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英雄伝説~西風の絶剣~

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第100話 エマの覚悟

 
前書き
 今回エマが使った人獣一体はブリーチの夜一の『瞬霳黒猫戦姫』をイメージしています。流石にあれほど全裸に近くはないですが…… 

 
side:リィン


「はぁっ!」


 俺が振るう太刀が銀に向かって振り下ろされる。


「ふっ!」


 だが銀はそれを大剣で防ぎ籠手に付けられた鋭い爪先で目を突いてきた。


 俺はそれを顔を逸らしてかわすが頬に傷が走った、追撃で蹴りを放とうとした銀だが俺の背後から飛んできた光の剣に阻まれる。


「リィンさん!」
「ああ!」


 エマのサポートによって生まれた隙を逃さず時雨を放つ俺、だが地面から大きな氷塊が出てきてそれを遮った。


「さあ、凍り付きなさい」


 ヴィータが杖を振るうといくつもの氷塊が地面から生えて俺に向かってきた、直ぐにバックステップして回避するがしつこく追いかけてくる。


「しつこいな!」
「無駄よ、そんな事では逃げられない」


 ジャンプして逃れようとしたが伸びた氷塊の一部が俺の足に振れる、すると全身に氷がまとわりつき一瞬で氷漬けになってしまった。


「ふふっ……あら?」


 勝利を確信してほほ笑むヴィータ、だが直に違和感に気が付いたのだろう。


 凍った俺が身代わりマペットに変化する、しかもピンを抜いた手榴弾つきだ。エマが蒼い炎を放ち手榴弾を爆発させる。


 爆風を浴びて後ろに下がるヴィータ、だが氷で全身をガードしていたので火傷や破片での傷は負っていない。


「俺の身代わりの術を真似したのか?一度見ただけで……器用な奴だ」


 銀はそう言いながら懐から手裏剣を複数取り出して何もない空間に投げつける、そこに俺が姿を現して手裏剣を斬り飛ばした。


「これでも真似するのは得意でね、憧れのニンジャみたいな技で気に入ったよ」
「俺はニンジャじゃない」


 銀は爪のついた鎖をこちらに投げつけてくる、俺はそれをかわして懐に潜り込もうとするが銀はジャンプして回避した。


「逃がしません!アステルフレア!」


 エマが蒼い炎を放つ、人間は空中で動くことはできないから普通は当たるはずだ。


「甘いわよ」


 だがヴィータが一瞬で氷の柱を複数生み出して銀はそれを蹴って方向を変えて炎を回避した。


「厄介なコンビだな、互いの補佐が巧みだ」


 銀の強みは豊富な暗器に人間離れした身のこなし、どちらかといえば銀はフィーのような障害物の多い場所での戦闘で力を発揮するタイプだ。


 ヴィータの魔法は驚異的な速さで氷を生み出す、奴の得意な障害物のあるフィールドに変えられてしまう。


 じゃあ今度はヴィータを狙うと銀が死角から攻撃を放ってくるから攻め込めない。


「ごめんなさい、リィンさん。私は姉さまのような魔法は使えなくて……」
「いや謝る必要なんてないさ、エマのサポートが無ければもっと苦戦していただろうからな」


 エマは自分の不甲斐なさを謝罪するがそれは俺も同じことだ、そもそも彼女のサポートには助けられている。


 悪いのは弱い俺だ。


「しかし予想以上に粘るな、流石は猟兵王の息子と言うだけはある」
「誉めてくれてありがとう」
「……エマ、最後の情けよ。その子の事は忘れて里に帰りなさい」
「姉さん、しつこいですよ。私はもう既にリィンさんと一生を共にする覚悟です」
「えっ?」
「そう……そこまでの覚悟なのね。私も惚れた男がいるわ、気持ちは理解できる。ならばもう遠慮はしない」
「えっ……いやえっ?」


 エマの一生という言葉に流石に驚く俺、だが二人は俺の反応を無視して話を進めていく。


「銀、アレをやるわよ」
「いいのか?お前の妹も死ぬかもしれんぞ?」
「エマに対しては多少は手加減してくれるのでしょう?それにここまで聞き分けのない子だとは思わなかった、躾に一番効果的なのは痛みでしょ?」
「スパルタな姉だ」


