鳴る足
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第二章
不自由なく暮らした、そうしてだった。
ある日だ、佳代は仕事帰りに同じく仕事帰りの兄を見て言った。
「あれっ、お兄ちゃん歩いても」
「うん、最近ね」
兄は自分を呼び止めて言ってきた妹に話した。
「普通の靴を履いてもね」
「鳴らなくなったのね」
「そうなんだ」
「そうなのね」
「どうもね」
兄は自分から話した。
「歩き方に問題があって」
「それでなの」
「鳴ってたみたいだし」
「二条城の廊下歩いた時みたいに」
「スニーカーだと走って」
そうしてというのだ。
「歩いていないし」
「ランニングの時に履くから」
「安全靴は重いしね」
「革靴で底は分厚くて鉄板も入れてあって」
「だからね、歩いてもね」
そうしてもというのだ。
「他の靴と違うから」
「重いし底も違うから」
「それでだよ」
「歩いても鳴らなかったのね」
「何でも原因があるけれど」
妹に科学の絶対の摂理から話した。
「僕が歩くと足が鳴ったこともだよ」
「原因があったのね」
「歩き方のね、それでね」
「歩き方が変わったのね」
「多分仕事で安瀬靴履いて歩く時が多くなって」
それでというのだ。
「歩き方もそっちの歩き方になったから」
「鳴らなくなったのね」
「そうだと思うよ。それならそれでいいよ」
平松は笑って話した。
「僕は僕だしそうなっても困ってないからね」
「いいのね」
「全くね。じゃあこれからお家に帰って」
「晩ご飯ね」
「今日の晩ご飯は何かな」
「お母さんにメールで聞いたらトマトとチーズのサラダにカレイの煮付けよ」
「いいね、じゃあ帰って食べよう」
妹の言葉ににこりと笑ってだった。
平松は彼女と二人で帰った、その間ずっと歩いていたが足は鳴らなかった。見れば確かに歩き方が変わっていた。そして二度と鳴ることはなかったのだった。
鳴る足 完
2025・3・18
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