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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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第一部 皇都編
  第二十七章―双剣―#7


※※※


 ディンドは、愛剣を横薙ぎに振るい、一息に2頭のオークの首を刎ねた。続けて、アーシャの双剣によって片手剣を持つ利き腕を斬り落とされたオークの首を狩る。

 ハルドが足止めしていたオークの脳天に、間近のオークを片付けたヴァルトが両手剣を叩き込む。

 ディンドたちを囲もうと動くオークに、セレナの氷刃が降り注いだ。頭を貫かれて数頭のオークが倒れる傍ら、致命傷を免れたオークに、ディンドたちが、それぞれ斬りかかる。

 何頭目かのオークの首を斬り飛ばした瞬間、ふと視界が陰って────異様な気配を感じたディンドは、咄嗟に右方向に跳んだ。つい一瞬前までディンドが立っていた場所に重い一撃が叩きつけられて、砂と土が飛び散る。

 振り向くと、そこには────全長3mはある魔物が佇んでいた。

(まさか────変異種か?)

 逆光でシルエットにしか見えないが、どうやらオーガらしい。

 おそらく、8頭いるオーガの変異種の1頭だろう。叩きつけられたのは棍棒のようだが────影に沈んでよく判らない。

 魔物の数が大分減ってきているこの状況で、変異種が出て来たこと自体は別におかしなことではない。むしろ、出て来るのが遅すぎるくらいだ。

 だが────何故このタイミングで出て来たのか、ディンドは疑問に思う。

(魔獣の指示か…?)

 セレナの氷刃が変異オーガへと注がれ、ディンドは思考を中断する。今は考えている場合ではない。

 変異オーガが両腕を振り上げ、両手で握った棍棒を左右に大きく振るって、氷刃を弾き飛ばした。

 ディンドは【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動して地を蹴り、変異オーガに向かって奔る。腕を振り上げ無防備となった変異オーガの胴を斬るべく、ディンドが大剣を走らせたそのとき────変異オーガがディンド目掛けて棍棒を振り下ろした。

(速い…!)

 思ったよりも、変異オーガの動きが速い。ディンドは、強引に腕の力で剣の軌道を変え、大剣を振り上げて────再び【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動させて、それを受け止める。
 その感触に、ディンドは違和感を覚えた。それを突き詰めようとしたとき、ヴァルトがディンドの右側へと奔り込み────金属が擦れるような音が鳴り響いた。

 目線だけを動かすと、ディンドが相手にしているものとは別の───やはり3mほどに巨大化した変異オーガとヴァルトが斬り結んでいる。ヴァルトは、ディンドと同様、【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動しているらしく───変異オーガの膂力に負けることなく拮抗している。

(もう1頭いたのか…!)

 いや────変異オーガは8頭いるはずだ。もっと出て来る可能性もある。これは、早いところ討ち取ってしまった方が良さそうだ。

≪先にこの変異種2頭を討つ。アーシャは俺の援護を───ハルドはヴァルトの援護をしてくれ≫
≪はい!≫
≪解りました!≫
≪セレナは、俺たちの隙をつこうとする魔物たちの牽制を頼む≫
≪はい…!≫

 指示を出し終えたディンドは、対峙している変異オーガに意識を集中させる。

 棍棒を砕くつもりで、腕に力を入れて変異オーガの棍棒を押し返そうとした。ぴき────と微かな音をディンドの耳が拾う。それは、変異オーガの持つ棍棒からではなく────ディンドの愛剣が発した音だった。不意に支えとなっていた大剣が砕けて、ディンドは前のめりになる。

「っ!?」

 変異オーガは、棍棒を押し止めていたものが無くなったことに気づき―――ディンドを叩き潰すべく、棍棒を振り被った。

「ディンドの旦那…!」

 ヴァルトの焦った声が聴こえたが、ディンドはそれを気にする余裕はない。

 アーシャが両手にナイフを取り寄せ、変異オーガの顔面に向かって放つ。変異オーガは、ディンドに振り下ろさず、襲い来る2本のナイフを弾くために棍棒を振るう。
 ディンドはその隙に、後ろに跳び退りつつ、折れた愛剣を予備の大剣に替える。

 ナイフを叩き落とした変異オーガは、一歩踏み出しただけで開いていた間合いを一気に詰め、今度こそディンドを叩き潰そうと棍棒を振り下ろす。

「【防衛(プロテクション)】!」

 咄嗟に【防衛(プロテクション)】を発動させたものの、やはりと言うべきか、棍棒によって魔力の盾は掻き消された。

 棍棒を避けるために【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動しようとしたが、間に合わず────ディンドは、大剣で受け止めるしかない。

