不遇水魔法使いの禁忌術式(暁バージョン)
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番外編1
前書き
魔法についての話とサーシャ視点での1話です
1.サーシャちゃんの魔法教室
目的の街へ行くまでに通りがかった村でなんやかんやあり泊めてもらえる宿の一室にてサーシャと過ごしているとちょうど良いとのことで魔法を教えてもらえることになった。
「わぁ〜」
小さく歓声を上げて手拍子でパチパチと出迎える。こう言うのは様式美ってやつだろう。サーシャが魔法について簡単に教えてくれるという話だし実際に魔法を使えるってなると楽しいしサーシャの違う側面とか見れそうな気もするから一石二鳥だ。
「なんでそんなにテンション高いのよ?……ま、まあいいわ」
サーシャは困惑と照れが入り混ざっているような反応だ。こういうやりとりに慣れていないのかもしれない。こんなことで照れている少女を見れるのはちょっと楽しい。機会があればちょくちょくこういう風に揶揄うようにするのもいいかも。
「前は属性の話だけしか言えなかったもの」
「他にも話したかったけど秘密にしたい話とかは場所を選びたいもの」
「なるほどな…俺も魔法については知りたかったし何時までも使えるだけじゃな…」
「ええ、そういうことよ」
砂漠から色々あったけど抜けてからも中々に忙しかった。だからゆっくり室内で休めるのも久しぶりだ。通りがかった先の村を襲う盗賊たちの対処やらそして慣れない旅の疲れ、こうして2人で息をつける時間を得れたのはかなり嬉しい。
「基本的なこと以外は先入観を与えたり…私は水魔法使いだから他の属性については疎いところもあるの」
「だから簡単にだけど説明していくわね」
メガネをかけていたらくいってしそうなぐらいテンションが上がっているように見える。前にも思ったがきっと魔法が好きなのだろう。なんかサーシャちゃんがメガネをかけてもそれはそれで似合いそうな気がする。ギャップ萌えって言うには元から知的なイメージはあるか。
「……なにか関係ないことを考えてるわね?」
サーシャは俺の様子を見て少しムッとした。最近は何を考えているか俺の表情で判断してくることもある。一蓮托生の関係で旅をしていくのだからもっと仲良くなれたら良いなぁ。
「いや…サーシャに教えてもらえるの嬉しいなって」
「…もう、ちゃんと聴くのよ?」
俺がそう笑って言ったらサーシャも少し嬉しそうにして解説を始めた。
・火属性
「まずカズキにとってもわかりやすい属性から説明するわ」
「そうね…やっぱり火属性よね」
「ああそうだな」
「やっぱりしょっちゅう使うことになる身体強化の属性だからな」
俺は今の所だが付け焼き刃以下の魔法を使うより武器を持って突っ込むことの方が多い。単純な魔力を矢のように放つ術式も俺の中にあるにはあるけど戦いで使えたことはない。色々な属性が使えるようになっているとはいえ動き回る中で慣れないモノを使うことで自爆してしまったり、自身だけでなく守りたいサーシャを自分で傷つけてしまう事態になったら本末転倒だからだ。まあ…とはいえサーシャの方が俺より強い気もするが俺が彼女のために戦える今の状況は役得と考えよう。
「ええ、そうね強化の効果が一番高い属性ね」
「カズキの場合だと術式の目的に沿う属性を扱うのが大事ね」
属性に沿う術式を組むのではなく目的を決めてそれに合わせられる。なるほど属性が複数ある利点だなこれは。他の属性の特色も聴いて理解して色々と試してみたいな。
「『火』が司るのは光と熱。象徴するは上昇、破壊」
「四つの属性の中で最も攻撃的な属性よ」
なるほどピカピカして熱いの全般が『火』属性で、前へ先へ進めるようなイメージのものなのか。何事も行き着く先は終わりだと考えると俺の中ではしっくりくる感じがする。
「…物騒な属性なんだな」
相槌を打ちながら忌憚のない感想が口から出る。実際もし暴発とかあったらどうなっていたのかちょっと思いもしたし。
「そうよ。単純な術式でも大きな破壊力の出せる属性で…最も戦いに向いていて重宝されてたもの」
サーシャは何か嫌なことを思い返したような表情をして答えた。…俺は踏み込んで聞くことは出来なかった。
