その筋の人と思ったら
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第一章
その筋の人と思ったら
昭和のことである。
修学旅行で新大阪駅にいた女子高生の名護奈央一五二位の背で黒髪を長く伸ばし黒目がちの楚々とした二重の目と丸い鼻を持つ彼女は前から来た一団を見て仰天した。
「まずい!」
「えっ、何あの人達」
「滅茶苦茶やばそうじゃない」
「どう見てもヤクザ屋さんでしょ」
周りの友人達も口々に言った。
「白いスーツに赤い柄のシャツって」
「金時計に金のネックレス」
「白エナメルの靴にグラサン」
「完璧じゃない」
「近寄ったら絶対に駄目ね」
奈央は喉をごくりと鳴らし確信した。
「何されるかわからないな」
「そうよね」
「あの人達まずいわ」
「先頭を進むのは若い人達で」
一団を凝視して話した。
「続くは幹部で」
「最後にいるのは組長さんね」
「歩き方といい」
「間違いないわ」
「いや、プロ野球選手だぞ」
だが担任の先生がこう言ってきた。
「カープの人達だな」
「えっ、カープですか?」
「広島東洋カープですか」
「赤ヘル軍団ですか」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「あの人達はな」
「そういえばそうかも」
「高橋さんおられるわね」
見ればそうであった。
「木下さんも」
「水沼さんおられて」
「あっ、浩二さん」
「江夏さんね」
「北別府さんもいるじゃない」
「一番最後は衣笠さん」
「じゃあ頑張ってくださいって言ってみる?」
尚は友人達に提案した。
「試合を」
「そ、そうね」
「野球選手だったらね」
「私達名古屋で中日ファンだけれど」
「こっちだと阪神だしね」
友人達も話した、そしてだった。
それならと頷き合ってだ、その人達に声援を送って。
「試合頑張って下さいね」
「勝って下さいね」
「おう、任せてくんじゃ」
見事な広島弁での返事が返って来た、そしてその一団は。
にこりと笑って手を振ってきた、奈央達はそれを見て確信した。
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