「ヴァルト!!」

 切羽詰まったハルドの声につられて無意識に視線を走らせると────ヴァルトに、変異オーガが棍棒を振り下ろそうとしていた。ヴァルトの両手剣は、半ばから折られてしまっている。

 ヴァルトは、予備の両手剣と替えるべく、【換装(エクスチェンジ)】を発動させた。間一髪、剣を交換することに成功し、ヴァルトは振り下ろされた棍棒を両手剣で受け止めたが───体勢が調っていなかった上に、【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動することも叶わず、変異オーガの膂力によって弾き飛ばされた。両手剣も耐えられなかったらしく、半ばから折れていた。

「ヴァルト…!!」

 ディンドが思わず声を上げた、そのとき────変異オーガの棍棒を受け止めていたディンドの大剣が折れた。

「っ!!」

 ディンドと対峙する変異オーガが、ディンドの大剣を叩き折って下がった棍棒を振り上げた。ディンドは、半ばから折れて短くなった剣を翳した。

 当然、それでは変異オーガの棍棒を止めることはできず────ディンドは、折れた大剣ごと身体に棍棒を叩きつけられ、ヴァルトと同じように弾き飛ばされる。

 受け身はとれたが、何処か痛めたみたいで、痛みに阻まれてすぐには起き上がれない。

 何とか起き上がったディンドの目に入ったのは、同じく立ち上がったヴァルトに襲い来る変異オーガの姿だった。

 ヴァルトは、ケガしているのか左足を地に着けていない。加えて、両手剣を折られている。これでは、変異オーガを迎え撃つことなどできるはずもない。

 援護すべく、ヴァルトの許へ向かおうとしたが、思ったよりケガが酷いようで身体が旨く動かなかった。

「くっ、まずい…!」

 ヴァルトを目掛けて、変異オーガの棍棒が振り下ろされる。だが────そこに、ハルドが滑り込み、棍棒を受け止めた。

 ハルドはすでに【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動させているようで、変異オーガの膂力を何とか押し止めているが、撥ね返せそうにない。

 ディンドもヴァルトも動けない中、アーシャが変異オーガに向かって双剣を投げつけた。【身体強化(フィジカル・ブースト)】で強化された腕で放たれた双剣は、勢いよく変異オーガへと迫る。

 変異オーガはハルドに打ち付けていた棍棒を引き揚げ、アーシャの剣を弾こうと振るう。アーシャは、剣が棍棒に触れる寸前で、ふたつの剣を呼び戻す。

 そして、いつの間にかアーシャに詰め寄っていた、もう1頭の───先程までディンドが相手取っていた変異オーガが振り下ろした棍棒を、両手に戻した双剣でいなした。真正面から受け止めることはせず、双剣で軌道を逸らすにとどめる。

 アーシャはまた【身体強化(フィジカル・ブースト)】を発動して───後方へと跳びながら、対峙する変異オーガを目掛けて、双剣を投擲する。アーシャに追撃しようとしていた変異オーガは、飛んでくる双剣に慌てて棍棒を宛がう。

 アーシャは、またもや、棍棒に当たる寸前で双剣を取り寄せると、今度はハルドに攻撃をしかけている変異種に双剣を投げた。

「ジャンナ!」

 続けて、白い双剣を呼び寄せて、アーシャはそれを自分に襲い来る変異オーガに投げつけ────ハルドと対峙する変異オーガへと投げた双剣を取り寄せ、また投げつける。

 アーシャは、交互に双剣を呼び戻しては投擲することを繰り返し、2頭の変異オーガをハルドにも自分にも寄せ付けない。それも、ディンドやヴァルトのように剣を砕かれることを恐れてか、棍棒と接触する寸前を狙って、呼び戻している。

 このアーシャの動きには、ディンドもヴァルトもハルドも呆気にとられた。
 日々の手合わせで、才覚がある子だとは思っていたが────ここまでとは。

(しかし────このままでは、いずれ行き詰まる。どうするべきか…)

 2頭もの変異オーガを寄せ付けないアーシャの手腕は、確かに眼を(みは)るものではあるが、攻撃はできていない。

 ディンドもヴァルトも、ケガをして動くに動けず、その上、剣を折られて攻撃手段がない。ハルドはまだ剣を折られてはいないが、巨大化した変異オーガを討つには技量が足りない。

 攻性魔術を放つことも考えたが────まだ数えるほどしか発動してみたことがないだけでなく、発動も遅いディンドやヴァルトでは、素早く動き回るあの変異オーガにリゼラやジグのように巧く当てられるとは思えなかった。
 下手をしたら、主たちの魔力を(いたずら)に消費した上、アーシャの足を引っ張る破目になる。

(そもそも、あの棍棒は何だ?何故────リゼラ様に【防衛(プロテクション)】をかけてもらった剣を折ることができる?)