 ヴィータは杖を振るうと俺達を取り囲むように四角形の薄い氷が現れた。


「なんだ、これは……エマ、何が来るか分かるか?」
「いえ、分かりません……でもこの氷から魔力を感じます」


 俺はヴィータをよく知ってるエマに確認を取るが彼女も知らないらしい、分かったことはあの氷全てに魔力を感じるということ。


「ふっ!」


 すると銀がその氷の一部に飛び込んだ、しかしまるで溶け込むように氷の中に吸い込まれていく。


「こ、これは……!」
「銀が複数人!?」


 俺達を取り囲む氷、その全てに銀の姿が写っていた。


「秘術『魔鏡氷晶』……貴方達はこの氷の牢獄から逃れられない」
「こんなもの俺の炎で溶かせばいいだけだ。焔ノ太刀!」


 太刀に炎を纏わせて氷に斬りかかる、しかし別の角度に合った氷から銀が高速で飛び出して斬りかかってきた。


「ぐっ!」


 咄嗟に太刀で攻撃をいなした俺は直に反撃しようと銀が飛んだ先に視線を向ける、だがそこには銀はもういなかった。


「がっ!?」


 そして次の瞬間には背中を斬り付けられて痛みが走った。いつの間にか銀が背後に回り込んでいたんだ。


「リィンさん!今……きゃあっ!?」
「エマ!」


 光の剣を放とうとしたエマの右手に切傷が走った、まさかもう反撃に出たのか!?早すぎるぞ……!


「この魔鏡氷晶は氷の中を自在にワープして光速に動くことが出来る、貴方達では銀を捕える事は出来ない」
「恨みはない、だが仕事である以上死んでもらう」


 銀はそう言うと再び氷から飛び出して攻撃をしてきた、俺はエマを庇いながら胴を浅く斬られる。


(真っ直ぐ切り込んで斬るなら残月でカウンターをすればいい!)


 俺は残月の構えを取り相手の出方を伺う、そして銀の気配を探り……今だ!


「残月!……えっ?」


 俺が振りぬいた太刀は確かに何かを斬った、しかしそれは1枚の氷だった。


「遅い」
「がっ!?」


 再び背中を斬り付けられる、ダミーか……!?


「カウンターをしてくるのは予測できていたわ、でも私がフォローすればいいだけ」
「流石にそう簡単には行かないか……ぐっ!」
「きゃあっ!」


 俺とエマは銀の攻撃を受け続け傷を増やしていく、エマは手加減されているようだが腕や足に切り傷が増えていき血を流す。


「ぐっ……好き勝手斬りやがって……エマ、大丈夫か?」
「はい、痛いですけどこのくらいで泣き言は言いません……!」


 エマの目から闘志は消えていない、彼女の覚悟は俺も聞いた、いらないお節介だったな。


「リィンさん、少しだけ銀を抑えられますか?この窮地を脱する策があるんです……!」
「本当か?……分かった、エマを信じる」
「なにをコソコソと……これで終わりだ」


 銀が背後から斬りかかってきた、俺は鬼の力を解放して奴の攻撃を受け流す。


「情報にあった異能の力か……」


 銀は再び氷に入って死角から飛び出して斬りかかる銀、だが俺は驚異的に上がった反射神経と体捌きで光速の攻撃をいなした。


「予想以上に能力が上昇するようだな、厄介だ」
「でも時間制限がある、直ぐにガス欠を起こすわ」
「なら攻め続ければいいだけの事」


 銀は慌てずに冷静に攻撃を続けてくる、動揺して隙をさらすのを少し期待したがそうはいかないか……


「セリーヌ、『人獣一体(じんじゅういったい)』を使うわ」
「はぁ!?あれはまだ未完成でしょ!アンタへの負担が大きすぎるし最悪暴走したらどうする気よ!?」
「でもこのままじゃ姉さんの思うつぼだわ、貴方だって姉さんにぎゃふんと言わせてあげたくない?」
「そりゃしたいけど……ああもう!分かったわよ!私もあいつにはムカついていたし一発ひっぱたいてやりなさい!」
「ありがとう……いくわよ、セリーヌ!」


