病院は待つもの
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第一章
病院は待つもの
歯医者に行く前にだ、主婦の黒木悠里は今読んでいる文庫本を手にした、そのうえで同居している実母の美玖に言った。娘夫婦が娘の両親と同居しているのだ。
「行って来るわね」
「あんたいつも本持って行くわね」
美玖は娘に言った、二人共穏やかな顔立ちで大きな垂れ目を持っている。顔は丸く黒髪はショートにしていて背は一六〇位でやや肉がついている感じの身体である。
「スマホか」
「だって待つでしょ」
娘はこう答えた。
「病院って」
「すぐに診察になればいいけれど」
「そうならないことが多いでしょ」
「ええ」
母も否定しなかった。
「それはね」
「そうでしょ、だからね」
それでというのだ。
「いつもよ」
「本やスマホ持って行くのね」
「そうしてね」
そのうえでというのだ。
「待つ間ね」
「時間を潰すのね」
「そうするわ」
こう母に話した。
「これからね」
「そうなのね、それじゃあ」
「ええ、今からね」
まさにというのだ。
「行って来るわ」
「そうしてきてね」
こう話した、そしてだった。
悠里は歯医者に行った、そのうえで二時間位して家に帰ってきてだった。母にこんなことを言ったのだった。
「今日も待ったわね」
「車で行ってすぐの歯医者さんなのにね」
「待ったわ」
「他の患者さんもおられて」
「それでね」
そうであってというのだ。
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