつくさ文句を言うウェル博士にすかさずマリアが指摘してやれば、議論が面倒になったのかそれ以降ウェル博士は唇を尖らせだんまりを決め込んでしまった。相変わらず変な所でガキ臭い態度をとる博士に対し、颯人は手っ取り早く彼を動かす為の言葉を口にした。
「嫌ならいいんだぜ? その代わり、後世に伝わるお前の英雄譚がコメディチックになるだけだからな」
自分の英雄としての活躍が笑い物にされると言われれば、ウェル博士としては黙っていられないのか颯人を睨み付ける。だが彼の敵意など怖くも何ともない颯人は、明後日の方向を向いて口笛を吹く始末。完全に舐められている事にウェル博士が腹の底から悔しそうな呻き声を上げれば、見兼ねたガルドとセレナが仲裁と説得に入った。
「そこまでにしておけハヤト。問題が無いとは言わないが、ウェル博士の頭脳は間違いなく天才だ。その助力を少しでも得られるなら、それに越したことはない。そうだろう? なら、こんな所で下らぬ諍いをする必要はないだろうが」
「どうだかねぇ。やりたくないっていう奴に無理矢理やらせても、いい結果は期待できないと思うけどな」
「お願いしますウェル博士。どうか力を貸してください。私達に出来るお礼なら何でもしますから」
「ちょっとセレナッ!」
セレナが祈る様に両手を組みながら渋い顔をするウェル博士に懇願する。その彼女の言葉に流石にマリアが声を上げた。セレナの様な清廉な美女が安易に男相手に何でもするなどと言葉にすれば、ロクな事にならない可能性がある。特にセレナはクセの強い性格の者が多いS.O.N.G.の実働部隊の中でどちらかと言えば裏表がなく純粋な方なのだ。純真無垢な彼女に悪意を向けられては大変である。
案の定、ウェル博士はセレナの口にした”何でも”と言う単語に飛びついた。
「ほほぉ、何でも……と仰いましたね?」
「はい」
「待てウェル博士、何を考えている……!」
流石にガルドもセレナを生贄に捧げる気はないので、思わず声を上げるがウェル博士は構わず要求を口にした。
「それじゃあ……とりあえず甘味でも所望しましょうかねえ。何分独房の中では何もすることが無い上に、お楽しみの甘味も満足に楽しめないので」
「それでしたら、喜んでッ!」
ウェル博士の至って平和な要求に、ガルドとマリアは顔を見合わせ安堵に胸を撫で下ろした。確かにウェル博士には下卑たる欲求は無いだろうと分かってはいたが、要求される物が甘味となると何と言うか拍子抜け感が否めなかった。
そんな彼らのやり取りを見ていた颯人は、ウェル博士の耳に入らない程度の小さな声で小さく呟いた。
「……もう十分コメディチックじゃねえかよ」
本人が気付いているのかいないのか……まぁ十中八九自覚はないであろうが、天然でコメディチックなムーブを見せるウェル博士にいっそ哀愁すら感じながら颯人は視線を奏と未来の方へと移した。奏が未来にパリハレイトの魔法を今正に掛けようとしているのを、颯人の隣の響が祈るように見つめている。
「それじゃ、行くぞ」
「はい」
「気をつけてね。もし洗脳が無くなるだけでシェム・ハが残れば大変な事になるから」
「責任重大だな。まぁ見てなって」
「未来……!」
気付けばその場の全員の視線が未来と奏に集中する。周囲から向けられる視線に奏は小さく深呼吸して心を落ち着け、右手を腰のハンドオーサーに翳して魔法を発動した。
〈パリハレイト、プリーズ〉
奏が魔法を発動し、杖の役割を果たすアームドギアを未来に向けると彼女の体を槍の穂先から伸びた炎が優しく包む。一見すると未来の体を焼いてしまいそうな光景に響が固唾を飲んで見守る中、颯人は未来ではなく周囲に対して警戒心を向け続けていた。
――ワイズマンがこのまま未来ちゃんに宿った神の力を放っておく訳がねえ。仕掛けてくるならこの瞬間だ。さぁ、来るなら来やがれ……――
人知れず颯人が警戒する中、魔法の炎に巻かれた未来の体に異変が起こった。まず最初に起こったのは、彼女に取り付けられたダイレクトフィードバックシステムだ。奏の異物除去の魔法は洗脳とその装置にまず及び、彼女の意識を拘束している洗脳装置を焼き砕いた。
ダイレクトフィードバックシステムが無くなった事に、キャロルが何時でもダウルダブラを身に纏えるよう身構える。
「ここまでは予想通り。問題はここからだ。大きな異変が起こるとすればこの後に――」
