冬の蛇
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第二章
「夫婦で皆と仲よくよ」
「暮らしてるのね」
「そうなの」
笑顔で話してだった。
優は澄香に家族の面々の話をしていった、澄香もそう聞いてそうなのかと頷いた。この日はそうした話をしていたが。
サラリーマンの夫は仕事から帰るとだ、笑って彼女にこんなことを言った。
「今日帰りの電車で子供がいてね」
「何かあったの?」
「僕を見て熊みたいだねとか話していたよ」
「大きいから」
「この体格だからね」
二メートル近くありがっしりした体格で話した、丸顔で優しい感じの顔立ちで黒髪は短くしている。
「そう言われたよ」
「熊ね、それはね」
妻も笑顔で応えた。
「言われてみるとね」
「自分でも思うよ、この体格だとね」
「そうも言われるわね」
「うん、ただね」
それでもというのだった。
「僕冬眠はしないから」
「熊と違ってね」
「うちの子達も今は冬眠しているけれど」
彼もこう言った。
「けれどね」
「それでもよね」
「うん、僕は冬眠しないよ」
「そうよね」
「寒くてもね、じゃあ今はね」
「ええ、ご飯の用意出来てるわ」
夫に笑顔で話した。
「今日は寒いからおでんよ」
「いいね、じゃあ一緒に食べよう」
「そうしましょう」
夫婦で笑顔で話した、冬は彼等だけで過ごした、だが。
春になると彼等は目覚めた、そしてそれぞれの水槽の中にいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
彼等は喋らない、だが水槽の中でそれぞれ動いている。澄香はそんな彼等を見て優に微笑んで話した。
「春になったら出て来るわね」
「この通りね、この子達が出てきたらね」
優は家に来た澄香に彼女が持って来てくれたお茶菓子を囲んだうえで話した。
「春だってわかるわ」
「そうよね、それじゃあよね」
「ええ、またこの子達にご飯を出して」
「一緒に暮らすわね」
「主人を入れて家族でね」
こう言ってだった。
この時も澄香に家族の話をした、そのうえで盛り上がった。彼等を見つつ語るその顔は冬より明るいものだった。まさに春といっていいまでに。
冬の蛇 完
2025・3・19
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