亡き王女へ
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第二章
「それで今からだよ」
「聴くんだね」
「しかも」
青年はここでだった、友人にベラスケスの絵をネットで出して見せた。あのマルガリータ王女の肖像画だ。
「この絵を観つつだよ」
「聴くんだね」
「曲のヒントになったね」
「凝ってるね」
「凝るよ、クラシックは凝ってこそだし」
聴くことについてというのだ。
「そして凝るならね」
「ヒントになった絵もあればいい」
「だからだよ」
それでというのだ。
「絵も観よう」
「マルガリータ王女の絵をだね」
「そうしよう」
こう友人に言って共にネットで検索して出したその絵を観つつ共に曲を聴いた、それが終わってから彼に言った。
「当時は色々言われてラヴェル自身もどうかと言っても」
「それでもだね」
「いい曲だよ」
自分の評価を素直に述べた。
「心から思うよ」
「そうだね」
「そしてラヴェル自身も」
否定的な評価を出した作曲者自身もというのだ。
「後で参ってしまって」
「ああ、失語症になったそうだね」
「重度のね、けれどその時に」
精神的に参っていた時にというのだ。
「聴いていい曲だと感じたそうだし」
「参っている時に聴くといい曲は本当にいい曲だろうね」
「そう、だからね」
「この曲は名曲と言っていいね」
「実際には亡くなった王女さんへの曲ではなくてね」
そのタイトルとは違うというのだ。
「風習や情緒へのノスタルジーでね」
「鎮魂でも哀歌でもないね」
「そう、けれど死んだものというかなくなったものへの想いがあって」
ノスタルジーをこう表現した。
「名曲であることは事実だよ」
「聴いて実際に思ったね」
「そして聴いた自分がそう思ったなら」
名曲だと、というのだ。
「紛れもなくだよ」
「批評家や専門家の意見よりもだね」
「自分がどう思うかだよ、ラヴェルは凄い作曲家だよ」
今度はラヴェル自身の画像をネットに出して話した、画像での彼は微笑んでいた。それはまるでとても奇麗な曲を聴いたかの様であった。
亡き王女へ 完
2024・6・12
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