貧乏だった日々を思い出して
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第二章
「おしまいだからね」
「そうね」
友人もそれは確かにと頷いた。
「あそこみたいになったら」
「冗談抜きで死ぬから」
「貧乏でも食べものがある」
「そのことはね」
「有り難いことね」
「本当にね」
友人にファミレスのランチセットを食べつつ話した、そして仕事帰りにスーパーで食材を買って夫婦で暮らしているマンションに帰ると夕食を作った、そうして帰って来た夫長身で黒髪をオールバックにした長方形の顔で端正な顔立ちの彼と一緒に食べたが。
その彼にだ、彩香は笑顔で言った。
「今日は鶏肉安かったのよ」
「そうだったんだ」
「半額でね、だからね」
「チキンステーキにしたんだ」
「よかったわ、それで茸も安くて」
それでというのだ。
「舞茸やしめじがね」
「炒めたんだ」
「そうしたの、やっぱりね」
「安売りだね」
「半額ね、それがね」
「君が好きなものだね」
「こうした単語を見るだけで」
安売りや半額をというのだ。
「嬉しくなるわ」
「そうなんだね」
「お金があっても」
それでもというのだ。
「そうした言葉を見るだけで」
「嬉しくなって」
「それでね」
そうなりというのだ。
「ついついね」
「手が伸びて」
「買ってね」
「お料理作ってくれるね」
「大学の時もそうだったけれど」
貧乏だった時もというのだ。
「今もね」
「そうした言葉好きだね」
「大好きよ、じゃあその半額の鶏肉や茸をね」
「食べようね」
「美味しくね」
夫に笑顔で言った、そして食べる料理はとても美味かった。半額だったことが最高の調味料になっていたので。
貧乏だった日々を思い出して 完
2025・3・20
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