「まあ回復力を上げることや物質へ成長を促すことの出来る属性でもあるし扱い方次第でもあるわ」
前に見かけた他の旅人の持つ切れ味の鋭い剣に『火』の気配を感じたが、そういう使い方以外にも魔法灯というらしい灯りが普及していたりと普段からお世話になっている。あんまり考えすぎない方がいいんだろうな。
・風属性
「次は『風』ね」
「風か…その属性の術式は俺は足場代わりに使ってるな」
実際どこでも踏み込むことが出来るのは便利だ。砂漠を歩いて回ったから不安定な足場の恐ろしさは結構わかってるつもりだしありがたい。攻撃的な面ではたまに『風』の矢を撃つのは使ったが個人的には結構やりやすい。
「『風』が司るのは大気。象徴するは増長と流動」
「最も他の属性と協力する際には相性が良い属性ね」
なるほどこの属性はサポート的なのが得意なのか。
「ちなみにカズキが使ってる術式は『風』の『流動』って側面を使っている術式よ」
「『風』と『水』では『流動』するという面では同じだから水魔法使いの私でも組みやすかったわ」
「そういう性質って被るモノなんだ」
つい気になってサーシャに質問する。
「ええ…持っている力を定義付けて使っているだけだし絶対にこれと言ったモノではないけれど…」
「『火』と『風』は見えず軽い、『土』と『水』は見えて重く」
「『火』は空へ上がり、『土』は動かず、『風』と『水』はその間を流れる」
「今はどういう説が主流か詳しくないけど私が封印される前は大体こんな感じだったわ」
「なるほど」
やっぱり魔法については結構詳しいんだろうな。嬉々とし説明してくれている。物質よりなのか熱いのか冷たいのかとか色々とありそうだな。なんというか数学かなんかの授業で出た円が重なり合ってるやつみたいに部分部分被ってるところがあると思っていた方がいいだろう。
(…とすると意外と属性間での相性とかはあまりないのかもしれない)
(まあ…俺がゲーム脳だっただけと言われればそうだけど)
・土属性
「『土』はカズキが見た中では…ゴーレムが印象的かしら」
今までの短い旅を思い返す。ちらほら土属性のようなことをしてくる輩はいたが一番印象に残ってるのは間違いなくあの最初の敵だろう。
「ああ…砂漠の番人みたいになってた…」
一番最初に出会った敵のゴーレム。今となってはちょっと懐かしい気もする。砂を集めて再生してきたりして頑張って追い込んで切ったけど硬くて核を壊さないと再生してくるのは怖かったな。というかマジで死ぬんじゃないかとビビってた。態度に出さないようにカッコつけれたかな…
「『土』が司るのは大地・物質。象徴することは持続と固定」
「最も物質に近く魔法における単純な影響力が最大の属性よ」
物質に近い属性か。確かに物質的なイメージだ、それ以外イメージできる感じはあんまない。というか『土』はそういう感じのに干渉する感じなのかとも思ってたけど…
「影響力…?」
そう聴くとサーシャは少し考えてわかりやすいように説明をしようとして
「ええ、『そうであろうとする力』が強いのよ」
「魔法で物を飛ばしたとしても物を上に投げたら落ちてこようとするような……そういう働きかける力が大きいの」
「…なるほど…それは…」
思っていたよりも強力そうな属性だ。ゴーレムのように岩を飛ばしてくるようなタイプばかりじゃないって意識して、初見殺しされないように気を付けなければ…
「砂漠のゴーレムは術式を持続し、私の魔力を固定されていたの」
「そういうことが得意な属性で直接的な破壊力は『火』の次に高くて…一番厄介な属性だと私は思うわ」
勝手な偏見だけど「四天王最弱」ポジションの属性な印象だったけどマジで怖いな。とりあえず高いステータスで状態異常もぶち込んでくると思っておこう。
「………それに私を封印していたのも土魔法使いだし」
・水属性
「…次は『水』ね」
「私の使っている魔法よ」
ついにサーシャの使っている魔法か。俺を癒した魔法だとか旅の間にも色々とお世話になった魔法だ。
「……『水』が司るのは水と生命。象徴することは流動と包摂」
「土に次いで物質的で風より重く流動する属性ね」
生命か…母なる海とか言うし人体の水分量とか考えるとそういう感じなのか。水は下へと流れるもので受け入れる…包摂するっていうのは水に溶かされるっていうことか?
