英雄伝説~西風の絶剣~
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第99話 リィンとエマ、再会せし暗殺者と歌姫
前書き
今回出てきた魔獣はイース8に登場するモンスターです。最後あたりに出てきたカメレオンはボスの『クラリオン』をイメージしていますのでお願いします。
side:リィン
新たな特異点に巻き込まれた俺はエマと共に脱出を図っていた。俺達は険しい山を登りながら特異点を生み出している元凶を探している。
切り立った崖に生えているツタを登り落ちてくる大岩を回避して崩れる足場を飛び越え魔獣の猛攻を凌ぎ……アイゼンガルド連邦を重装備を身に付けながら登る特訓をしているとはいえ結構キツいな。
「はぁ……はぁ……」
「エマ、大丈夫か?」
「さ、流石に疲れました……」
魔女の一族とはいえそこまで体力がある訳じゃないエマは息を切らしていた。
「疲れや疲労もだけど高山病も大丈夫か?」
俺は空気が薄くなった山の上にいるので高山病を心配する。
「それは大丈夫です、魔法で空気の膜を纏っていますので高山病にはなりませんよ」
「そうなのか。便利なんだな、魔法って」
「流石に何でもできるわけではないですけどね」
エマは得意げにそう言って胸を張った。すると大きな胸がプルンと揺れて思わずそっちに目が行ってしまう。
「なに見てんのよ」
「いったぁぁぁっ!?」
すると俺の頭に飛び乗ってきたセリーヌが爪を立ててきた。
「なにするんだ!ハゲたらどうするんだ!」
「こんな時に邪な事を考えるのが悪いのよ。エマ、この男には気を付けなさい」
「あら、私ならいつでも歓迎しますよ♡」
「ちょっとエマ!」
俺は頭を抑えつつセリーヌに文句を言う、その後エマと何か話していたみたいだけど頭の痛みに気を取られて聞き取れなかった。
「……ったく人間は直ぐに色ボケするから嫌なのよ。さっさとこんな場所おさらばするわよ」
「はいはい」
ぷんすかと怒るセリーヌを宥めながら俺達は上を目指して登っていく、そして遂に頂上付近まで来ることが出来たんだ。
「エマ、恐らくこの上に特異点を作ってる魔獣がいるはずだ」
「はい、気を引き締めて行きましょう」
俺達は戦いの準備を指定を決して頂上に駆け上がる。
「あれ……なにもいない?」
だがそこに魔獣の姿はなかった。
「おかしいな、これまでのパターンだと一番上に元凶がいると思ったんだけどな」
「馬鹿と煙は高い所が好きっていうからね、あんたのことなんじゃない?よく高い所に行くし」
「確かに俺は高い所によく行くな……おい、俺を馬鹿だって言いたいのか?」
「ふんっ」
俺はセリーヌを睨みつけるが彼女はそっぽを向く。
「リィンさん、こちらに来てください」
エマは山の反対側を見下ろしていた、俺もそちらに向かうが……
「マジかよ……」
俺の眼前には山の下に広がる森や草原が広がっていた。つまりこの山はこの特異点のほんの一部でしかなかったという訳だ。
「流石にこんな広い所を徒歩で移動してたら体力が持たないぞ……」
俺はそう言って溜息を吐いた。こうしてる間にもフィー達に何か起こるかもしれないしさっさと脱出したいのだがこれはかなり骨が折れそうだな。
「リィンさん、ここはこれを使いましょう」
エマはそう言うと何か板のようなモノを取り出した。
「エマ、それは?」
「これは『グリンブルボート』という人を乗せて移動できる魔法具です。これを使って一気に駆け下りてしまいましょう」
「魔道具?」
「魔女が使う便利なアイテムだと思ってください」
俺はエマからグリンブルボートという魔道具を受け取る。
「どうやって使うんだ?」
「地面に置いて両足を乗せれば自動で固定されます」
「こうかな……うおっ!?」
ボートに両足を乗せるとカチャッと音がしてまるで金具で固定されたように足が吸い付いた。そしてボートが浮かび上がり宙に浮かぶ。
「わわっ……一体どんな原理なんだ?」
「このボートは『マナ』という自然の力を使って浮いているんです。この世界には精霊が存在していて私達は彼らから力を借りることが出来るんですよ」
「そんな力があるのか、全く知らなかったな」
