Fate/WizarDragonknight
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プロローグ
前書き
休むと言っておきながら、思ったよりも早くできたので投稿します!
新登場のキャラの元ネタOPなどを流してご覧ください!
その日、誰もが思い出した。
地球の支配者を気取る人類が、いかに矮小な存在だったかを。
あたかも原始の時代に引き戻されたように、恐怖が浮かび上がる。
その、数十メートルほどの建物が立ち並ぶコンクリートジャングルの中から飛び出す、巨大な腕に、誰もが目を疑った。
やがて、腕は建物の天井を握りつぶし、肉体を持ち上げることでその正体を白日の下に晒していく。
「巨人……!」
誰かがそう呟いた。やがて、その呟きが現実味を帯びていくように、周囲のどよめきから、それは広まっていく。
巨人。学校の理科室から持ってきた人体模型を、そのまま巨大化させたような巨人。周囲の建物と比較して、おそらく五十メートルはくだらないであろうその巨人は、その双眸で見滝原の街並みを一望する。
しばらくの間沈黙を流す巨人。
やがてそれは、その体を動かした。
拳を振り上げる。たったそれだけの動作に、人々は恐怖し慄いた。
そして。
振り下ろされた拳が、その隣にあった建物を粉々に粉砕した。
崩落していく建物。
茫然としていた人々を覆いつくす粉塵。それは、人々を現実に引き戻し、悲鳴を上げさせた。
誰も彼もが、巨人から逃げていく。
その中で、たった一人。
群衆に逆らい、巨人の方へ向かっていく人物がいた。
「みんな! 逃げて!」
二十歳になったばかりの青年。
最近大切な人たちから贈られた黒い上着を着用しながら、青年は巨人を見上げる。
「古代大陸に大荒魂に超怪獣に続いて、今度は巨人か……!」
その表情に、驚きはあるもののそれほどの動揺はない。
青年は予め右手に付けてある指輪を腰に当てる。
すると、手の形をしたバックルがそれに反応。『ドライバーオン プリーズ』という音声とともに、バックルを中心に銀のベルトが出現する。即座にその端のつまみを動かし、ベルトの本領を起動させた。
その出現は、まさに魔法。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
ベルトから流れ出す唱。これが、今青年が行おうとしていることへの必要不可欠な事象だと理解できる人間がどれだけいるだろうか。
周辺に人々がいなくなった頃合いに、巨人はこちらを見下ろしている。
巨人からすれば、目下の広場には青年しかいなくなったころだろう。
青年は左手中指にルビーの指輪を取りつける。さらに、付属している装飾を指で動かすと、それはまるで顔のような外見になった。
そして。
「変身!」
『フレイム ドラゴン』
指輪をベルトに読み込ませることで、ルビーの指輪が真紅の光を放つ。
すると、指輪から同じく真紅の魔法陣が発せられた。
人間大の魔法陣は、そのまま青年の正面からゆっくりとその体を通過する。すると青年の体より、同じく真紅の炎で造られたドラゴンの幻影が飛び出す。
『ボー ボー ボーボーボー』
幻影は青年の体を旋回し、やがてその内側に取り込まれていく。すると、青年の目は赤く染まり、その体は炎の色をしたローブに包まれていく。
そうして、青年の姿は大きく変化していた。
指輪の魔法使い、ウィザード。
指輪と同じく、ルビーの宝石を面とし、胸元に怪物の頭部の意匠を残すそれは、そのままジャンプ。同時に、別の指輪を発動させた。
『コネクト プリーズ』
そして、改めて生成される別の魔法陣。
ウィザードが魔法陣に手を入れると、その内側より専用バイク、マシンウィンガーが引っ張り出される。
同時に、巨人もまた動き出す。
目下の目障りになるであろう脅威に対し、腕を振り下ろした。