「…そういう性質に関してはあまり気にしなくてもいいわよ」
ううん…どういうことだ?と俺は唸っていたのかそれを見たサーシャが止める。
「いや、折角サーシャの属性だし知っておきたいなって思ってな」
俺がそういうとサーシャはほんの少し嬉しそうな呆れたような表情になる。
「……まあ水の確保とかそういう面で見ると良い属性ではあるけど…戦いにおいては他の属性が使えるのであれば別に伸ばす必要はないわ」
『水』で他の属性と同じ結果は出せなくはないらしいが複雑で手間のかかる術式を組むより他の属性で簡単な術式を使った方がいいらしい。
「他の属性と比べて突出した利点が少ない属性なの」
「……ん、そっか」
俺はサーシャの魔法を覚えたいという気持ちもあるがサーシャが言うことも正しいし一緒に居るのだからサーシャじゃ出来ないことを俺は成さなきゃならない。残念ではあるけど水属性に関してはどういう魔法が存在するのかなどを抑えるぐらいにしておこう。
(俺はサーシャを守るために戦わなきゃならない…まあちょっとお揃いの魔法っていうのにちょっと惹かれてたけど)
(……私のために戦ってくれる契約は結ばれている…でももし私に出来るただ一つは水魔法なのに…それが全て出来るようになったら私は…)
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・禁忌術式
魔法の授業のようなモノを結構聴いて時間もだいぶ過ぎた。属性に対する理解、術式を組む時のテンプレートや方向性や特質の付与などの方法。色々とざっくりと聴いて頭に入れた。サーシャのくれた補助輪が俺の中にあるうちに即興で使えるようにして行けるように頭の中で思考錯誤を繰り返す。そんなことをしている中でお互いが話すことややることが途切れた瞬間ができた。
「……もしよければ…魔法の授業のついでに旅の目的の『禁忌術式』について聴いてもいいか?」
そこで俺は思わず質問をしてしまった。サーシャの旅の目的だし気にはなってはいた。魔法についての話からなら尋ねてもおかしくはないだろう。…顔色を伺いすぎだと自分でも思うが魔法に関しては何の話題が地雷か把握しきれていないからある程度は慎重であるべきだろう。
それでもここで踏み込まないと今後聴く機会もなくなるかもしれないし、自分の中で俺はサーシャの事情より、そのための行動よりただ自分の感情を優先して相手の心を蔑ろしてしまいかねないと頭に僅かによぎった瞬間には動いていた。
俺が尋ねてしまったからかサーシャはしばらく考え込んでいた。ソレを俺はじっと待つ。すでに選択した以上俺に出来ることは待つだけだ。
「………そうね…カズキは私に対してずっと誠実であろうとしているし…」
「……なら…私は説明をしなきゃいけない」
「禁忌術式……魔法使い自らの手で魔法使いをも滅ぼしうると証明してしまった術式のことよ」
そうしてサーシャはゆっくりと語り始める。とりあえず俺は口を挟まずに黙って聴くことにした。
「…私は奴隷として…とある戦いに送り込まれたの」
「うん…傷を癒して水を用意する道具のような物としてだったかな」
そこで私は戦いを見たのだと。
決して癒えぬ傷を見たのだと。
残された死体すらも焼き尽くす炎をみたのだと。
風に乗って疫病が戦場を飛ぶのをみたのだと。
生きたまま土へ呑み込まれる者を見たのだと。
そして─私の水は命を繋ぎ止めることなどありはせず、ただ無感情にソレを眺め続けていた。とサーシャは俺へ語る。その言葉の重さに俺は何も口を挟めない。
「………そこで私は罪を犯したの」
目を瞑り、後悔しているのだと粛々と己こそが罪人であるのだと告げる。
「私は……あの時の私は死んでいく命を勿体ないと…」
「『水』の魔力を使って命を溶かしてまとめて…魔力に変えてソレを使おうとして…」
