| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

だからってなんだよー 私は負けない

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

3-6-4

 朝、先生とお店で朝ご飯を・・・オムレツトーストと紅茶。7時半から、確かに昨日とは違ってお店の中は明るいのだ・・・午前のマネージャーという舞衣さんいう人に紹介されて、カウンターの端っこで。他にも、コーヒーだけの人、テーブル席でお年寄りはトーストを横にポタージュとかシチューをすすっいて、席の半分以上が埋まっているのだ。舞衣さんっていう人が独りでかいがいしく動いていて、厨房の中はお爺さん独りみたい。舞衣さんは、カウンターの向こうでコーヒーとか飲み物を用意しながら、レジもやっているのだから、忙しそうで、中にはお客さんが飲み物を運ぶのを手伝ったりして、家族的にやっているのだ。すごぉ~いと見とれていると、ぞろぞろとレーザーのジャンパーを着た人達が入って来て、テーブル席に陣どった。

「おっ 耀ちゃんじゃぁないか 珍しいのー 飛ばされて、滋賀の田舎に行ったんだろう もう そろそろ雪降るんか? おっ 隣は彼女かぁ?」

「香川さん そんなんじゃぁ無いですよー それに 向こうじゃぁー まだ暑くて 琵琶湖で泳いでいますよ 熊とか猿と一緒にね」

「そうか 先生にもなると ツレぇーと 冗談も言うのぉー はっはっはー」

 この人達、何にも注文していないのに、舞衣さんがオムレツトーストを運びだすと、何人かがそれを手伝って、自分達のコーヒーも運んでいたのだ。それに、トーストにオムレツを挟んでサンドにして食べていたのだ。私は、あーそーいう風に食べるのかーと感心していたのだ。食べ終わると、さっさっと帰るようで、出て行く間際に舞衣さんから包みをそれぞれが受け取っていたのだ。

「バイク仲間でな もう みんな60近いと思う 今日は居なかったけど、昔からここの建物でお世話になっている堤さんいう人の連れさ ナカミチの開店以来の常連さん さっきのは、おにぎりでな 初めて来たときに、お母さんが、好意で握ったみたい それに、感動しちゃってな それ以来、ずぅ~と ツーリングにはかかせないらしい」

「へぇー だから このお店・・・皆さんに愛されているんですねー」

「そう 昨日も お母さんが言っていたろぅ? 皆さんに喜んで来てもらって、支えられてるんだって あのさー 後で案内するけど、表の掲示板 見ると感動するぜー」

 そして、私は 本場のたこ焼きを食べたことがないだろう と、連れられて表の待合所にもなっている屋根付きの所の壁の掲示板を見ると、そこには子供達の絵が貼られていて、どれもお料理とかホールの人の絵。どれも、おいしいとか親切にしてもらったとかの言葉も書き添えられていた。横の方には俳句も並んでいて、お店のことを詠んだ句ばかり。

「すごいだろう? お客様が自主的に貼って行くんだ。それも、2週間で自分から剥がすことになっている。最初はこの半分のスペースだったらしいが、有志がお金を出し合って広げたんだ。みんなに愛されているんだ。ナカミチを再オープンした時からのお母さんの姿勢なんだ それは、お爺ちゃんの覚悟でもあったんだろうな」

「なんか 素敵なお店に 私 関われよーとしてるんですね」

 歩いて、市民会館の裏手にある看板も無いような古ぼけたたこ焼きのお店。80も越しているだろうか おばあさんが焼いていて、座るところは表の錆びたベンチだけ。そこで「おばあちゃん たこ焼き10個 冷やし飴も2つな」と、夏の日差しを受けながら、そのベンチに座って あつっ あつっ と言いながら食べた。でも、特別においしかったのだ。

 その後、街をぶらぶらして・・・その間、私は先生の腕にぶる下がっていたのだ。お店に2時前に戻って、さっきまで、満席だったみたいで、その熱気がまだ残っているようだった。ホールにはオーナーも含めて5人の女の人が動いていた。空いている席に案内されて、私はハンバーグランチで、お皿の隅には野菜サラダにフライドポテトも乗っていてカップのコンソメスープもついていて600円だという。デミグラスソースも美味しくって、ここでも感動していた。