「精霊信仰が盛んだったころはもっと人々に認知された言葉だったのですが、今では導力技術が発達した影響で使われなくなった言葉なんです」
「なるほどな」
俺は精霊やマナという言葉に聞き覚えが無く首を傾げる、エマが言うには精霊信仰という文化があったようだが今では無くなってしまったみたいだ。
まあ今の時代に精霊を信じる人間はほとんどいないだろうな、エマが言ったように導力革命以降それに頼り切りだし信仰自体も七輝教会の方が圧倒的に多いし。
「でもリィンさんもよく体勢を保てていますね、乗りこなすのは結構難しいのですが……」
「昔団の皆とやった『スノーボード』に似てるからかな?なんか乗れたよ」
「スノーボード?」
「雪山で行われているスポーツでこんな感じのボードに乗って雪山を滑り降りるんだ」
「そんなスポーツがあるんですね、リィンさんは博識ですね」
「エマほどじゃないけどね」
俺は昔スノーボードをやった経験があるからグリンブルボートに乗れたんだと思った。
懐かしいな、ゼノに馬鹿にされてムキになってスノーボードを練習して何度も転んだんだよな。ゼノは団長に雪だるまにされてたしフィーと一緒に雪兎を作って遊んだっけ……
「よし、そろそろ行こうか。エマのボードは?」
「それがその一つしかないんです。しかも私は乗りこなせなくて……だからリィンさんに運んでもらいたいのですがいいでしょうか?」
「俺は別にいいけど……体に触れてもいいの?出会って少ししか立っていない男に体を触れられるのって嫌じゃない?」
「リィンさんの事は信頼していますので全然平気ですよ」
「そう?それならいいけど……」
「そもそも今更じゃないの?前にエマにお姫様抱っこしてたんだし、あんたみたいなスケベな男が建前取り繕っても滑稽なだけよ」
「いちいちうるさいな」
俺は体に触れても良いのかと尋ねるがエマは笑みを浮かべて問題ないと答えた。信頼してもらえて嬉しいな。
セリーヌに小言を言われたが俺は気にせずエマに手を差し伸べる。
「じゃあエマ、おいで」
「お願いしますね」
俺はエマをお姫様抱っこで持ち上げる、女の子って本当に軽いな……
「私はここに乗るわ、あんたがエマに変な事したら爪を立ててやるから」
「信用無いな……」
セリーヌは俺の頭に乗っかってくる、ペシペシと頭を叩くのは止めて欲しい。
「よし、行くぞ!」
俺はグリンブルボートを発進させて山道を下っていく、これは爽快だな!
「凄いな!こんな便利な道具があるなんて!風を切って進むのが凄く気持ちいいぞ!」
「はしゃぎ過ぎよ、あんた子供?」
「15歳なんて子供だろう!あはは、もっと加速するぞ!」
「こ、こら!あまり調子に乗らないでよね!?」
「うふふっ」
快適な操作性にスピードを簡単に出せる加速力、俺はグリンブルボートの速度を上げながら魔獣を回避しつつどんどん下に向かって降りていく。
セリーヌは落ちないように頭にしがみついている、でもすごく不機嫌そうだ。
エマはそんな俺達を見て笑っていた。
「ガァァァァァッ!!」
「なんだ?」
「横から何か来るわよ!」
すると凄まじい方向が聞こえ横の崖の上から何かが数体落ちてきた。それは蜥蜴のような姿をした生き物だった。
「あれはドラゴンタイプの魔獣か?さっき襲ってきた大きい奴より小型だが……」
「キシャアアッ!!」
蜥蜴のような魔獣は口から光弾を放って攻撃してきた、俺はそれをボートを斜めに動かして回避する。
「危ないなっ、ぐっ……!」
すると他の魔獣も攻撃を仕掛けてきた。一体が噛みついてきたので回転して体を低くしながら回避する、するともう二体が横に来て同時に飛び掛かってきた。
「このっ!」
俺は大きくジャンプして二体の頭をボードで踏みつけてやった、その隙にエマが青い炎を放ち魔獣を攻撃する。
だが魔獣たちはケロッとした様子でこちらを追いかけてくる。多少は火傷したみたいだがお構いなしっ手感じだな。
「あいつらも硬いのか!」
「この鋼のような皮膚……もしやあの魔獣は『古代獣』でしょうか?」
魔獣の硬さに俺が驚いているとエマが又聞きなれない言葉を呟いた。
「古代獣?なんだい、それは?」
