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ボーイズ・バンド・スクリーム

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第12話 熱狂的な生き物2匹

 
前書き
おつマグ!みなさんこんばんはー!今回はセルビアンナイトでトゲトゲがライブする前日の話です!それでは、どうぞ! 

 
「おう。早かったじゃないか」

「急に呼び出してすみませんでした。そのイヤホン、私とお揃いですね」

「気にしてないよ。そっか。河原木のファンとお揃いって嬉しいな」

桃香と水族館に行った翌日。大学の講義が終わった後、仁菜から連絡があり合流した。瑞貴はソニーのイヤホンを愛用しているが仁菜もそうらしい。歩きながら話をし、喫茶店に入る。

「えっと、その…明日って、お時間ありますか?ライブやるんですけど」

「いいよ。チケット何枚残ってんの?」

「3枚です…」

「俺と、健斗は暇だな。俊哉さんも、たぶん行けるか…3枚とも買うよ」

「あ、ありがとうございますっ!」

仁菜は上擦った声で頭を下げる。最近は減少傾向だが昔からあるライブハウスはチケットノルマをバンドに課すことがある。彼女は人見知りのようなので自身から声をかけるのは勇気がいることだっただろう。桃香かすばるあたりに背中を押されたのかもしれないと瑞貴は推測する。

「仁菜ってボーカルだろ?この前のライブ、いい声だった。河原木が気に入るのも分かるよ。同じボーカルとして切磋琢磨していこうな」

「ありがとうございます!ふふっ、おんなじ顔してる」

「ん?」

「あっ、なんか笑った顔が桃香さんに雰囲気似てるなって。言われたことありません?」

「ないよ。けど、そっか…今年1番嬉しい褒め言葉かも」

「…本当に桃香さんが好きなんですね。そ、その、お返事ってもらいました?」

「まだだな。ま、今は会えただけで十分かなって」

「でも桃香さん、この前『禁酒しようかな』って言ってましたよ。絶対、瑞貴さんのこと意識してますよね?お酒、嫌いなんですか?」

「ああ。俺のこと虐待してた親父が酒クズでな…飲んでみたものの吐いちまって。飲めないなー、酒は」

「えっ…なんですかそれっ?なんで瑞貴さんがそんなことされなくちゃいけないんですか!」

「両親が離婚して。俺の顔が母親似だったからかな?怒りや悲しみをぶつける場所が他になかったんだろうな…」

「なんでそんな冷静に話せるんです?おかしいじゃないですか?!ひどすぎますっ、そんなのっ!」

瑞貴の身の上話を聞いて怒りを露わにする仁菜。冷静でいるように見えたが、テーブルの上で組んでいる両手が微かに震えていることに気づく。仁菜は瑞貴の手を自身の手で優しく包み込んだ。

「瑞貴さん…」

「ははっ、情けないだろ?」

「大丈夫です。怖くないですよ…私がそばにいるので安心してください」

仁菜は真剣な表情で瑞貴に語りかける。瑞貴は手の震えが徐々になくなっていくのを感じた。仁菜はそれを察したのか、そっと手を離した。膝の上に手を置いて、もじもじしている。人見知りと聞いていたので瑞貴のために勇気を出して手を差し出してくれたのだろう。

「ありがとう。話してみて思ったんだけどさ。仁菜は素直で良い子だし、本当に可愛いな」

「かっ?!かかかっ、かわっ?!」

瑞貴は仁菜に対する素直な気持ちを話す。仁菜は狼狽して言葉が上手く出て来ないようだ。

「う〜。誰かれ構わずそんなこと言っちゃダメです!桃香さんに怒られちゃいますよ!」

「誰にでも言ってるわけじゃねぇよ…」

「あ、瑞貴さん赤くなってる。照れてるんですか?」

「うっ、うるせぇな…」

「ふふふっ」

瑞貴は頬杖をついて、そっぽを向く。口調や仕草、表情の雰囲気がどことなく桃香と似ている、と仁菜は思った。桃香が男っぽいのかもしれないが。

「あの、瑞貴さん…この前はすみませんでした。私、態度悪かったですよね?」

「別に気にしてないよ。ま、河原木のファンに悪いやつはいないって」

「ですよね!その…瑞貴さん、お願いがあるんですけど」

「何?」

「たまに、こうやって話しませんか?桃香さんのファン同士」

「いいよ。俺も語れるやつがなかなかいなくて困ってたとこ。仁菜みたいな子なら大歓迎」

「やった!」

仁菜は喜びでガッツポーズをした。そして、どちらからともなく顔を合わせて笑い合う。元ダイヤモンドダストのボーカルこと河原木桃香のファンとして。バンドのボーカルとして。瑞貴と仁菜は互いを同志のように感じるのだった。 
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