 エマとセリーヌは小声で何かを話していたがどうやら話がまとまったようで二人は魔法陣を生み出してその中心に立った。


「あれはまさか……銀!エマを止めなさい!」
「言われなくとも」


 ヴィータは何か焦った様子で止めろと指示をする、それに合わせて銀も動いた。


「させない!」
「むっ!」


 だが俺がそこに割り込んで銀を弾き飛ばした、直に氷の中に入り込んで別の氷から飛び出し奇襲を仕掛けるが全て防いだ。


「エマの邪魔はさせない!」


 来る場所が分かれば今の俺なら割り込める。


「いくわよ、セリーヌ!人獣……」
「一体!」


 魔法陣が輝きエマとセリーヌを包み込んだ。そして光が晴れると……


「ぶっ!?」


 セリーヌの姿が消えてエマの姿が変化していた、足や手が猫のようになり猫耳や尻尾も生えた。


 だが一番問題なのはほとんど全裸みたいになってしまった事だ。


 胸や下半身は紫色のモフモフした毛で下着みたいに覆われているがそれ以外は肌が見えてしまっている。


 俺は思わず鼻血を出してしまった。


『コラ!戦いの最中に何考えてんのよ!』
「セリーヌ?何処にいるんだ?」


 急にセリーヌの声が聞こえたので辺りを見渡すが何処にも姿は見えない。


『探してもいないわよ、私は今エマと一つの存在になってるんだから』
「一つの存在に……?」
「魔女と使い魔が合体することで能力を大幅に増幅させる魔女の切り札の一つ……それが『人獣一体』です。この力はリィンさんの鬼の力と同じで長くは持ちません、短期決戦で行きますよ!」
「……分かった!」


 俺はエマの隣に並び立ち闘気を滾らせた。


「まさか人獣一体を会得していたとは思わなかったわ、成長したじゃない、エマ。でもまだ不完全の様ね」


 ヴィータが杖に魔力を込めると浮かんでいた全ての氷が淡い光を放ち始めた。


「なら圧倒的な数の暴力で沈めてあげるわ……!」


 ぐっ、なにか凄い技を出してきそうだ……!