なるほどやっぱりあの時に見た夢はそういうことなのだろう。謎だったあらゆる属性の魔力を俺という器へどう持って来ていたのかよくわかった。戦場においての判断に戦いを知らない俺は何も口を挟めるはずもなくある程度想像できる範疇で助かった。
「そして私は術式からのフィードバックを受けて…流れ込む感情のまま魔法を振るったの…」
「頭の中の冷静な私は…私の術式で多くの人々が“赤い水”のように変わって行って行くのを見て」
「……なんで人が死んでいるんだって思った」
「あの術式の術式維持のために必要な魔力の自己補完…魔力を持った生命に対する侵食し変換して…成長する」
「そしてどうしてと思っている間に“水”はあの戦場に居た人たち全てを呑み込んで溶かして“炉”へと変えてしまって…私の感情の受け皿からは零れ落ちてどうしようもなくなっていったの」
俺はその話を聞いて何も言えなかった。もしかしたら被害者から罵倒されたりするようなことがあったらこの少女は救いを感じることがあるのかもしれない。命を脅かされた訳でもなく…俺はサーシャに救われたのだ。だからこそこれに関しては俺は何も出来ない。
「そして私と一緒の時期に封印されて止められているうちに…責任を持って壊さなきゃならない」
だから俺のするべきことは彼女が救われるために彼女の行動を手伝って…彼女は幸せになってもいいのだと示していかなくてはいけない。
「もし暴走したら私じゃ止められない」
「もし…封印が破壊されて…赤い雨が降ることになったり…海へ流れて辿り着いたらもう止めれることは出来ないかもしれない」
「だけど…私は…」
悲壮な覚悟を決めて語る少女を見て俺はようやくやりたい事をどのように行うのかを定めた。
「……色々と教えてくれてありがとう」
「俺は…驚いたこともあるし納得したこともある…話してくれて嬉しいかったよ」
気合いを入れている俺を見て驚いているサーシャを見て思わずくすりと笑う。
「…っ…」
俺は自分を責めているサーシャを見て。
「この世界に居る俺にも関わりがあって、自分のためにも戦う必要があるって先に知れたってのは良いことだしな」
「だから…誰かの為に、自分のために俺たちでやれるだけやろう」
どうしようもなく詭弁だろう。一部本心は有る。サーシャに思い出したくもないモノを思い出させてしまった罪悪感もある。これでサーシャにかかる重荷を少しでも背負えるだろうか。
(誰かを救い続けないときっと彼女は救いを感じることなんてないのかも)
(だから俺はサーシャのために…他者を守り戦わないといけない)
「…ええ…そうね。私たちできっと成すべきことを成しましょう」
そう言ってサーシャは納得したのか雰囲気も落ち着いてきた。
そしてさっきの授業より内容が難しく一緒に頑張ろうと告げたからかスパルタ詰め込み教育になって行ったのはまた別の話。
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2.ガールミーツボーイ
私は暗闇の中で一人だ。剣で壁のような場所に縫い付けられて鎖によって術式を妨害されて封印されている。こんな場所に居るからか封印の中で時間の流れが歪んでいるからかもう私は何年ここにいるかすらわからない。
禁忌術式によって流れ込んでいた感情もあの『土魔法使い』によって封印されたからか小康状態だ。とはいえ流れ込む憎悪、恐怖、悲嘆それらの感情はまだ流れ込んでいる。その感情と身体を貫く冷たい剣によって血が流れ続ける痛みによって私の身も心も縫い付けられている。どこかへそのまま消えてしまいたいと思う私の意識はここに繋ぎ止められている。
禁忌術式より来たる魔力によって生きながらえている私はこのまま此処で消え果てるのも己の悪因悪果というものだ。もはや血が流れ続けても死することのないように成り果てた私はその日が来るまでにここで眠り続けなくてはならないのだろう。私が救われていい理由などあるはずがないのだから。
