インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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臨海学校二日目
翌日。二日目は一日中ISテストのために時間を使われる。
「ボーデヴィッヒが遅刻なんて珍しいな」
「そうだね~」
俺と本音はそんなポカをしたボーデヴィッヒの『ISのコア・ネットワークについて』の説明を聞いていた。その説明に納得したのか、彼女はなんの罰もなかった。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
返事とともに俺は自分で指定された場所に移動する。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「……はい」
織斑先生が篠ノ之を呼んだ。というか嫌な顔をするな。
「お前には今日から専用―――」
「ちーちゃ~~~~~~ん!!!」
大声を挙げて誰かがこっちに向かって走ってきた。いや、誰かじゃない。絶対に篠ノ之束だ。
そして進路上にまだ―――簪さんがいた。
「大丈夫か?」
「あ……うん」
危なかったのでちょっと救済。あれだけの速さで走っていたら怪我はするだろうからな。
「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―――ぶへっ」
それを織斑先生は片手で受け止め、アイアンクローを使用する。
「うるさいぞ、そして邪魔だ、事故の下だ。とっとと消えろ」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ―――って、それより扱い酷くない?」
「知るか」
あ、威圧感が半端ない。
ヤツはそこから離れて岩場の影に隠れている篠ノ之の方に移動した。
「やあ!」
「………どうも」
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」
―――がんっ!
「殴りますよ」
「な、殴ってから言ったぁ……。し、しかも日本刀の鞘で叩いた! 酷い! 箒ちゃん酷い!」
いや、さっきからこっちを見て『ブキヲヨコセ』と言っているのを見て今のはほんのちょっとの配慮はあると思う。というか鞘なんだからいだろう。
「え、えっと、この合宿では関係者以外―――」
「んん? 珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」
「えっ、あっ、はいっ。そ、そうですね……」
山田先生が説得を試みるも、見事に轟沈。
「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」
「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」
途端に俺から殺気が滲み出る。ああ、こいつか。こいつが……
「かざみん」
「………何だ?」
本音の方を見ると、本音は悲しそうな目でこっちを見ていた。
俺は軽く頭を撫でてあげる。
「か、風宮君、大丈夫?」
俺の様子がおかしいことに気付いたのか、クラスメイトがこっちに来た。
「ああ。俺は大丈夫だ」
「な、何かあったら言ってね」
「あ、じゃあ一つだけ。篠ノ之が専用機を受け取っても恨まないでやってくれないか? ほら、あの(自称)天才(笑)は一夏の鈍感さと同レベルだから」
その言葉に納得したのか、周りから仕方ないという顔が見えた。
(まぁ、さっさと結ばれないのは自業自得な気がしなくもない)
『それは言わないほうがいいですよ』
―――ズズーンッ!
いきなりの地響きに俺たちは焦るが、すぐに納まった。
そして原因地を見ると、そこには銀色の菱形があり、そこから真紅の装甲を纏ったISが現れた。
「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」
(あの人って、本当に一夏レベルだな)
『ですね。自分の妹があんな機体を扱えると思っているんでしょうか?』
あの人の技術を二年遅れだが認める―――が、いくらなんでもどうかと思う。
「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」
「……………」
「どうしたの、箒ちゃん」
「………いえ、なんでもありません」
そしてチラッとこっちを見た。その目に写っていたのは一夏と一緒に戦える嬉しさと、何の努力もしていないのにという後悔だった。
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で―――」
「はやく、はじめましょう」
「ん~。まあ、そうだね。じゃあはじめようか」
すぐに作業が開始された。
そして作業が終わった頃だろうか、群衆の中から批判な声が上がったが、篠ノ之束がそれを封じる。狡いとか以前にその機体だとほとんどの人間が扱いきれないんだがな。
「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」
「え、あ。はい」
一夏は言われるがままに白式を展開した。
「データ見せてね~。うりゃ」
白式の装甲にコードを刺し、データを閲覧していた。
「ん~・・・・…不思議なフラグメントマップを構築しているね。なんだろ? 見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?」
ちなみにフラグメントマップはISの遺伝子という考えでたいていは通る。
「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺と祐人がISを使えるんですか?」
「ん? ん~……どうしてだろうね。私にもさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すればわかる気がするけど、していい?」
「いいわけないでしょ……」
「にゃはは、そう言うと思ったよん。んー、まあ、わかんないならわかんないでいいけどねー。そもそもISって自己進化するように作ったし、それに―――サンプルはもう一個あるしね」
その言葉に織斑姉弟と篠ノ之が咄嗟に向いて逃げろと目で語る。
だがそれをお構いなしに篠ノ之束がこっちに来た。
「ねぇ、ISを展開しなよ」
「……別にいいですけど」
俺は諦めたように少し離れてディアンルグを展開した。
「う、嘘……」
「早い……代表クラスじゃない?」
そんなことはどうでもいいんだよと思った。
そしてそいつはコードを刺すと、
「え? あれ?」
何故か疑問声。
そしてしばらくするとスペックデータが現れた。
「……なんだろ、まぁいいや。それにしてもこのフラグメントマップはいっくんとも違うね。まぁいいや。今から分解すればいいんだし」
そう言って俺を掴もうとしたところで視界から消えた。
「……大丈夫か?」
「あ、はい。まぁ、なんとかなってよかったです。最悪の場合は殺してましたから」
「軽々しく口にするな。今回は自業自得とはいえ、な」
そう。織斑先生が天災を蹴り飛ばした。女とは思えないほどの凄い威力だ。
そして気を取り直してか知らないが紅椿の性能テストを見ていると、
「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」
山田先生がいつもより慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
山田先生が小型端末を渡し、それを見た織斑先生の顔が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で稼働していた―――」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみませんっ……」
「専用機持ちは?」
「さ、更識さん以外は動けます……」
簪さんの名前が出て以降は俺たちの視線に気付き、手話でやり取りをしていた。
「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」
「了解した。―――全員、注目!」
その声に近くにいた生徒たちは一斉に振り向く。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働はは中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」
そして疑問の声があがるのを無視して織斑先生は本音の方に移動した。
「布仏、お前は荷物を持って谷本たちのいる部屋に移動しろ」
「は、はい!」
なるほどな。一人じゃさみしいから移動させるということか。
そして周りが行動しないので声を上げる。
「とっとと戻れ! 以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
「「「はっ、はいっ!」」」
「専用機持ちは集合しろ! 織斑、オルコット、風宮、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――それと、篠ノ之も来い」
「はい!」
やっぱり専用機がもらえて嬉しいか。
だけど、それが少しばかり不安だった。
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