「リィンさん、今の私ならあのコンビクラフトを使えるはずです!私の合図と共に剣を振るってください!」
「エマ……分かった、合図は任せるぞ!」


 エマは全身から蒼い炎を放ち四足歩行のような構えを取る、俺も太刀に炎を纏い構えた。


「秘儀『魔鏡氷千晶(まきょうひょうせんしょう)』!!」


 すると全ての鏡から銀が飛び出してきた、残像や分け身とは違う感じがする。


「私の魔法で一時的に銀を物理的に増やしたのよ、全て本物と同じ力を持ったいわば分身、それを対処できるかしら?」


 ヴィータの説明に俺は納得した、通りですべての銀が本物に感じたわけだ。


「終わりだ」


 そして銀たちは一斉に剣を振るってくる。


「……今です!」


 エマの合図とともに俺は大きく跳躍する、そしてエマは全身から炎を噴き上げて円を描く。


 俺は頭からその炎の円に飛び込んで剣を大きく振るった。


『コンビクラフト!万里同風(ばんりどうふう)!!』


 俺の振るった太刀の斬撃が風のように巻き上がりエマの炎を飲み込んで巨大な旋風になった。


「なにっ……!?」


 本物の銀らしき奴が防御に入る、だがその旋風は銀の分身を飲み込んで炎上させた。本物もふき飛ばされて氷も全て溶かされる。


「私の氷が……!」
「姉さん、少しやりたい放題が過ぎますよ」
「ッ!?」


 ヴィータの背後に回り込むエマ、その速さは通常時の5倍は早かった。


「ぐっ、奴は何処に……?」


 銀は体勢を立て直しながら地面を転がり直に迎撃態勢に入る、だが……


「……ッ上!?」
「遅い」


 既に太刀を上段に構えていた俺は勢いよく振り下ろす。


「はああぁぁぁっ!!」
「きゃああっ!!」
「業炎撃!!」
「ぐあっ!!」


 エマの渾身のビンタがヴィータの頬に突き刺さる、それと同時に俺は銀に業炎撃を放つ。銀は喰らう直前に後方に向かって地面を蹴ってダメージを抑えていた。


「……あっ」


 だが仮面に傷が入ったようでそのまま割れてしまい俺の前にその素顔をさらした。奴の動きが止まった今がチャンスと太刀を構えて時雨を放つ。


「……えっ」


 だがその顔を見て俺は奴の顔の目の前で太刀を止めてしまった、何故なら……


「リーシャ……?」


 その顔は俺が共和国で親友になった少女、リーシャ・マオその人だったからだ。


「ッ!!」


 硬直した俺の顔を目を見開いて悲しげに睨むリーシャ、直ぐに煙幕を張って身を隠してしまった。


「リーシャ!!」


 俺は太刀を振るい煙幕を晴らすがもう彼女の姿は何処にもなかった。


「まさか、そんな……リーシャがあの銀……!?」


 信じられなかった、あの優しくて綺麗なリーシャが伝説の銀だったなんて……


 だが見間違えるわけがない、あの顔は間違いなくリーシャだった。


「……はぁ、勝手に帰るなんて我儘な子ね」


 ヴィータは溜息を吐きながらドレスに付いた汚れをはらっていた。


「もう止めよ、私は直接戦闘は苦手なの。剣の打ちあいなんて御免だわ」
「そっちから仕掛けておいて勝手に終わらせるつもりか?逃がすわけ無いだろう」
「姉さん、貴方が何を考えているのか今日こそ教えてもらいます」
『あんたもいい加減観念しなさい』


 俺とエマは逃げようとするヴィータに太刀と爪を向ける。


「迎えに来たぞ、ヴィータ」


 だが背後から聞こえた声に俺は硬直してしまった。


「レオンハルト……!?」


 そこにいたのはロランス少尉……ではなく剣帝レオンハルトだった。


「あら、タイミングピッタリね。私の危機に駆けつけてくれるなんて流石私のダーリンね♪」
「戯言を言うな。そもそもお前は今回の計画には何も関係ないだろう、呼び出された俺の身にもなれ」
「それでもなんだかんだ言って来てくれるじゃない、私の事が好きなんでしょ?」
「くだらん」


 レオンハルトに駆け寄って寄りかかるヴィータ、だが奴はそれを片手で押しのけながら俺に視線を向ける。


「久しぶりだな、リィン・クラウゼル。正直驚いたぞ、お前が今日まで生き延びるとは思わなかった」
「それはあんたの目が曇っていただけじゃないのか」
「ふん、減らず口を」


 俺は軽口をたたきながらも太刀を構えようとする。


「止めておけ、唯でさえお前は一度俺に敗北している。ヴィータと銀の戦闘で消耗した体で本気で俺に勝てると思っているのか?」
「ッ……」


 その言葉に俺は何も言い返せなかった。鬼の力ももうすぐ終わる、とてもじゃないがこんな化け物を相手にする余力はない。


「今日はお前の相手をするつもりはない、俺はそこの我儘女を連れに来ただけだ」
「……」


 悔しいがエマもいる以上これ以上深追いは出来ない。


「一つ教えろ、お前達の過去はエステルがヨシュアから聞いた。そしてそれは俺達にも共有されている。お前の目的は世界への復讐か?」
「ああ、そうだ。カリンの受けた痛みをこの世界に刻み込む、それが俺とヨシュアの願いだ」
「ならそれは不可能だな。エステルがヨシュアを救うだろうしお前は俺が倒す」


 俺はそう言い切った。なんでこんなにもレオンハルトを気にするのか正直俺自身にも今まで分からなかった。


 勿論負けたことが悔しいというのもあった、でもそれだけじゃないとも思っていた。


 だがようやくそれが分かった、俺はこの男の姿が自分に重なって見えるんだ。


(俺は過去に好きだった女の子を守れなかった……もしフィーや団長たちがいなかったらこの男のようになっていたかもしれない)