そんな不毛でどうしようもない自問自答の繰り返しは突然終わりを告げた。
これは幻聴だろうか扉の開く音がする。血の匂いがする。どんな怪物がやってきたのか、ついに私は殺されてしまうのだろうかと思い心の中で自嘲し安堵を覚える。そんな中でも私は眠りから覚めることは出来ないししない。
そして暖かい手が私に延ばされた触れた。
彼が私に触れただけで封印のための鎖は砕け、溢れんばかりの魔力によって肉体は修復されソレにより剣が抜け落ちた。
私はその手がどうしても優しいモノのように思えて気がついたら目を覚まし彼に問うていた。
「あなたは誰?」
私の声は擦れてはいないだろうか、きちんと話せているのだろうか。少しずつ熱が奪われていっていく身体に抱えられる。人肌に触れ安らぎを覚えてしまうが私はその温度が消えていくのを感じる。血を流しすぎて最早焦点が合っていないのかもしれないでも私と彼の目は合った。
私を何か綺麗なモノを見たような、哀れなモノを見るような慈しみが混ざった視線。
私はそんなものではない。
「ああ…あなたの命は消えてしまいそうなのね」
私は『水』の魔法使い。治癒を命を救う術を仕込まれてもいたからどのような有り様なのか見てわかる。きっとこの少年はすぐに死んでしまうのだろう。……私が助けなくてはの話だけど。
「そんな有様なのに私を解放した…馬鹿な人」
本当に馬鹿な人だ。こんな場所に入り込んで、私のような得体の知れない筈のモノを解放して挙句の果てに命を落とそうとしている。……そんな状態なのに、それを分かっているはずだろうに私をそんな目で見てくるなんて…どうしてなんだろうか?
「私はあなたを助けることができるわ」
「……でもそれは今ここで命をなくすことより辛い道を歩むことになるかもしれない」
…私には目の前で倒れている彼を助ける手段はある。道具も準備もない今救うために出来ることそれは…私を経由して禁忌術式を彼につなげてしまえば良い。
私が封印され緩やかに禁忌術式を消しさることを選ぶのなら目の前の命を見捨てなくてはならない。
もし彼を私が助けることを選ぶのなら…私が自らの手で禁忌術式への責任を取らなくてはならない。
「それでも私を解放したあなたに問わなくてはならない」
「これは契約」
「新しい命をあなたにあげる。だから…私のために戦って…私のために血を流して」
でも私が彼を救うことを選ぶのであれば私はしばらく魔力の大半を使えなくなるだろう。そんな中で旅をして目的を果たすことは出来やしまい。
だから私の目的を果たすのならきっと彼に戦って貰わなくてはならない。私が彼を助けるのであれば彼を死へ向かわせる必要がある。
「私のために死んで欲しい」
なんて矛盾だ。こんなことを言い放つ私なんて碌な女ではないのだろう。
そんなことを言った私の手を彼は躊躇いなく掴む。
「そっか」
私はこの力も碌に入っていない血に汚れた私と繋がれた手をじっと見る。
「ありがとう…ごめんね」
何だか私は仄暗い喜びを得てしまって…これで私は一人でないのだと。
「これで契約は結ばれたわ」
「私はサーシャ、水の魔法使い、禁忌術式にて災厄を齎した者」
そして私は契約を介して禁忌術式の影響を与えるために口付けをする。これが彼の初めてだったら色気のない状況と相手だから申し訳ない気もする。そうして私は魔法を掛けていく。こ
初めての口付けはどんなものかなんて分からなかった。
「起きたらあなたの名前を聞かせてね?」
今度は私の腕の中で眠りについた彼を抱える。
そして膝を枕のようにして私は体が作り替えられている痛みが少しでも癒やされるように魔法をかけ頭を撫でるように手を添える。そして私は彼を生かすと決め…旅の果てに為すことを己に定めたのだった。
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