 そして、食べ終える頃、清音さんとチーフがやって来て、奥のおうちの方に連れて行かれた。

「どう? ナカミチの感想は?」

「ええ みんな お客様が本当にこのお店を愛しているんだなーって 実感しました」

「そう それが伝わったのは良かったわー すぐりちゃんも このお店の愛がわかるのよねー 安心した そうねー 何からお話しようか ・・・ すぐりちゃんの送ってくれている木の実とか葉が ここのお料理の売りの一部になっているってのは理解してもらえたと思うわ それでね 秋からの新しいメニュー 人気出て来ると思うわ これまで以上に増えて、すぐりちゃんも忙しくなるわ 手に負えないかもね そこは、大丈夫かしら?」

「学校が始まると 週に一度になると思いますが 土曜日曜にするとか 場合によっては、手伝ってもらう人も増やしますから、乗り切ります」

「そう 勉強のほうも おろそかにしないでね 耀ちゃんに叱られるからー」

 先生はリビングのほうで、コーヒーを飲んでいて知らんぷりをしていた。キッチンではオーナーも居たのだが、何かお料理をしているみたいで、私達の話にはノータッチみたいだった。

「あのー そろそろ イチョウとか楓が色づいてくるので 使ってもらえれば・・・椿なんかも 1枚5円でいいです 私もらい過ぎかも・・・それと、椿は数揃わないですけど双葉のものも送るようにします それと、バショウは数って・・・難しいんです」

「そう すぐりちゃんから そ~言ってもらうと助かるわー とにかく チーフも1000円に何とか持って行かないとって 頭痛いみたいだからー」と、清音さんはオーナーの顔を見ながら話していた。

「そーなんだよ バショウは少し見た目が重いし、正月用にと思う 左方はイチョウにして、これから色もその時その時で変わるから面白いよなー 椿は右下に持ってくるよ その双葉もいいねぇー」と、チーフが言っていて

「そうねー 愛の山って感じもするわー」と、清音さんも賛成していた。

「それとね 椎茸 使いたいんだ 話してくれないか 4~5cmのもの 重さではなくて、1本幾らだと助かる 初めは週に300本 安いほうが助かるが・・・できれば60円ぐらいになんないかなー その代わり定期的に引き取るからー 交渉はすぐりちゃんに負かす 木くらげもな それと、土産にくれた鮎甘露の柔らかく仕上げたやつ お年寄りには喜ばれると思う こっちも交渉してくれ 週に10kg 出来るだけ頭とれたのはダメで 包装は一括でもかまわんよ まぁ 値段次第では頭取れでもかまわないがー 我々が交渉するより すぐりちゃんの方が地元の繋がりがあるだろうから 有利だろう 生産者と直結で もちろん すぐりちゃんも幾らか利益をのせてもらって結構なんだよ」と、チーフが言ってくれた。

「ありがとうございます 皆 喜ぶと思います うれしいぃー」

「すぐりちゃん 今日はブローチ無いのね」

「うん しなびてきちゃってー」と、私は着替えてピンクのチェックのブラウスだったのだ。

「そう ウチは あれっ 好きだったのにねー あのさー すぐりちゃんも遠慮しないで稼ぐようにしなきゃーね お母さんを助けるんでしよ?」

「うん 私 来年 修学旅行だから その費用 お母さんも貯めているんだろうけど。そのお金 自分のことに使って欲しいの」

「うん 偉いわねー がんばってね」

 そして、私がお礼を言って帰る時、先生が

「京都駅まで一緒に行くよ」

「えっ 京都駅までって?」

「うん 僕は、今晩 大学の友達と会うことになったんだ だから、京都からだと乗り換えも無しで着くから、すぐり 独りで帰れるだろう?」

「えー そんなの聞いてないよー 一緒にって思ってたのにー だったら、それ 一緒に行く」

「いや 飲んで泊りになるかも知れないからー」

「だったら 私も 泊まる 明日も休みだし」

「そんな訳にいかないだろう? お母さんが待っているよ」

「うぅー じゃぁ 今度 穴埋めしてくれる?」

「うん おわびにな」

「じゃぁー ・・・今度 キッス ねっ」

「え・・・」

「ウフッ じょーだんだよー すぐりは いい話を持って 元気に帰ります!」

 だけど、ホームに電車が入ってきた時、私は先生に抱き着いて顔を埋めながら

「離れるのは嫌よ! 私を見捨てないでー」

「おい みんな 見ているよー やめろよなー」

「チエッ ここは、私を抱きしめるシーンなんだけどなー」と、先生を見上げて、チュッとして乗り込んでいったのだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