氷の下は怖い
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第一章
氷の下は怖い
冬の池の魚釣りは凍った池の氷の部分に穴を空けてそこに釣り糸を垂らす、そのうえで釣るがふとだった。
その釣りを楽しんでいるサラリーマンの山岡宗光細面で垂れ目で口の大きい長身痩躯で短い黒髪の彼は言った。
「この池主の話があったな」
「はい、昔から」
池即ち釣り場の管理人である弘田住夫小柄で細い目に短い黒髪に突き出た口を持つ彼がその場にいてすぐに答えた。
「言い伝えがあります」
「そうですよね」
「十メートル以上ある大蛇ですね」
「もう千年位前からある」
「それがです」
「池の底で眠っていますね」
「そうした言い伝えがあります」
弘田は山岡に話した。
「実際に」
「だったら」
山岡はここまで聞いて釣り糸を垂らしたまま言った。
「この池に潜って」
「底まで行くとですね」
「そこに大蛇がいて」
主のというのだ。
「一口でぺろり」
「食べられますね」
「十メートル以上あれば」
蛇がというのだ。
「もうそれこそです」
「人間なんて一呑みですね」
「そうなりますね」
「熱帯じゃありますね」
そうした話が実際にとだ、弘田も答えた。
「アナコンダとかニシキヘビが」
「あまりにも大きくて」
「人間どころか豚や羊でもです」
そうした家畜達もというのだ。
「一口で」
「物凄いですね」
「そうなります」
「それは怖いですね」
「はい、ただあくまで言い伝えで」
池の主の大蛇の話はというのだ。
「実際にいるかどうかは」
「わからないですか」
「そうです、あと絶対に」
弘田は山岡に険しい顔になって話した。
「今はお池に入らないで下さい」
「氷の下にですか」
「釣りが出来てその上を普通に歩けて」
水面が凍っている為にというのだ。
「スケートをする人もいますね」
「うちの娘も毎日滑っています」
山岡は笑って話した。
「地元なんで」
「そうですね、ですが間違っても氷を割って」
その水面が凍ったというのだ。
「中に入ることは」
「いけないですね」
「この寒さで冷えたお水の中に入れば」
それこそというのだ。
「あっという間にです」
「心臓麻痺になって」
「そうなってです」
実際にというのだ。
「死にます」
「そうなりますね」
「それこそです」
弘田は険しい顔のまま話を続けた。
「主に食べられる前にです」
「お水の冷たさで心臓麻痺になって死にますね」
「そうなります、そうでなくても風邪をひきます」
「この寒さじゃ当然ですね」
「ですから」
そうなるからだというのだ。
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