不遇水魔法使いの禁忌術式
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7話
霧が漂う。不自然に突然に霧が湧いて出る。路地裏を満たすように霧が漂い流れ…そして留まる。この場の主導権を一瞬でサーシャが握った。
「…これって」
一定のサーシャが指定した範囲に漂い一定のパターンで動いている。サーシャの魔力が周囲に満ちていくのを感じる。
「ええ、ゴーレムの中心部にあったアレのちょっとした応用よ」
風が吹いても霧はぴくりとも揺れない。
「な、なんだぁ」
「変なものが出てきたですゥ.霧だ…霧が出て…」
敵は俺たちを見失ったのか見当違いの方へ魔法を放つが霧を捉えることは出来ていない。
「あのゴーレムにあったのは私から奪った魔力を利用する事を前提に組まれた術式だもの」
「こうして核を抑えたら私が使えるのは当然でしょう?」
サーシャはさらりと言うがそんなに容易く出来る筈がない。俺はサーシャが俺に合わせて組み込んだ術式だって完全に使いこなせている自信がないってのに。
「『霧の結界』『感覚共有』『幻影』…」
水は様々なモノを受け入れ溶かして包み込む。そういう解釈なのかただ単にサーシャの使い方が上手いのかわからないが複数の術式が霧へ、霧が覆う空間へ組み込まれていく。
(…相手の動きが見えなくてもわかる)
(要は敵味方にバフデバフばら撒いてんのか…エゲツないなぁ…)
霧の触れる場所が立体的に脳に流れ込んでくる、いわば霧のゴーレムの持つ感覚を処理して視界と聴覚やらの五感に無駄なことを考えながら慣らす。
しばらくするとサーシャは更に術式を組み立てようとするも魔力が霧散し霧に混ざるだけになった。
「本当はもっと相手へ干渉するようなのも組み込みたかったのだけれで…ここまでね」
「後は任せるわ」
封印されていた影響か何が原因かわからないがこれで万全だったらサーシャだけで全部ことを片付けてたんだろうなぁ…
(一定空間において相手が対応作の無い状態なら一方的に倒す…俺も頑張らないとな)
「ここまでお膳立てされたのなら…お安いごようだ」
まあ俺にやれることがあるのが今だしちゃっちゃと片付けてしまおう。俺はサーシャの魔法で霧の中で感覚の認識が広がっていることをいいことに直感任せで駆ける。
「霧に囲まれて敵を撃ってもそこには何もねぇって…なんだよこのクソ展開!?」
俺も敵に対応作の無い状態でこの初見殺しくらったら同じこと言うと思う。俺は壁を蹴り上から切り込む。相手は反応出来ていない。正確には視界に映る影と音がズラされ誤魔化されているのだろう。
「くそっ…」
この場にいるうち一人が風魔法を使い霧を散らそうとするのを見つけたら仲間を蹴り飛ばしてぶつけて中断させる。狭まった道、周囲にある壁、サーシャの出している霧と魔法による妨害。はっきり言ってここまでされて負けてしまうような要素はカケラもない。
サーシャはきっと弱者として相手をいかに簡単に負けさせるのかと考えて戦っているのだろう。そこを突き詰めた結果がきっとあの禁忌術式へと繋がったのかもしれない。
「オレたちはヒャッハーって突っ込んですぐにやられる端役かあッ」
「なめてんじゃねぇぞこらあッ」
ほぼほぼ言動的にはチンピラな感じでそんな部類な気がする。だから遠慮なく吹っ飛ばせるのは良いことなのか悪いことなのか。
「炎よ!……間違って殺しちゃったらごめんね」
対人戦闘はまだ慣れない、こんな状況だから俺は敵に軽口を叩き気持ちをそういう方向へ向ける。風と火を織り交ぜ衝撃は大きいが見た目ほど殺傷能力のない力を剣に纏わせて振り抜く。
「うああああ」
なんか引き攣ったのか恐怖か動揺かわからないような悲鳴をあげて飛んでいく。
壁のない方向へホームラン。実際はそこまで飛んでないし人の多そうな方面にぶっ飛ばしたからまあ生きてるだろう。一桁人とはいえ自分らより多い人数の敵を相手に無傷で対処できたのは良いことだろう。サーシャの魔法の試運転的な面で見ても悪くはなかったみたいだ。
(それに…殺しは避けれたのはよかったな)
「『霧の巨人よ踏み潰せ』」
不思議と響く声でサーシャが告げる。
そして辺り一体が完全に霧に飲まれ路地裏から散っていく。俺が実際に対峙したあのゴーレムより大きく見える『霧の巨人』が動くことで注目が一箇所に集まり霧が広がっていく瞬間に俺たちは離脱し走る。
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「で…隠れて住んでる水魔法使いの痕跡だったっけ?」
「そうね…ここ辺りだったのだけど」
サーシャと俺はようやく二人きりになり周囲への警戒をしながらも進む。そしてしばらく土地勘はない場所をサーシャが見つけた痕跡を頼りに前へ進み…辿り着く。一見普通の石造りの民家のようだが…
「…地下へ繋がっているみたいだな」
サーシャに魔法を使えるように俺を変えられてから持つようになった感覚で水の魔力を生み出す存在が近くにサーシャ以外に複数人居ることがわかる。それも地下の方にある程度まとまっている。
「…魔法を特に使わなくてもそこまでわかるのね」
「ん?そりゃあなんとなくキュピーン!って来るだろ」
「そういうものかしら?」
なにかサーシャの予測とは違う形で俺は感知しているようだが…まあ使えるならヨシ!
何かちょっと呆れたような目でサーシャが見ている気もするけど距離感縮まっている。よし、楽しく話せたな。
「まあ…一旦置いといて」
「この街での水魔法使いの扱いは詳しくないけれど…今日のアレのようなのが日常だったら…」
「まあそりゃあ地下に潜るわな…」
水魔法が使える人たちならば最低限生きて行くこと、生命維持のみに力を入れればそれだけはできるだろうし。
「それじゃ…奥に行ってみるか」
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薄暗い道を進んでいく。意外と清潔な道だ
「ごめんくださーい」
一応小声で周囲へ呼びかけはしておく。勘違いで襲われるのは溜まったもんじゃないし。どこからか見られている。視線は感じるが気配はすぐ近くにはない。監視カメラみたいなモノがあったのだろうか?しばらく進みまたしたへと降りる。
すると椅子に座って新聞のようなモノを見ている人影が一つ。
「あんたらが…領主の命令で追われてたっちゅう水魔法使いと……その連れかい…」
迷惑そうな表情のおじさんが出てきた。かなり迷惑そうに俺を見ている。…ひょっとして水魔法使いだけだから団結が出来てる部類のコミュニティだったのだろうか。
「追われているってなら受け入れないこともないが…」
「ああ、突然追われて困ってる」
「ふんっ…何も知らずにこの街へ来たのか?」
困ってると告げた俺を何か疑うような目で見ているのをサーシャが遮る。
「私の連れが何か?」
「いやあんたが良いなら…良いが」
そしてサーシャをじっと見て。ため息を一つおじさんは着いた。
「まあ…いい。どこで此処について聴いたのかはあえて聴かないが…
目の前のおじさんは頭をボリボリと掻き話を始めた。
「はぁ…しょうがねぇか…しょうがねぇ…あの子の方針にゃ逆らえんか」
「まぁ一時だけでも歓迎するぜ何処からか来た旅人たちよ、この街のレジスタンスにな」
わぁ、なんだか話が大きくなってきちゃったぞ。流れでこんなことになるのは流石に街の外側からは予測出来なかったなぁ…
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