ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第28話:揺るぎないコタエ
前書き
ネオライダーと対を成す組織・ライダーアライアンス。
彼らの言葉に揺らぐ一同。
そんな中、士が返した言葉とは……?
「世界の破壊者よ、すべてを破壊せんとするお前はその瞳で何を捉える?」
エンプティが士達へと投げかけたその言葉。
彼の投げかけた言葉を聞いてサクラと夏海は口を閉じて黙り込む。
小狼も答えられる言葉が見つからない。
龍王と笙悟が見つめるそんな中、士は一呼吸整えると、エンプティの問いかけた言葉に返事を返した。
「そうだな、少なくとも今の世界の状況を壊さなければいけないのは確かだな」
「この世界の状況を壊す、と?」
「この世界での出来事をまだまだ把握していないが、少なくとも今の俺達がやるべきことは決まっている」
「それは?」
「――――俺の仲間の記憶探しだ」
エンプティの問いかけに対して士はしっかりとした眼差しで言葉を返す。
その言葉を聞いた小狼達……特にサクラは驚いた。
出会ってまだそれほど経ってないのに、まさか他人に対して言い張るまで思い入れがあるとは思ってもみなかった。
士の"答え"を聞いたエンプティは再び質問を投げかけた。
「なるほどなぁ、でも問題は山積みなんじゃないか? お前達の邪魔するネオライダー達しかり、記憶とやらの手がかりとしかり」
「その方法はこれから見つける。生憎と、今は頼れる仲間が多いもんでな」
腰掛に深く座り、ふんぞり返りながら士は答えた。
まるで目の前の相手にさえ逆らう気概を見せる彼に龍王も笙悟も呆気に取られる。
だが、士の答えを聞いたエンプティは込み上げてくる笑いを少しの堪え、そして高らかに笑い声を上げた。
「アッハッハッハ! なるほど、そういうことか! ディケイド、やっぱ会っていて正解だったなぁ!」
「そんなに人の答えが面白いのか?」
「いやぁ、気を悪くしたのだったらすまない。あんまりにも俺が予想していた答えとは違っていたからさ。正直、お前は他人の事を気にしない奴だと思っていたが」
「かもな。だが旅のせいで俺はお前が言うお人よしに変わってしまった……特に、この世界だと余計にな」
エンプティにそう言いながら、士は傍らにいるであろう小狼とサクラを横目で見た。
自分と同じくある目的を抱いて別の世界を旅をする少年と、自分と同じく過去の記憶を失った少女。
自分のように強くはないがそれでも揺るぎない自分だけの強さを持つ彼らに士は放っておく気にはなれなかった。
今こうして共にいるのも、サクラの羽根を探す小狼達を手伝うためだ。
士の答えを聞いたエンプティは口角をつり上げて笑った。
「お前の答えを聞いて納得したよ」
「リーダー、どうするんだ?」
「そのニヤケ面だと、きっととんでもない事なんだろうな」
エンプティの表情を見て笙悟がため息を訊ね、龍王は予想がついたのか呆れた表情を浮かべる。
二人の様子に不思議そうに見ていた小狼とサクラ達を前に、エンプティは余裕たっぷりの笑顔で答えた。
「俺達、ライダーアライアンスはお前達を協力者として手を貸すよ」
「なんだと?」
「驚いてるだろ? まあお前達と俺達はそれぞれの目的のために立ちはだかるネオライダーを撃退したい……ほら、利害一致はしているじゃないか」
「まあ、確かにそうですけど……」
エンプティが言い出した思いがけない申し出に士と夏海は難色を示す。
それなりに旅をしてきた士達からしてみれば、目の前にいるエンプティという男は類を見ないほど『掴みどころがない』。
今まで出会ってきた人達には必ず何らかの願望や熱意、夢や希望といった抱えている物が垣間見ていたがこのエンプティにはそれが見当たらない。
否、どちらかといえばネオライダーの撃退は嘘じゃないが、本当の何かを隠していると見えた。
士と夏海の二人がエンプティを怪しんでいると、そこへ小狼が口を開いた。
「ありがとうございます。でも、おれ達の探し物はおれ達で……」
「ああ、心配するな。そこも俺達が情報提供させてもらうよ」
「えっ……いいんですか?」
「ああ、遠慮せずに頼っていいぞ」
流石に自分達の記憶の羽根探しまで手伝わせるわけにもいかないと思った小狼だが、エンプティは先ほどとは異なるにこやかな笑顔で返した。
先程とは異なるエンプティの対応に士は目を細めた。
何はともあれ、士達とエンプティ率いるライダーアライアンスが協力関係を結んだ。
その事実を目にしてひとまず先に喜んだのは同じ場にいた龍王と笙悟の二人だった。
「ま、何がともあれお前達と一緒に戦えるならそれでいいさ!」