「古代獣というのはかつてゼムリア大陸に存在していたという魔獣の種類です。その硬い皮膚はあらゆる攻撃を防ぎ地上を支配していたとお婆ちゃんの書庫にあった古い書物に書いていました」
「そんな存在がいたのか……おっと!」
飛び掛かってきた魔獣を回避しながらエマの説明を聞いていく。
「でも今はそんな古代獣なんて言葉は聞かないけど……レアな魔獣なのか?」
「いえレアとかじゃなくて今のゼムリア大陸には存在していないんです。かつて地上を支配していた彼らですが突然その姿を消してしまったんです、原因は定かではありませんが絶滅したとされています。隕石が衝突した余波で、氷河期という全てを凍らせる時代が来た、古代獣を凌駕する存在が現れ駆逐されていった……など様々な説があります」
「なるほどね、普段ならロマンがあって凄く興味が湧くけど今はそれどころじゃないな!」
俺はエマの説明を聞き古代獣という生き物の事を理解した。
「でもなんで絶滅したはずの魔獣が存在して襲ってくるのよ!?」
「さぁな、そんな事はこの空間に連れてきた結社に聞いてくれ」
セリーヌはなんで絶滅した魔獣が襲ってくるんだというが、俺に言われても分からないよ。
とりあえず攻撃が効かないのなら逃げるしかないな、俺は魔獣たちの攻撃を回避しながら途中にあった洞窟の中に逃げ込んだ。
「しつこい奴らね……あら、この匂いは……不味いのが来るわよ!」
「ああ、俺も殺気を感じた。エマ、捕まってろ!」
「えっ……きゃあっ!?」
俺はグリンブルボートの勢いを上げながら上にあった鍾乳洞にワイヤーを引っかけて大きく移動する、すると俺達が先程いた場所の地面から何か鋭い突起物が出てきて何かが姿を現す。
「マジかよ……」
それは先程の蜥蜴のような魔獣を遥かに凌駕する肉体を持った大きなドラゴンのような魔獣だった。血走った目でこちらを睨みつける。
「ゴォォォォォォオオオオオオッ!!!」
空気を震わせるような咆哮を上げると凄い速度で俺達を追いかけてきた。
「リィンさん、あれは肉食タイプの古代獣です!その獰猛さは先程の魔獣たちとは比べ物になりません!」
「ああ、絶対にこちらを食い殺してやると言わんばかりに殺気を放っているからな……!」
大型の魔獣はその巨体から想像もできない跳躍力を見せて俺達を押しつぶそうとした。
「ふっ!」
俺はボードを加速させて踏み付けを回避する、だが魔獣は今度は顔の先端に付いた鋭い突起物を振りまわして俺達を攻撃してきた。
その威力は凄まじく大きな岩を簡単に両断してしまう程だ。
「イセリアルキャリバー!!」
エマが光の剣を放つがビクともしない、全て無傷で弾かれてしまう。
「ゴアアア……」
「マズイ!!」
魔獣が大きく息を吸い始めた、俺は猟兵の感が何かヤバいことをしてくると感じてボードを素早く横にスライドさせた。
「ガアアアァァァァッ!!」
すると魔獣の口から恐ろしいほどの熱量を持った炎のブレスが吐かれた。エマが防御用の結界でカバーしてくれたがそれでも火傷してしまうんじゃないかと思う程に熱い!
直撃は避けたが危なかった、炎のブレスが当たり溶解した岩壁を見て俺は唾を飲みこんだ。
「あれが直撃したら私の結界なんて簡単に焼き尽くされてしまいます……!」
「また来るわよ!」
「マズイ、直線の道だ。回避が出来ないぞ!?」
エマは炎のブレスの威力に自身の結界など意味は無いと冷や汗を流す。
すると魔獣は再び息を吸い込み始めセリーヌがまた来ると叫ぶ、だが今進んでいる道が狭い直線になっていて先程のように回避が出来ない。
「エマ、少しごめん!」
「えっ……きゃああっ!?」
俺はエマを肩に米袋を担ぐように持ち上げる、そして懐から手榴弾を取り出した。
「エマ、もう一回イセリアルキャリバーを頼む!」
「わ、分かりました!」
俺はエマにイセリアルキャリバーを放ってもらう、だがそれは全て弾かれてしまい魔獣は炎のブレスを吐こうと口を開き……
「油断したな、とっておきをくれてやる」
俺はイセリアルキャリバーの陰に隠して投げた手榴弾を見てニヤリと笑みを浮かべた。それは綺麗に魔獣の口の中に入り……
ドガァァァァンッ!!