ウィザードはマシンウィンガーのアクセルを入れ、それを回避。巨人の腕を伝い、一気に顔面まで接近した。
そして、ウィザードはそのままマシンウィンガーから飛び上がる。巨人の拳を回避すると同時に、その手に銀の銃剣を握った。
連射される銃弾。
銀の銃弾は、それぞれ独自の軌道を描きながら、巨人が防御として突き出した腕の筋肉を穿っていく。
一見、肉の繊維に見える腕。だが巨人の筋肉からは鉄を連想させる音が響いた。
「硬い……!」
ウィザードは毒きながら、近くのビルに着地。
すると、巨人はゆっくりと顔を傾け、ウィザードを真っすぐと見下ろした。巨人の全身からは強い蒸気が流れ出しており、ウィザードは宝石の面越しでも熱さが伝わってくる。
「……!」
すぐさま巨人は、ウィザードを叩き潰そうとその手を伸ばしてくる。
ウィザードは大きく飛び退き、その圧を回避。目の前で、ウィザードが足場にしていた屋上が悲鳴を上げた。
このまま巨人の筋肉質に攻撃しても埒が明かない。狙うならば、人体で最も有効な場所が効果的だろう。
人体の構造上、最も柔らかい部分は。
「目だっ!」
『チョーイイネ スペシャル サイコー』
ウィザードが発動した魔法。
魔法陣とともに、ウィザードの胸にドラゴンの頭部が取り付けられた。
その口が開き、魔力が込められた炎が巨人へ吐き出される。
その目を狙う火炎放射。
だがそれは、巨人が防御として出した手によって防がれた。
「……!」
防御した。
それはつまり、少なくとも今のドラゴンブレスは、巨人にとっては危険だと判断された攻撃だということ。頭部___その目にならば、ウィザードの攻撃は有効ということ。
まだ、勝機はある。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
更なる指輪を指輪に押し当てる。
すると再び赤い魔法陣が、今度はウィザードの右足を中心に発生する。右足を天に向け、そのまま巨人の頭部に向けて跳び蹴りを放つ。
それに対し、巨人が繰り出すのは、拳の一撃。
「だああああああああああああああっ!」
魔力が込められた最強の一撃と、普通の拳。物量差もあり、少しずつウィザードの方が押されていく。
だがウィザードの最強火力は、例え巨人が相手でも決して引けを取らない。足に力を込めるたびに、炎はより強く大きくなっていく。
やがて炎は巨人がビルを砕いた拳を上回り、そのまま巨人の拳を爆発させた。
「キックストライクとただのパンチが互角か……相当不利だなこれは……」
キックの反動で強い勢いでビルの壁に埋め込まれたウィザードは毒づく。
一方、煙が上がっている巨人の右腕からは筋肉が動くような音が聞こえてくる。肉や骨が壊れるような音とともに、赤い戦意が巨人の腕を作り変えていく。
「……は?」
やがて、伸びた赤い筋は手となり復活。まるで何事もなかったかのように、拳を握り直した。
「再生……能力……! この規模の大きさで……!?」
ウィザードの仮面から、軽い笑みが零れてくる。
「……この時点で今までのデカブツに匹敵するよ、コイツ」
ウィザードは油断なく息を吐いた。
巨人はさらに、羽虫を相手にするように平手を放つ。
『ビッグ プリーズ』
巨人の手に対しては、同じく巨大な手。
ウィザードは発動させた巨大化の魔法で、巨人の手と掴み合う。
「ぐっ……!」
ウィザードの足場にさえも圧をかけ、天井のコンクリートに亀裂が走る。それでも抵抗を続けるが、いくら巨大化した手とはいえ、もとより巨大な相手には敵わない。
すぐさまウィザードの手は握りつぶされ、赤い魔力の残滓が飛び散る。
「嘘だろ……!」
ウィザードは毒づき、その場からジャンプ。同時に、ウィザードの背後でコンクリート片が舞った。
「ぐうっ……!」
煙に煽られながら、ウィザードは隣のビルの非常階段に落下する。凄まじい音とともに、ウィザードの背中を受け止めた手すりがひしゃげた。