「龍王……」
「おう! ……つか、最初に出会ったときから思ったけど、なんで俺の名前知ってるんだ?」
小狼と共に戦えることになった事を喜ぶ龍王。
肩に腕を回し、互いに肩を組み合う形になりながら笑いあっていると、そこへ笙悟が話しかけてくる。
「よろしくな、小狼。もっともどうやらそっちは俺達の事はなんか知ってるようだかな」
「え、なんでそんな事がわかるんだよ」
「龍王、お前はエンプティの話聞いていなかったのか? こいつらがこの世界じゃない別の世界で俺達じゃない俺達と小狼達が出会っていただろうってヤツ」
「ああ、あれかぁ! 俺気になるんだよなぁ、別の世界じゃ俺って何やってるのかなぁって!」
「たっく……でも気になるのは確かだぜ。別の世界ってのにも興味がある」
あっけらかんな態度の龍王に呆れてため息をもらす笙悟。
二人のやりとりを見て、小狼は思わずにこりと笑う。
別の世界に人間なれど、かつて出会った人とこうしてまた出会うのは小狼にとって嬉しいことだった。
~~~~
東京都都内・関東医大病院。
とある一室、そこでは最新医療機器の上に横たわるユウスケの姿があった。
寝かされているといってもいい状態にユウスケは困った表情で訊ねた。
「あのぉ、いつになったら終わるんですかこれ?」
「なぁに、もうちょっとで済む。じっとしてろ」
最新医療機器にスキャンされるユウスケを、ガラスが嵌められた壁越しに話をするのは、一人の男。
関東医大病院に勤める法医学士の意思……『椿 秀一』はパソコンを操作しながら、画面に映った状態を確認していた。
以前知り合った一条に呼ばれ、黒鋼とファイと共にここへとやって来たのだが、待っていたのはユウスケに対する身体検査だった。
一条の知り合いでもあり、かつてクウガの身体検査に協力していた人物として紹介された椿と対面。
そして今、黒鋼とファイの二人を待合室に待たせながら、一先ずの検査を終えた。
「やっと終わった……」
「まだ終わってないぞ。お前の体は興味深いかな、小野寺ユウスケ」
「ええ、まだあるんですか!?」
一旦上着を纏いながら一息入れるユウスケに、椿は容赦なく言い放つ。
片手にはレントゲンの写真があり、それを見ながら会話を続ける。
「しっかし驚いたな。まさか生きているうちにまた第四号……いや、クウガの体を調べる事になるとはな」
「椿さんはその、クウガの事を知っているんですか?」
「まあな。クウガにとっちゃ世界でたった一人のかかりつけだったんだよ。ああ、お前で二人目だがな」
「ええっ!?」
驚くユウスケの姿を見ながらけらけらと笑う椿。
椅子に腰かけると、椿はユウスケの顔を見て、少し真剣な表情で見つめる。
「今のお前の体は、ある意味驚かされるよ」
「なんか、悪いところでも?」
「ベルトから伸びている神経が殆ど全身に伸びている……小難しいことを省けば、本来だったらお前はグロンギと同じ存在に達している」
「それって……」
「前に見たことがある。その気になれば、究極の闇と呼ばれる存在になれるそうだ」
椿の口にした『究極の闇』について、ユウスケは心当たりがあった。
――それは、かつて士の故郷である世界で起きた大ショッカーによる大きな世界征服を乗り出さんとした時の事。
ユウスケは士の妹・小夜が扮する大神官ビシュムによって操られ、地の石によって漆黒と黄金の禍々しい姿へと変わった事があった。
その名は『ライジングアルティメットクウガ』、究極の闇を超えた【禁断の闇】として発現した姿だ。
その圧倒的な能力で士やライダー達を苦しめた。
大ショッカー壊滅後、不思議とその姿になる事はなくなった。
ユウスケ自身は外部による一時的な強化した姿だったと片づけていたが……。
椿の話を聞いたユウスケは"あること"を思いつき、椿に訊ねた。
「それってまだ、俺に強くなれる余地はあるんですね」
「お前……よからぬことを考えているな。その顔には見覚えある」
「えっ!? そ、そうですか?」
「医者として忠告しておくが、危ないことだけはするなよ。お前達のような奴らを無茶させるために医者がいるわけじゃないからな」
ユウスケの顔に険しくなった表情で椿の鋭い視線が貫く。
まさか自分が"ライジングアルティメットを自由に使いこなせる"ことができるんじゃないかと思ってしまった事は口が裂けても言えなかった。
一方、ユウスケと椿が話をしている頃。
待合室で仲間の帰りを待っている黒鋼とファイは紙コップに継がれた飲料水を飲みながら話をしていた。
「いつまで掛かってんだ? 小野寺のヤツ」