その瞬間凄まじい爆発が魔獣の体内で巻き起こったんだ。
「どうだ!対大型魔獣用の威力の特性手榴弾だ!」
俺は得意げにそう言い放った、滅茶苦茶ミラがかかるんだけどそんなこと言ってる場合じゃないからな。
だが魔獣は口内を傷付けたようだがまだまだピンピンとしていて怒りの咆哮を上げる。
「嘘でしょ!?いくらなんでも硬すぎるんじゃないの!?」
「でも時間は稼げた、一気に逃げるぞ!」
俺はボートの速度を一気に上げて魔獣から逃げる、そして洞窟を抜けて外に出る。すると目の前には切り立った崖と大きな大樹があったんだ。
「ちょっと!目の前は崖よ!」
「このまま突っ切るぞ!」
「はぁっ!?死ぬつもり!」
「魔獣のエサになるよりはマシだ!」
「あ~もうっ!リベールに来てからこんな事ばっかりじゃない!」
「セリーヌ、覚悟を決めましょう!」
「エマまで……こうなったら私も覚悟を決めてやるわよ!」
後ろから追ってくる魔獣を見てセリーヌも観念したようだ。
「行くぞ!!」
俺はせり上がって斜めになった岩場を使い大きくジャンプした、魔獣も大きな口を開けて俺達を追いかけてジャンプする。
「ガアアアアッ!!」
「残念でした、じゃあな」
「ガアッ!?」
魔獣は口を閉じて俺達を食おうとしたがそれを体をひねって回避する、そして魔獣の頭をジャンプ台にして更に大きく飛び上がった。
「はあっ!」
俺はワイヤーを伸ばして大樹の枝に引っ掛けた、そして枝の上を滑るように移動していく。魔獣は地面に叩きつけられて体をピクピクと震わせていた。
「あれで死なないとかどんだけタフなのよ……」
「でももう追いかけてこないだろう、さあ先に行くぞ!」
まだ生きていた古代獣の生命力に引いたセリーヌ、でもあの様子ならもう追いかけては来ないだろう。
俺はその後森林地帯を抜けて草原を駆け抜けていく。
「山から結構離れた草原まで来たけど特異点を生み出してる魔獣は見つからないな、まさかさっきの古代獣がそうだったのか?」
「いえ、それは違うと思います。魔女の感と言いますかなんとなくですが特異点を生み出している魔獣は分かるんです」
「猟兵の感みたいな奴か」
どうやらエマには特異点を生み出している魔獣が感覚で分かるみたいだな。流石に先程の古代獣を相手にするのは嫌だったから助かった……
「ッ!リィンさん、あちらの方角から何か感じました!」
「あれは古い都市か?」
エマが指を刺した方角には崖が有りその上に古い建物が並ぶ人が住んでいたような集落のような場所があった。
「よし、あそこに行ってみよう」
「えっ、どうやって行くのよ?高い崖の上にあるのよ?」
「あいつを利用させてもらおう」
俺は水場で首を下ろして水を飲んでいた大きな生き物に目を付けた。
「ちょっと、あんたまさか……」
「行くぞ!」
「待ちな……にゃあああっ!」
何かを察したセリーヌが俺を止めようとしたが俺は構わずに加速した。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
そして古代獣の尻尾から体を登っていき首から頭まで滑っていく、そして頭の上で大きく跳躍した。
「キシャアアアアッ!!」
頭を踏まれた大型の古代獣が咆哮を上げて隕石を降らせてきた。リベールにも隕石を降らせる鳥の魔獣がいるけど威力は桁違いだな。
俺は隕石を予め駆除していたアーツのクロックダウンで速度を落とす、そしてエマのエアリアルで風を背中に受けて一気に加速した。
そして背後ですさまじい大爆発が起こったが俺達は無事に逃げることが出来た。
―――――――――
――――――
―――
「バカバカバカ!あんたと一緒にいたら命が幾つあっても足りないわよ!」
「無事に逃げれたからいいじゃないか」
「そういう問題じゃないでしょうが!バカ!」
「悪かったって……」
毛を逆立てて怒るセリーヌを宥めながら俺達は古い建物が並ぶ集落を進んでいた。
「ここは町だったみたいですね、人々が生活をしていたような面影が残されています」
「ああ、とっくに滅びているみたいだけどな」
先を歩いていたエマは古い建物に触れながらそう話す。
「ところでエマ、さっき君が感じた気配みたいなものは何処から感じたんだ?」
「向こうからします」
エマは自分が感じた気配がする方角を指差した、そこには立派な橋の先に大きな建物が立っていたんだ。
「あれはお城……王宮って奴かな?凄く立派な建物だけど……」
「リィンさん、その前に何かが倒れていますよ」
「行ってみよう」
エマが何かを見つけたようなので俺達は橋を渡って大きな建物の側に行く、するとそこには大きなカメレオンのような生き物が何か体に札を付けられて倒れていた。
「リィンさん、この魔獣から特異点を生み出している気配を感じます」
「コイツが……でも何で傷だらけなんだ?それにこの札は一体なんだ?」
「それは対象を金縛りにする護符だ」
「ッ!?」
俺は動けなくなった魔獣が傷だらけなのと体に張り付けられている護符を見て警戒をする。すると頭上から声が聞こえたのでそちらに視線を向けると……
「銀……!」
「久しぶりだな。リィン・クラウゼル」
大きな建物の上に以前戦った暗殺者『銀』の姿があったんだ。
「ふっ!」
銀は大きく跳躍すると俺達の前に降り立った。狙いはやはり俺か?