 月明かりが逆光となって、変異オーガ本体の影に紛れて、よく解らなかった。形としては所々に凹凸がある歪な棍棒だ。それに────まるで金属かと思うほど、やけに硬かった。

 【解析(アナライズ)】をかけてみても、情報が出てこない。

(古代魔術帝国の【記録庫(データベース)】には、情報がないということか?)

 あの棍棒について何か解れば、打開策が見つかるかもしれないのに────そう思うものの、どうしようもない。

(クソ────どうすればいい…?!)

 ケガの痛みも相俟って、ディンドが焦燥に駆られたそのとき────不意に、左方向から何かが飛んできた。

 それは空を斬り裂きながら、真っ直ぐ変異オーガの頭部へと向かっていく。それを危険だと判断したのか、左側の───ディンドの愛剣を折った変異オーガが、アーシャの白い双剣諸共、身体を後退させて避ける。

 見えないそれは、そのまま飛んでいき、今度は右側にいた変異オーガに迫る。変異オーガは避けずに、アーシャが放った双剣ごと弾き返すべく棍棒を振るう。

 アーシャの双剣は、例によって棍棒に当たる寸前で消え失せ────見えないそれは、棍棒によって掻き消された。

「ジャンナ」

 アーシャは、変異オークに避けられ遠くに飛んでいった白い双剣を呼び寄せる。グローブをつけた掌に魔術式が浮かび、白い双剣が歪んで見えたかと思うと、魔術式に吸い込まれるようにして消えた。

 2頭の変異オーガは、アーシャよりも見えない何かを放った者を警戒しているらしく、左方向に正面を向ける。おかげで遮られていた月光が差し込み───先程までは逆光で影に沈んでいた棍棒が、ようやく明らかになった。

 変異オーガ2頭と対峙する形となった────見えない何かを放った者が視界の端に映る。それは、アーシャの白い双剣と似ている細身の剣を携えた────レナスだ。

≪時間がないので端的に言う。あの黒い棍棒は、【霊剣】で───ハルドとアーシャの剣ならば折られることはないそうだ≫

 レナスが、2頭の変異オーガから眼を逸らさずに、【念話(テレパス)】で告げる。

≪ハルド、アーシャ────まだ、やれるか?≫
≪やれます!≫
≪はい!≫

 ハルドもアーシャも疲労を感じているだろうに────それでも、二人の返事に澱みはない。

≪ディンド様とヴァルトは、一先ず邸へ≫

 ディンドは、まだ成人もしていない年少の二人を残して、矢面に立つべき大人である自分が、一時的とはいえ撤退することを不甲斐なく思いながらも────レナスの言葉に頷くしかなかった。

≪すまん。ここを───二人を頼む≫
≪お任せを≫

 【往還】を発動すべく、ディンドは痛む身体を駆使して腕時計に手を伸ばす。同じく不甲斐なさそうに表情を歪めたヴァルトも、【往還】を発動させる。

 ディンドとヴァルトの足元に展開した二つの魔術式から迸った眩い光が、瞬く間に視界を塗り潰して─────

「行くぞ────ハルド、アーシャ」
「「はい!」」

 レナスの掛け声と、それに対するハルドとアーシャの力強い応えだけが、ディンドとヴァルトの耳に残った。


※※※


≪先にこの変異種2頭を討つ。アーシャは俺の援護を───ハルドはヴァルトの援護をしてくれ≫
≪はい!≫
≪解りました!≫
≪セレナは、俺たちの隙をつこうとする魔物たちの牽制を頼む≫
≪はい…!≫

 セレナは、ディンドからの指示に【念話(テレパス)】で返すと────短杖を握り直して、改めて現状を確認する。

 やはり、オークやオーガ、それにコボルトは───2頭の変異オーガと対峙するディンドたちを襲う様子はない。ルガレドたちの状況を窺うと、同様で───どちらも周囲を取り巻いているのみだ。

 集落潰しの際、ロードが出て来ると───オーク、オーガ、コボルトに拘らず、魔物たちは遠巻きに見ているだけでロードの戦いには決して手を出さない。

 ロードは、戦い始める前に必ず雄叫びを上げる。だから、それは、魔物たちがロードの雄叫びに委縮してしまうからだと謂れていたが────今ディンドたちが対峙している変異オーガは雄叫びを上げていないところを鑑みると、もしかして、何か別の理由があるのだろうか────と、そんな疑問がセレナの頭を過る。

「む?」

 突然、ヴァイスが声を零して、セレナたちの前に躍り出た。ヴァイスの純白の長毛が淡い光を纏ったかと思うと、ぶわり、と逆立ち────辺りに漂う魔素が、引き寄せられるようにヴァイスの許へ集っていく。

「?!」

 不意に、ヴァイスの正面に広がる空間が歪んだように見えて────セレナは眼を瞬かせた。

 それは決してセレナの錯覚などではなく────徐々に歪みは疑いようがないほど大きくなっていき、ついには裂けるようにして空間が割れた。

「っ!!」

 二対の濁った眼がこちらを向き、セレナは息を呑む。

 裂け目の向こうには────2頭のオーガがいた。
 それも、3mを超すほど巨大化した変異種だ。おそらく、今ディンドたちが相手にしているものと同じ────8頭いるオーガの変異種のうちの2頭に違いない。

 だが、これは一体どういう状況なのか。

(【転移門(ゲート)】のように、離れた空間を繋げている────ということ…?)

