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亡き王女へ

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第一章

                亡き王女へ
 モーリス=ラヴェルは今ある曲を完成させた、小柄で人懐っこい感じの表情であるが服装は隋便お洒落であり髪の毛も奇麗に後ろに撫で付けている。
 その完成させた楽譜を手にだ、彼は音楽出版社の社員に話した。
「これは誰かに捧げたものじゃなくて」
「このパヴァーヌはですね」
「ベラスケスの絵をイメージしたんだ」
「スペインの宮廷画家だった」
「そう、彼が描いた肖像画であるね」
 こう編集者に話した。
「マルガリータ王女への」
「あの有名な絵ですね」
「あのマルガリータ王女が踊っている様な」
 そうしたというのだ。
「そんな曲にしたんだ」
「イメージですか」
「死んだと題名を付けたけれど」
「亡きですね」
「王女のことでなく」
「スペインの風習や情緒をね」
 そうしたものをというのだ。
「懐かしんだんだ」
「ノスタルジィですか」
「それだよ」 
 ラヴェルは微笑んで話した。
「それを表現した曲だよ」
「そうですか」
「うん、この曲が皆に愛されることを望むよ」
 笑顔で言ってだった。
 ラヴェルは楽譜を音楽出版社の社員に渡した、そして発表してもらったがこの曲は好評であった。しかし。
 彼の周りの音楽家達はあまり喜ばなかった、曲を捧げられた彼のパトロンのポリニャック公爵夫人の周りの音楽通達もだ。
 あまり評価しなかった、だが多くの者が愛していてだった。
 ラヴェルは知人にだ、こんなことを言った。
「多くの人が愛してくれているけれど」
「専門家からはですね」
「どうもね」
「評判が悪いですね」
「それで僕自身ね」
 ラヴェルはこう言った。
「貧弱な形式で大胆さに欠けるとね」
「思われていますか」
「どうもね、いいと思ったんだけれど」
「どうもですか」
「今はそう思うよ」
 こう言って暫くその曲を自分から聴くことをしなくなった、だが。
 多くの人がこの曲を愛した、そして二十一世紀にだ。
 あるクラシック愛好家の青年が友人を家に呼んで言った。
「今日はラヴェルを聴こう」
「ボレロかい?」
「いや、亡き王女の為のパヴァーヌだよ」
 この曲だというのだ。
「それを聴こう」
「ああ、あの曲だね」
「当時音楽家からの評判はよくなくて」 
 そうであってというのだ。
「そしてラヴェル自身もだよ」
「いいとは言わなくなったね」
「しかし」
 それでもというのだった。
「専門家の言葉はいいんだ」
「無視するのね」
「大事なのは何か」
「自分がどう思うかだね」
「その曲を聴いてね」
 自分の耳でというのだ。
「そうであるからね」
「それでだね」
「そうだよ」
 まさにというのだ。 
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