だからってなんだよー 私は負けない
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第4章
4-1
新学期が始まって、そんなに、眼覚めが良かったほうでは無かったのだ。貫次は「おはよう」と言って駆け抜けて行った。あれからは、あっさりとしたもんなのだ。駅で美里ちゃんと花乃ちゃんと逢って
「おはー すぐり ・・・あーぁ リップ塗ってるなーぁ」
「うん 色の無いやつだよー」
「ふ~ん なんか お肌も違うみたい しっとりしてるね」
「わかる? スキンケァもね」
「へぇー 好きな人でも出来たぁ?」
「ちゃうよー 女の子だもん」
学校でも耀先生のホームルーム。京都で別れた後、逢って無かったのだ。最初、顔を合わせた時、お互い、見合ったまま しばらく沈黙があって、私がウィンクをすると、慌てて顔を逸らせて行ったのだ。彼は、何かを言いたかったのだろうけど・・・私も何か言いたかったのだけど、言葉が見つからなかった。だけど、もう私は彼とはこころが通じ合っているのだと、思うことにしていた。
放課後の生物クラブの時間でも「大丈夫だったんだな」って 何よー 京都駅でほったらかしにしたくせにー もっと 声の掛けようがあるでしょっ 私は電車の中で涙を拭いていたんだからぁー それにさ 「恋人とデートしてる気持ち」って告白したつもりなのに・・・知らんふりしてさー
学校の帰りにセブイレのATMで通帳を打ち込んで、私は、にんまりしていた。確実に増えているからだ。夜、お母さんが
「篠田の社長さんに聞いたわよー すぐり すごいことやってるんだって? いろいろと手伝ってやってくれって」
「そんなにすごいことじゃあないよ 私 起業したんだものー 前も言わなかったっけー 私 修学旅行の費用は自分で稼ぐって」
「すぐりちゃん あなた どうなって行くのー」
「そんなのー 私はお母さんの娘のままだよー ずぅ~っとね」
その夜は、お母さんは私を抱き締めて寝てくれた。昨日の夜のお母さんでは無かった。もしかすると、お母さんは私を独りで育てるために 自分を犠牲にしてまで・・・だったのかしら。
― ― ― ☆ ☆ ☆ ― ― ―
9月の第2週になると貫次は練習とか試合とかで、手伝いができないと言ってきていた。私は朝7時頃から採集を始めて、10時頃帰って来て1時間 お母さんに洗浄を手伝ってもらって、その後はお母さんはお仕事に出るので、独りで荷造りまでをやっていたのだ。篠田の社長さんは「貫次が居ないから 大変だろう だれか、パートに声を掛けてみるか?」と、言ってくれたけど、私は自分で頑張ることにしていたのだ。
秋が進むにつれて、[ナカミチ]の客数も増えて行って 何回かは、先生も手伝いに来てくれていたのだけど、[愛の山への誘い]もだんだんと注文の数が増えていたので忙しかったのだ。なんとか、10月半ばになって、貫次が 負けてしまったから、もう 練習も無いよ と、言ってくれて、又 手伝いに入ってくれた。そして、忙しいのを見て、野球部の同級生と同じマネージャーをやっていたという女の子を連れてきてくれた。まぁ 人件費も掛かるけども、丁寧な仕事をするためだから、やむをえないと思ったのだ。
新しい男の子には、採集した木の葉が半分になった頃、中継して、女の子がそれを先に洗浄し始めるのだ。そして、全部 採り終えたところで、みんなで選別をして荷造りをし終えていた。3人とも3~4時間の作業なので、受験勉強の妨げにならないし、小遣い稼ぎになるので喜んでくれていたし、先輩なのだけど、私が雇い主なので、私の言うことに素直に動いていてくれた。
10月にチーフから、オーナーの知り合いの大阪のホテルからも椎茸と木の葉を仕入れたいと、言ってきてるんだが、どうだろう? と連絡があった。私は、その旨を篠田の社長さんに伝えたんだけど
「原木椎茸は もう 予定数いっぱいでな 次は、3月終わり頃からかなぁー」
「そうかぁー そう言っていたもんねー お断りするかぁー」
「だなぁー 残念だけど・・・あのさ すぐりちゃん 原木の数 増やそうと思ってるんだ 坂のところの向こうに雑木林あるだろう? あそこは、庄爺のもんなんだ だから、借りて・・・」
「そーねぇー でも、鹿とか猿の防御柵したり 大変なんちゃうの? それにさー 来年になると取引の話も消えるかも知れへんでー 私は 知らんからネ! やるんだったら おじさんの自己責任でやってよねー」
「そんな 冷たいこと言うなよー」
「まぁ 木の葉は繫いでいこうと思うけど・・・紅葉か楓の葉っぱだけで良いみたいだからー ナカミチのほうは 来年も使ってくれるだろうけど・・・椎茸も繋ぐように頑張るよー」
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