 2頭の変異オーガは器用にその巨体を屈めて、裂け目を潜り抜け────こちらへと身を乗り出した。

(まさか────こちらへ来るつもりなの…?!)

 セレナに戦慄が走る。変異種は魔獣よりも劣るとはいえ────間近で相対するとなると、セレナにとっては脅威には変わりない。

 変異オーガが足を地に着ける直前、ヴァイスが動いた。周囲に留めていた魔素を、変異オーガに向けて一気に放つ。幾つもの魔素の塊が、空を斬るように、変異オーガに向かって飛んでいった。

 それを目にして、セレナは冷静になる。

(今は怯んでいる場合じゃない…!)

 セレナは表情を引き締めると、短杖に魔力を流し始めた。きっと、この魔法だけでは、あの2頭の変異種を討ち取ることはできない。

(今のうちに、魔術の発動準備をしておかなければ─────)

 “氷姫”に魔力が行き渡ったのを感じて、セレナはあの2頭に放つ氷刃の造形に意識を集中させる。

 セレナの予感通り────2頭の変異オーガは裂け目を跨いでいる状態にも関わらず、それぞれ右手に持った黒い棍棒を振り回して、ヴァイスの魔法を掻き消してしまった。

()()()()()()か!厄介なものを…!」

 ヴァイスが、魔素を集めて次の魔法を放つより速く────変異オーガは、両足を跨がせ、こちら側へと踏み出す。

 2頭の変異オーガが、完全に裂け目から出て来た瞬間────セレナは、魔術を発動させた。セレナの眼前に、無数の魔術陣が浮かび、氷刃が次々と射出されて────変異オーガ2頭へと向かっていく。

 自分が放った無数の氷刃を眼で追ったセレナは、2頭の変異オーガの背後で、じわじわと閉じゆく空間の裂け目の向こう側を視界に捉え────眼を見開いた。

 そこには────変異オーガ数頭が立ち並んでいた。どの変異オーガも、その手には漆黒の棍棒を持っている。

 だけど、それよりも目についたのは────変異オーガたちの前に立つ、オーガだ。巨大化している変異オーガに囲まれているせいで、小柄なように錯覚してしまうが────おそらく、身長は2mに届くくらいはある。そこだけを見ると何の変哲もないオーガだ。

 違和感を掻き立てるのは────その漆黒の毛色。濃淡はあれど、魔獣化しようが変異種となろうが、オーガは総じて茶色い毛色をしている。しかし、そのオーガの毛色は────変異オーガが持つ棍棒のような黒だった。

 黒いオーガは、まるで変異オーガたちを従えるように佇み、濁った眼でセレナを見ていた。感情が見えないその眼差しは冷たく、セレナをぞっとさせた。

「呆けている場合か、娘!来るぞ!」

 ヴァイスに叱責されて、セレナは我に返る。意識を変異オーガに戻すと、セレナの放った氷刃の最後の一本が棍棒によって薙ぎ払われたところだった。

 すかさずヴァイスが魔法を放つが、先程同様、どちらにも黒い棍棒に掻き消される。難なく障害を(はら)った2頭の変異オーガは、その大きな歩幅で以て、それぞれヴァイスとネロの眼前に立ち塞がった。どうやら、セレナは後回しのようだ。

「やはり、狙いは我とネロか」

 ヴァイスは、次の攻撃のために魔素を引き寄せながら、呟いた。

 いつの間にか起ち上っていたネロも、威嚇するようにその小さな身体を(しな)らせ、光を帯びた黒毛を逆立てる。

(いけない…!ネロさんの【索敵】が途切れたら、殿下やリゼラさんが戦況を確認できなくなる…!)

 短杖を握り締めると、セレナは意を決して────ネロの前に出た。そして、正面に佇む変異オーガを見据えて、背後に立つネロに振り返ることなく告げる。

「あのオーガは、私が何とかします。ネロさんは【索敵】に集中していてください」

 ネロは、数舜だけ、セレナの背中をじっと見つめてから────引き寄せ始めていた魔素を解放して、いつもの無邪気な声音で返した。

「わかった。それじゃ、セレナにまかせるね」
「はい…!」
 
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