「まあユウスケ君ってクウガだからねぇ。話で聞いたけどあの人、この世界のクウガの事知ってるらしいし……」
「親しい相手に似てるから話し込んでいるってヤツか」
未だに検査を受けているであろうユウスケと検査を担当している椿の事を話題に出す。
そこで気難しい顔にしている黒鋼に気づき、ファイはふと訊ねた。
「何か浮かない顔だねぇ、何か気になることでもあるの?」
「ああ……」
「当てて見せようか。あの黒い姿の誰かのことでしょ」
「アイツは羽根を持っていた一文字を狙っていた。つーことは、羽根の事を知っているかもしれねぇ」
黒鋼の脳裏に浮かぶのは、前回の戦いで姿を見せたアギト・バーニングフォームに化けていた謎の黒い戦士。
あの時、2号はサクラの羽根を持っており、それを見抜いたかのようにアギトは狙って攻撃をしていた。
なら少なくとも羽根に秘められた力の事を理解していると見ていい。
この先、羽根を探す自分達とぶつかる可能性がある……その事を黒鋼は懸念している。
「また戦うときがあったら、奴をぶった切るまでだ。そこは変わらねぇ」
「でも、黒様はそれでいいかもしれないけど、小狼君とユウスケ君はそうはいかないよね」
「門矢のヤツは知らんがな……アイツらが倒せないなら俺がやるまでだ」
「譲らないねぇ」
手に持っている飲料水を飲み干すと、黒鋼とファイは話をいったん止めて紙コップをゴミ箱に入れようと立ち上がった。
二人はまだ知らないが、異世界からやって来たクウガことユウスケの身体検査はまだまだかかるだろう。
別行動の士や小狼達が何の話を聞かされているか思いながら、二人は待合室から離れるのであった。
~~~~
そこはとある次元。
誰とも知らぬ場所、そこにいるのは一人の男。
漆黒の意匠に身に纏った壮年の男――『飛王』は険しい顔をしていた。
「予期せぬ出会いが更なる混沌を渦巻いていく。まるで本来対極であった白と黒が灰色という結末に変わっていくように」
飛王はそう言いながら見ているのは、鏡で映し出されているとある光景。
それは士達と共に行動する小狼達の姿であった。
自分の抱く"ある野望"にとって、次元を渡る存在である士達をはじめとした仮面ライダーは不確定要素だ。
下手をすればただでさえ外れている予定調和を破壊し、予想外の結果を招くことを危惧していた。
眉を顰める様子を傍らで見ていた一人の若い女性・『星火』は呟いた。
「迂闊なことはできないわね。横やりを入れてしまえば余計狂ってしまうわ」
「フン……だが、このまま放っておくわけにはいかん」
星火の言葉に対して飛王はそう返すと、鏡に映る光景を別のものに映した。
――鏡に映ったのは、とある次元の光景。
種々様々な時代の服装の人間達が行きかく中、人混みをかき分けて逃げ惑う一体の猫に似た着ぐるみ姿の人物。
その片腕に抱えられているのは、大きなガラスケースに入った記憶の羽根だった。
謎の着ぐるみが羽根を手にしている事に星火は疑問を出だした。
「あれは……?」
「仮面ライダー達がいる世界の一つに落ちた羽根を手に入れた者だ。これ以上の混沌を招く必要はない……どれだけの血を流そうが、手に入れるぞ」
そう言いながら、飛王は腕を振るって指示を仕向けると、着ぐるみの人物の周囲の時空が歪み、そこから漆黒の兵士達が現れる。
謎の敵に周囲の人々は悲鳴を上げて逃げ惑う……こうなれば羽根を持った人物の命はないに等しい。
――だが、飛王はその時知らなかった。
サクラの羽根を持ってる人物が常人ではないことに。
――この時の士達は知らなかった。
新たな乱入者が自分達のいる世界へ旅立つことに。
後書き
今までの士だったらぶっきらぼうに返していたんだろうけど、ここでの士は"自分に重ね合わせた人物"がいるから、多少ばかり軟化しているんですよね。
小狼の心の強さとサクラの優しさ、二人の少年少女によって変わりつつあるかもしれない。
しかしエンプティ、何を隠している?
今回のレジェンドはクウガより椿秀一。原作クウガでは主人公の雄介と念密なかかわりを持つ頼もしい大人の人です。
以前知り合った一条さんからの紹介という形で登場させました。
ライダーばかりで登場させるばかりじゃなく、こうしてかつて支えた存在を出すのは楽しいですね。
ところ変わって、おそらく初めてとなるのは飛王一派。(ようやく登場)
どうやら小狼一行が士/ディケイド達と一緒に行動している事が不服の様子。
とある仮面ライダーの世界に落ちた羽根を回収しようとするも、果たして……。
次回、異世界からの奇妙な旅人、参上。
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