意識が飛びそうになり、「ああっ……!」と呻き声が漏れ出た。両腕が投げ出され、握っていた銀の武器が手から離れていく。
体を起き上がらせ、ウィザードはすぐに階段の踊り場に立つ。
だがこの巨大な生物の動きは緩まない。今度はウィザードがいる非常階段を摘まみ、引き剥がした。そのまま振り上げた手により、非常階段が鞭のようにしなり、ウィザードが上空に投げ出される。
空中に投げ出されたウィザードは、そのまま巨人の目の前に浮遊する。
「……このっ!」
そのままウィザードをどう処理するつもりだったのだろうが、ウィザードの反撃が一枚早かった。
ウィザードの全身から炎が迸り、一気に巨人へ噴射される。ドラゴブレスほどの威力はないにしろ、顔という脆弱な箇所を炙られ、大きく足を後ろに下げた。
「よし!」
ウィザードは即、次の指輪を発動。同時にビルに着地し、そのまま巨人の右方向へ駆けだす。
『エクステンド プリーズ』
伸縮した左腕。巨人の顎を掴み、それを起点にウィザードは大きく動き、放物線を描きながら巨人の背後へ周りこむ。
「死角からなら、細かい位置への防御はできないだろ……!」
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
再び発動する、キックストライク。
空中で魔法陣が発動し、ウィザードの足に吸い込まれる。炎を宿した二度目の蹴りが、巨人の首目掛けて直進する。
だが。
その時、巨人から噴き出る蒸気の量が膨れ上がる。ウィザードの視界を白一色に染め、その熱さは炎のウィザードでもカバーしきれないほどだ。
「ぐああああああああああああああっ!?」
点ではなく、面からの攻撃。キックストライクを掻き消し、全身から火花を大きく散らす。
そしてそれは、巨人に反撃の時間を十二分に与えてしまったということである。
「しま……っ!」
気付いた時にはもう遅い。巨人は、ウィザードの体を握り、締め上げる。
「ぐっ……ああああああっ!」
ウィザードは全身に走る痛みに悶える。バキバキと全身の骨が悲鳴を上げ、ウィザードの内部である肉体全体が軋んでいく。
巨人はウィザードを握った拳を突き上げ、周囲の建物を見渡す。
やがて巨人は、背後に聳える建物へ、ウィザードごと拳を叩きつける。
高層ビルを挺していた建物は、縦に裂かれ、崩壊していった。
「がはっ!」
そして、その槌とともに建物の全質量を受けたウィザードは、そのダメージによって青年の姿に解除される。
さらに、大きく吐血。
「ぐっ……体が……うぐあっ!?」
さらに、持ち上げられる拳。生身の人間を握ったまま、残骸となった建物から突き上げた巨人は、拳を間近に近づけた。
そして、巨人の目と目が合う。
「……コイツは……っ!」
意思がある。理性がある。
赤い眼の青年は、確信した。
この巨人は、人間と同じ、心がある。
「________」
「う、うわあああああああああああああああ!?」
巨人は吠え、まるで投球のように青年を投げる。
凄まじい風を背中に受け、きりきりと回転しながらコンクリートジャングルを突き抜けていく肉体。
途中の建物をいくつも貫通し、地面に大きなクレーターを作って墜落し、青年の身体はようやく止まった。
「がはっ……!」
額から血がしたたり落ち、右目の視界を潰す。
巨人は今、遥か遠くのコンクリートジャングルで、近くにある数個のビルを破壊し続けている。建物が一つ崩れるたびに、轟音が空気を伝って届いてくる。
やがて粗方破壊し尽くしたのか、巨人はその場で棒立ちとなる。
黙々と上がっていく煙。それはやがて、巨人の周囲を覆うように広がっていく。
やがて、巨人の姿は煙に溶け込むように消えていった。
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