| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

無限の成層圏 虹になった男

作者:syunin
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五話


 「アズナブル君、織斑君おはよう。そういえばさ、転校生の話聞いた?」

 翌日、私が一夏と談笑しているとクラスメイトの子から話しかけられた。

 「そういえば、転校生が来たとか騒いでいたな」

 「転校生?この四月に?」

 「大方、私達男性IS起動者の話を聞いて慌ててねじ込んだのではないか」

 「ああ、成程」

 しかし、IS学園に入学、となるだけでもそれなり以上のハードルがある。転入となればそのハードルはさらに高まるだろう。その中で入ってくるとなると、中々の逸材かもしれんな。

 「なんでも、中国の代表候補生なんだってさ」

 「ふーん」

 中国の代表候補生、少し調べてみるか。
 そんなことを考えていると、後ろから声がする。

 「今更、中国から代表候補生が、ですわね。……まったく、人気者は辛くなりますわね、シャアさんに一夏さん」

 「まあでも、このクラスに転入してくるわけでもあるまいし、そう気にする事でもないだろう」

 セシリアと箒____本人から姉の篠ノ之束と間違えるから下の名前で呼んで欲しいと言われた____が会話に参加して来た。

 「でも、どんな奴なんだろうな」

 「気になるのか、一夏君」

 「ああ、やっぱセシリアみたいに強いのかなって」

 一夏がそう言うと、セシリアはまんざらでもなさそうな顔で言う。

 「あら、そこまで評価してくださるのですわね」

 「だって、そうだろう?結局俺は、まだまだセシリアと正面からやっても勝てないだろうし」

 「それはそうですわ。まだIS乗りたての初心者に負けるほど、無様は見せられませんわ。……まあ、例外はいますけど」

 「だよなぁ」

 「確かに、私から見てもアズナブルの動きはおかしかった」

 「……そんな目で見つめないでくれ。私だって真面目にやっているだけだ」

 三人からの少し痛い目線に、私は思わずたじろいでしまった。若い子からその目で見られるのは正直堪える。

 「まあ、やれるだけやってみるしかないよな、俺も」

 「そう弱気ではいけませんわよ。もっと堂々としてもらわないと」

 「そうだぞ一夏。男たるものもっと覇気を見せろ」

 一夏の言葉に、それぞれが口に出す。まあ確かに、一夏にはもう少しガッツを見せて欲しい所だ。
 クラスメイトの皆も、集まって声を上げる。

 「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せだよ!」

 「織斑君が一位になれば、学食のデザートのフリーパスだからね。頑張ってよ!」

 「今の所専用機を持っているクラス代表何て、一組と四組だけだから余裕だよ」

 「おう」

 クラスメイトの声に一夏が応えると、教室の入り口から声が聞こえる。

 「その情報、古いよ」

 声の方向に目を向ける際にちらっと一夏の顔が見えたが、とても驚いた様子だった。

 「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 そのまま声の方向に目を向けると、教室の入り口で腕を組み、片膝を立ててドアにもたれこんでいるツインテールの小柄な少女。

 「(りん)……?もしかして、鈴か?」

 「そうよ、久し振り!中国代表候補生、(ファン)鈴音(リンイン)が宣戦布告に来たってわけ」

 一夏の言葉に、鳳がそう返した。どうやら一夏の知己らしい。

 「何かっこつけてんだ。すげぇ似合わねぇぞ」

 「んなっ……何てこというのよ、あんたは!」

 その会話からは、気の置けない仲であったことが伺える。
 しかし、中国の代表候補生といつ知り合ったというのだろうか。

 「おい」

 「なによ!?」

 鳳の聞き返す言葉に帰って来たのは、出席簿による痛烈な打撃であった。
 
 「もうSHR(ショートホームルーム)の時間だ。教室に戻れ」

 「ち、千冬さん……」

 「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 「す、すみません……」

 一夏君と深い仲なら、織斑先生とも知り合いか。しかし、苦手意識を持っている様だな。

 「また後で来るからね、逃げないでよ一夏!」

 「さっさと戻れ」

 「は、はいっ!」

 鳳はそれだけ言うと、二組へ向かって走り出した。とても個性的な子の様だ。

 「っていうかあいつ、IS操縦者だったのか。初めて知ったな」

 どうやら一夏は鳳の事を今初めて知ったようだ。しばらくは離れていたのだろうか。

 「……一夏、今のは知り合いか?偉く親しい様だったが」

 「織斑君中国の代表候補生と知り合いだったの!?」

 「ねえねえ、どんな関係!?」

 箒やクラスメイトが一夏に詰め寄る中、私とセシリアはすっとその場を離れ、自分の席へ向かった。この後起こることが想像できたからだ。
 バシン!と複数回にわたって奏でられる出席簿の音。音源は勿論織斑先生だ。

 「席に着け、馬鹿ども」

 まあ気持ちは解らなくはないが、あまり体罰に頼るのもどうだろうか。そんなことを考えながら、私はSHRに備えた。










 昼休み、私達は凡そ何時もの面子といっても差し支えない、一夏、セシリア、箒と四人で学食へ向かった。
 途中、一夏が箒に詰め寄られていたが、いったい何を考えていたのだろうか。
 そんな事を考えながら食券を買おうとしていると、目の前に影。

 「待っていたわよ、一夏!」

 鳳が立ちふさがっていた。どうやら一夏を待っていたらしい。
 その手には、ラーメンが載せられたお盆を手にしている。もしかして、一夏が来るまでずっとそうして待っていたのだろうか。