 俺はエレナを失ったあの時を思い出した、無力な自分に絶望して力を追い求めた。


 だが俺には正しく導いてくれた人がいた、側で見守り支えてくれた子がいた。だから修羅にならなかった。


 この男はもしもの自分だ、だからこの男に勝ちたいと思うんだ。過去の弱かった自分を乗り越えたいから……


「そんな無様な姿でよくも大口を叩けるものだ」


 レオンハルトは持ってきていた札のようなものを地面に投げる、すると魔法陣が現れた。


「お前が最後まで生き残っていたら相手をしてやる。もっともそんなことは無いだろうがな」
「エマ、貴方を子ども扱いするのは今日限りにするわ。後は好きにしなさい、でも私を追うと言うのなら覚悟はしておくことね」
「姉さん!」


 二人はそう言うとその魔法陣にのって消えてしまった。俺とエマも後を追おうとしたが直ぐに消えてしまう。


「結社の奴らはこの空間を自在に出入りできるのか」


 どうやら俺達みたいにここの支配者を倒さなくても出入りは出来るみたいだな、まあ奴らが作った空間なんだから当然なんだろうが。


「あっ……」


 その時だった、エマが姿を元に戻してふら付いた。直ぐに駆け寄って彼女を支える。


「エマ、大丈夫か?」
「は、はい……ちょっと立ち眩みがしただけです……」
「人獣一体は体に大きな負担を与えるわ、暫くは魔法が使えなくなるでしょうね」
「あっ、セリーヌ」


 そこにエマと分離したセリーヌが姿を見せる。


「魔法が使えないってどのくらいだ?」
「まあ1週間は無理でしょうね、エマは人獣一体を完全に使いこなせていないの」
「そうなのか、それなのにあんな無理をさせてしまって……俺がもっとつよ」
「それ以上は駄目ですよ」


 エマが俺の口に人差し指を当てて言葉を遮った。


「リィンさんはそうやってすぐに自分のせいにしようとするんですから、私はやりたくてやったんです。そんな事を言わないでください」
「……ははっ、ごめんよ」


 ぷんすかと頬を膨らませるエマに俺は苦笑しながら謝罪した。


「そういえばあんた、あの銀って奴と知り合いなの?」
「ああ、俺とフィーの友達だ。正体はさっき知ったがな」
「まあ、そうだったんですか」
「あんた女難の相でも出てるんじゃないの?知り合ってる女とトラブルを起こし過ぎじゃない?」
「俺に言われても……」


 俺は頬を掻きながらある事を決めた。


「二人とも、済まないがリーシャの事は誰にも言わないでくれ」
「はぁ?何を言ってるのよ。敵の正体が分かった以上情報を共有するのは当然でしょう?」
「そうだ、その通りだ。だがそれではリーシャが危ない。銀を恨む人間は星の数ほどいる」


 裏社会の伝説とまでなった暗殺者、銀……その正体がリーシャだとバレれば必ず報復に動く者は現れる。それだけの命を奪ってきたのが銀なんだ。


 勿論リーシャが全てやった訳じゃない、恐らく銀は襲名していくものなんだと思う。だがそんな事犠牲者の家族が知った事ではない。


 全ての恨みがリーシャに向くのはあまりにも危険すぎる。


「頼む、リーシャを危険に晒したくない」
「あんた馬鹿じゃないの!敵の……もごっ!?」
「分かりました、リィンさんがそうおっしゃられるのなら私は従います」
「すまない。お詫びに今度何でも言う事を聞くよ」
「あら、本当ですか?じゃあその時を楽しみにしていますね♡」
「お、おう……」


 騒ぐセリーヌを抑えながらエマが了承してくれた。俺はお礼に何でも言う事を聞くと言うと彼女は可愛らしい笑みを浮かべた。


 でも何故か冷や汗が出た。


「さて……」


 俺は動けなくなっていたカメレオンのような魔獣に視線を向ける。


「動けない奴をいたぶるようで気が進まないがお前を倒さないと出られないんだ、すまない」


 俺はせめて痛みを感じないように一太刀で首を切り落とした。


 すると空間に亀裂が走り歪んでいく。


「元の世界に戻りますね」
「早くみんなと合流しないとな」


 そして俺達は眩い光に飲み込まれていった。
 
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