キャロルの懸念は彼女の言葉が終わる前に現実のものとなった。ダイレクトフィードバックシステムが除去された直後、未来はカッと目を見開くと体を包む炎を振り払おうとするように暴れ始めたのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!? うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「未来ッ!?」
「響、待ってッ!」
「違うぞ立花ッ! 小日向は炎の熱で悲鳴を上げているのではないッ!」
響は暴れる未来の姿に思わず心配して飛びつこうとしたが、マリアと翼に宥められて改めて今の未来の姿を見た。炎に巻かれてのたうち回る姿はいっそ痛々しくもあるが、しかしその声色は彼女達が知る未来のそれではなかったのだ。
「うあぁぁぁぁぁぁっ!? 止めろッ!? 止めろぉぉぉぉッ!? 我を誰と心得るッ!? 我はこの星の神であるぞッ!?」
どうやら悲鳴を上げているのは未来本人ではなく、未来の中に宿っているシェム・ハであったようだ。奏の浄化に近い炎は未来の中に宿っている神の力にも作用しているらしく、今正にシェム・ハは未来の中から追い出されようとしている最中であるらしい。それに対して必死に抵抗し、未来の中に居座り続けようとしているシェム・ハは魔法を使っている奏を排除しようと腕輪から光の刃を伸ばして奏に斬りかかろうと飛び掛かる。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
〈〈バインド、プリーズ〉〉
〈チェイン、ナーウ〉
だが未来に宿ったシェム・ハが奏に襲い掛かるよりも、この場に居る颯人・ガルド・透の3人の魔法使いが魔法で彼女を拘束する方が早かった。四方八方から伸びてきた鎖が未来の手足に巻き付き、彼女にそれ以上の抵抗を許さない。
「は、放せッ!? 放せぇぇぇぇッ!? 無礼者共がッ!? 我は、我は……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
一際未来の口からけたたましい叫び声が轟き、その声にかき消されるように彼女の体を包んでいた炎が消し飛んだ。炎が消えると同時に未来の口から出ていた声は止まり、先程までの恐ろしささえ感じさせる形相は何処へやら、まるで憑き物が落ちたかのように表情が無くなり目は虚空を見つめている。
急に大人しくなった未来に、颯人達は顔を見合わせると彼女を拘束している鎖を消し解放した。支えを失い倒れる未来が腕を下ろすと、その腕から腕輪がスルリと抜け落ち甲高い音を立てる。
そのまま前のめりに未来が倒れそうになるのを、響が慌てて受け止めた。
「未来ッ!」
響が未来を抱きとめるのを、止めようとする者は誰も居なかった。ただ完全に安心すると言う事も無く、一応の警戒は続けるのか2人の様子を固唾を飲んで見守っている。
「未来? 未来ッ! しっかりして!」
崩れ落ちる拍子に瞼が落ちた未来に、響が必死に声を掛けて小さく揺する。すると閉ざされていた未来の瞼が小さく震え、開かれたその眼が茫洋としながらも響を映して真っ直ぐ彼女の事を見た。
「ひび、き……?」
「未来ぅッ!!」
しっかりと響の事を視界に収め、彼女の名前をたどたどしくも口にする未来。それは彼女の洗脳が解けただけでなく、彼女の中に巣食っていたシェム・ハが消えた事を意味していた。
未来が本当の意味で帰ってきてくれた事に、響は彼女を抱きしめ歓喜の涙を流し、颯人達もその様子を見て微笑ましく思いながら胸を撫で下ろすのだった。
後書き
と言う訳で第247話でした。
意外とあっさり未来が解放される事となりました。ここら辺はちょっと悩んだんですけど、未来の中からシェム・ハを追い出すのにちょうどいい力が出来てしまった+このまま普通に進むと颯人と奏が霞んでしまって響と未来の物語になってしまいそうだったので。
これでXVはお終い?いえいえ、まだまだ続きますとも。このままワイズマンが大人しくしてる訳がありませんからね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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