氷の下は怖い
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第二章
「間違ってもです」
「中に入ったら駄目ですね」
「夏でもこの池は水温が低くて」
それでというのだ。
「しかも池ですが流れもあって」
「海やプールよりも危ないですか」
「泳ぐことには向いていないです」
「だから遊泳は、ですね」
「あまり勧めていません」
そうだというのだ。
「私達管理側も」
「そうですか、そういえば地元の我々は泳がないですね」
「ここではと言われましたね」
「子供の頃に。学校やスイミングスクールで泳いでいました」
「釣りはいいですが」
それでもというのだ。
「泳ぐことはです」
「しない方がいいですね」
「案外それがです」
この池が人が泳ぐには向いていないことがというのだ。
「主かも知れないです」
「その正体ですか」
「そうかも知れないです」
こう話した。
「あくまで私の考えですが」
「主じゃなくても怖いですね」
「氷の下は」
「そして氷がない季節も」
「怖いところです」
「そうですか、じゃあ変な気は起こさずに」
山岡は弘田にそうしてと話した。
「こうしてです」
「釣りを楽しまれますね」
「はい、釣って」
「釣ったお魚をお家に持って帰って」
「女房に料理してもらって」
弘田に笑って話した。
「晩飯にします」
「そうされますね」
「そうします、氷の下は地獄ですね」
「氷一枚下は」
「入ったらすぐに死ぬ様な」
「そんな場所です」
「ですが逆に氷の上は違うので」
地獄ではないので、というのだ。
「ですから」
「それで、ですね」
「このままです」
「釣りをされますね」
「そして」
そのうえでというのだ。
「夜飲むつもりなんで」
「では晩ご飯のおかずの分だけでなく」
「そっちの分まで釣ります」
「頑張って下さい」
弘田は山岡のその言葉に笑顔で応えた、そうして池の管理人としてこの日も働いた。山岡はそこそこ釣れてつまみの分も確保した。そして家に帰ると妻が料理してくれたその魚を楽しんだのであった。
氷の下は怖い 完
2025・3・17
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