 「おう、とりあえずどいてくれ。普通に邪魔だ」

 「う、うるさいわね。わかっているわよ」

 ここで漸く、私は目の前の少女の意図に気が付いた。……成程、箒もそう(・・)かと思っていたが、鳳もそう(・・)なのか。
 まったく、一夏も罪作りな男だ。

 「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか、元気にしてたか?」

 「げ、元気していたわよ。あんたこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 「どういう希望だよ」

 一夏君が困惑する。鳳は緊張のあまり、要領を得ない受け答えをしているように見える。
 下世話だが、正直面白く感じて来た。
 結局、そのまま鳳も同席しての食事という事になった。箒の機嫌がどんどん悪くなるのが見て取れる。

 「それで、その、鳳とはどういう関係なんだ」

 箒がやや荒い口調で問いかける。もはや焦りが隠しきれていない。

 「えっ、いや、只の幼馴染だけど」

 一夏が何でもないように言った。中国人と幼馴染か、どういうことなのだろうか。

 「箒が転校したのって、小四の時だろ?鈴が転校してきたのが、小五の時。んで、中二の時に国に帰ってったから、丁度一年ぶりくらいなんだよな」

 成程。そうなると、鳳は約一年でIS搭乗者として頭角を現し、代表候補生として専用機を与えられたというわけだ。素晴らしい才を持っていると見た。

 「で、鈴。こっちが前にも言ってた、篠ノ之箒。小四までの同級生で、俺が通ってた剣術道場の娘」

 「ふうん、そうなんだ」

 鳳が箒をじっくりと見る。箒も負けじと見つめている。いったい何の勝負をしているのだ。

 「初めまして、これからよろしくね」

 「ああ、こちらこそ」

 そう言って挨拶を交わす二人の間には、解りやすいほどの敵愾心が感じ取れた。思春期の少女らしい、いい感情だ。こういった物を見ていると、やはり私は異物なんだなと感じてしまう。

 「ところで、そっちの二人は?」

 鳳がそう言った。

 「わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

 「私はシャア・アズナブル。イギリス所属の、男性IS起動者だ」

 「ふーん。あんたとは(・・・・・)仲良くできそうね」

 「お気になさらず、どうぞお好きに」

 鳳の言葉にセシリアが返した。どうやらセシリアも気づいているらしい。

 「で、そっちが噂の二人目ね。結構カッコいいじゃない」

 「お褒めに預かり光栄だ」

 鳳がまるで一夏を牽制する様に言った。正直、一夏には逆効果だと思うが。

 「なんだ、鈴ってシャアみたいのが好みだったのか」

 「うっさい!この朴念仁!」

 実際、一夏は意にも介さず答え、鳳を怒らせている。まあ確かに、一夏はそういうもの(・・・・・・)に疎い気質がある。朴念仁と言うのも、彼女の言う通りかもしれない。
 少し口論を続けた所で、鳳が口を開く。

 「まったく。……所で一夏、あんたIS乗ってまだ日が浅いんでしょ」

 「まあ、そうだけど」

 「そんで、クラス代表?」

 「まあ、成り行きでな」

 「ふーん。じゃ、じゃあさ、ISの操縦、見てあげてもいいけど」

 「別にいいかな」

 一夏の言葉に、唖然とする鳳。目論見が外れたと見た。

 「な、なんでよ!?」

 「いや、別にシャアとセシリアに見てもらっているからなあ」

 「イギリスの代表候補生はともかく、なんで男に教わってるわけ!?」

 「そりゃあ、シャアの操縦がとんでもないからだけど……」

 一夏の言葉に、ギロリと鳳が私を睨む。こういうのは蚊帳の外だから楽しいのであって、突然矢面に立たされると困る。

 「あんた、一夏に何教えてるってわけ」

 「教えるというより、共同研究だな。皆で効率的なマニューバ、武器運用を試している勉強会のようなものだ」

 私は素直にそう答えた。まあ、現状は私が一夏とセシリアの二人に教導していることの方が多いが。

 「じゃあ、そこに参加しても別に構わないわよね」

 「それは、別に構わないが……」

 「いや、ちょっと待ってくれ」

 当然のように参加を表明する鳳に、私は了承を伝えたが、ここで思わぬところから否が入った。

 「折角なら、俺は手の内を知らない状態で鈴と戦ってみたい。そこでどこまでやれるか見てみたいんだ」

 「んなっ……」

 一夏がそう答えると、鳳は思ってもみなかった反応にたじろぐ。

 「ふーん。……いいじゃない、代表戦で泣き見ても知らないわよ」

 「おう、望むところだ」

 そう言って、鳳は去っていった。さて、と。

 「そこまで言ってくれたのであれば、情けないようなところは見せないでくださいまし。わたくし達に泥を塗らないでもらいたいものですわね」

 「そうだな。余りにもみっともない負け方をするようであれば、我々の面子は丸つぶれだ」

 「おっと、予想外の所でプレッシャーが」

 セシリアと私の言葉に一夏が苦笑する。だが、言葉だけ勇ましいじゃこちらとしても困る。

 「これはみっちりしごかなくてはいけませんね、シャアさん」

 「これからしばらくは一夏君のクラス代表戦に向けての準備としようか」

 「お、お手柔らかに……」

 「それは一夏君次第だ」

 そういう事だ。精々無様な姿は見せないでくれよ、一夏。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