「あの魔獣はお前が縛り付けたのか?」
「ああ、奴が死ねばこの空間は消える、だから邪魔をされないように動きを封じさせてもらった」
銀は殺気を放ちながら静かに大剣の柄を握った。
「今度は失敗しない、確実に死んでもらうぞ」
「望むところだ!」
出会って早々に武器を構える銀、俺は直に太刀を抜いて戦闘態勢に入る。
「リィンさん、私も戦います!」
「エマ……分かった、援護を頼む」
「はい!」
エマも杖を構えて俺の横に並ぶ、一瞬迷ったが早くここを出るためには銀をどうにかしないといけない。ならエマに協力してもらった方が確実だろうと判断する。
「私のターゲットはその男だけだ、邪魔をするなら命乞いしても殺す」
「そんな脅しで逃げません!私だって覚悟してここにいるんです!」
「なら共に死ね……」
銀と俺達が今まさに激突しようとしたその時だった。
「あらあら、私の可愛い妹を殺されたら困るのよね」
「えっ……」
突然綺麗な女性の声が聞こえてその声を聴いたエマが驚いた表情を浮かべる。そして銀の近くに魔法陣が現れてそこから蒼いドレスのような衣装をまとった女性が姿を現した。
「久しぶりね、エマ」
「ね、姉さん……!」
エマはその女性を姉と呼んだんだ、まさかエマの家族なのか?
「エマ、あの女性は君の姉なのか?」
「実の姉ではありません、お婆ちゃんに引き取られてお母さんとも共に魔女として修行した弟子の方です。私も実の姉のように慕っていました」
エマは俺にあの女性について教えてくれた、要するにエマやイソラさんと同じ魔女という事か。
「なんのつもりだ。お前は見ているだけと言っただろう?」
「私の妹を殺すと聞いて黙ってみてはいられなかったの。貴方こそターゲットはそこの男の子でしょう?」
「邪魔をするなら殺すと忠告はした。従わないならそいつが悪い」
女性は銀に圧をかけながら俺の方に視線を向ける、だが銀は臆することなくそう返した。
「そういえば貴方とは初対面よね。私はヴィータ・クロチルダ。エマと同じ魔女で彼女の姉代わりをしていたの」
「あっ、ご丁寧にどうも。リィン・クラウゼルです。エマにはお世話になっています」
「なに呑気に返事を返してるのよ!」
自己紹介するとセリーヌが怒ってきた。つい返事を返してしまった……
「ヴィータ!あんた、巡回魔女としての使命を放棄して今までなにをしていたのよ!エマがどんなに心配したか分かってんの!?」
「あらあら、相変わらず騒がしい子ね。姉妹の再会に水を刺さないで頂戴」
「ぐっ、本当にムカつく女ね……!」
セリーヌが怒りながらそう言うがヴィータと呼ばれた女性は何処吹く風といったように流していた。
「……ひとつ聞かせてくれ。貴方は結社の関係者なのか?」
「ええそうよ。これでも蛇の使徒の第ニ柱を任されてるわ」
「大物じゃないか!」
「姉さんが結社の……」
俺は蛇の使徒であることを知り驚愕する。銀と普通に話せていること、この場に現れたことで結社の関係者なのは察していたが……
「じゃあこのリベールで暗躍してる執行者たちに指示を出しているのは貴方なんですか?」
「それは違うわ、今回の計画は私が最も嫌う男が担当してるの。私は別の計画の……コホン、ちょっとお喋りが過ぎたわね」
俺はこのリベールで洗脳してクーデターを起こさせるなどという胸糞悪い作戦を立てたのは貴方かと聞く、するとヴィータは顔を歪めて違うと話した。
よほどその人物が嫌いなんだなと俺は察した。あれは演技とは思えなかったからな。
「姉さん……今までどこにいたんですか?お母さんやお婆ちゃんも心配していたんですよ?勿論私だって……なのにどうして結社なんかに……」
するとエマがヴィータに今まで何をしていたのかと尋ねる。
「それについては申し訳ないと思っているわ。ただ里に戻るつもりもないの、私は自身が仕えるべき人を見つけた……それだけは言っておくわ」
「そんな……」
ヴィータの戻らないという発言にエマはショックを受けていた。
「本当なら今日貴方に会う気は無かったの。でもまさか貴方がリベールにまで来るほどの行動力を見せるとは想像もしていなかった。これも貴方の影響かしら、リィン君?」
「俺……?」
すると何故かヴィータは俺の方に話をしてくる。
「貴方はイソラさんの命を救ってくれた、この事には感謝しているわ。でも私の観測では貴方はこの先の未来、様々な存在に影響を与えていく。そしてそれらに関わった人物も全員含めて不幸になり貴方は破滅する……そんな未来が見えたわ」
「破滅する未来……」
「そんな危険な人物の側にエマを置いておくわけにはいかない、だから私は姿を見せてまでエマを止めに来たの」
破滅する未来と言われてもピンとこない、まあ今更そんな事を言われても絶望するほどメンタルは弱いつもりはないけど。
「エマ、貴方はこんなところにいるべきじゃないの。直に里に戻って魔女として更に修行を積みなさい、貴方は私やイソラさんを超える逸材になるはずよ。良い子だから……」
「お断りします」
「……今なんて言ったのかしら」
「断ると言ったんですよ、姉さん」
エマの発言にヴィータの纏う空気が変化した、明らかに不機嫌になってるな。
「……エマ、私は貴方の為を想って行ってるのよ?」
「それは理解しています、姉さんはいつだって私の事を案じてくださってくれました。それを理解して断ると言ったんですよ」
「貴方はとっても聞き分けの良い子だった、なのにどうしてそんな事を言うのかしら?もしかしてその子に何かされたのかしら?」
「まあ影響は受けましたね」
「えっ!?」
エマの発言に身に覚えのなかった俺は驚いてしまった。俺は一体何をしたんだ……!?
「最初こそお母さんを助けてくれた恩を返したいって思いでした。でも今は違います、直ぐに無茶をするこの人の事を放っておけなくなってしまったんです」
エマは俺の顔を見るとニコっとほほ笑みながらそう言った。前に泣かせてしまった事もあるしエマにこんなに心配させてしまって申し訳ないな……
「リィンさん、念のために言っておきますけど心配や同情とかそういった感情で貴方の側にいる訳じゃないですからね?」
「あ、はい……ごめんなさい」
(まったく……朴念仁なんですから)
何故かエマから凄い圧を感じたので謝ってしまった。
「そもそも姉さんだって自分の好きに生きているじゃないですか。それなのに私にだけ言う事を聞けだなんて都合がよすぎないと思いませんか?」
「……確かにその通りね。でも今回だけは力づくでも言う事を聞いてもらうわよ」
「望むところです」
エマもヴィータも杖を構えて戦う姿勢を向ける。
「銀、貴方のサポートをしてあげるしエマも抑えてあげるわ。だからその子を殺しなさい、そういう依頼なんでしょう?」
「……言われるまでもない」
「エマ、相手は伝説の暗殺者に蛇の使徒の一人だ。死ぬ気で挑むぞ!」
「はい……!」
俺はエマと共に構える。普通は逃げた方が良いのだがここは奴らのテリトリー、逃げられる可能性はかなり低いだろう。
それに前に会ったアリアンロードよりはまだ戦えると思ったんだ。当然油断は全くできないが何もしないで殺されるつもりはない。
そして俺とエマ、銀とヴィータの戦いが幕を開けようとしていた。
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